第39話 パンツが一枚、二枚
翌日の事。
例年通り何のイベントも発生せず、ただ炎天下で運動する人間たちを眺めるだけの体育祭を終え、午後五時半。
俺は瑠汰のマンションの玄関前でスマホを眺めている。
今から行われる打ち上げとやらに参加するため、わざわざお迎えに参上したのだ。
なにせ瑠汰はこの町に来て日が浅い。
店の位置も把握していないため、案内してやる必要があるのだ。
というわけでやってきたのだが、中々出てこない元カノさん。
着いてすぐにインターフォンを押したところ、もうちょっと待っててと慌てた声で言われた。
準備に手こずっているらしい。
そういえば、うちのJKも気合を入れていたな。
帰ってすぐに入浴して入念に体を洗い、髪の毛もセットしなおしてなんやらかんやらと大忙しだった。
触れると危なそうだったので、リビングの隅で脱衣所兼洗面所と自室を往復ダッシュする妹を眺めていたのだが、途中で『じろじろ見るな。気が散る。焦る。キモい』との確定即死コンボを頂いた。
なぜなのか。
なんて思い返して泣いていると、玄関が開く。
「お、やっとか……って!?」
「ちょ、ちょっとごめん!」
「あらららら」
準備完了しているのかと思いきや、ダボッとしたオーバーサイズの半袖シャツ姿の瑠汰に家に引き込まれた。
急に連れて入られ、俺はいまだに玄関に放置されているゴミの山に足を引っかけてこけた。
「いってぇ」
「ごめん!」
倒れた態勢のまま、謝る瑠汰を下からのアングルで見る。
……うーん。
そこには夢にまで見た真っ白な太ももと、見えてはいけないものがバッチリとあった。
「あのさ」
「なに?」
「なんで下履いてないんだ?」
彼女はズボンやスカート、何でもいいが下着の上に何も履いていなかった。
そう、要するにパンツのみという事。
「……ッ!」
恐らく着替え途中で焦っていたのだろう。
そして人間は究極のショックを受けると、声すら出ないらしい。
その場で顔を真っ赤にしてしゃがみ込む瑠汰を見ながら、俺は何事もなかったようにそっと家を出た。
しばらく待つと、再び玄関が開いた。
今度はショートパンツを履いている。
迎える彼女の頬はまだ若干赤かった。
「ごめん、さっきのは忘れて……」
「……おう」
俺は今平気で嘘をついた。
好きな子の下着姿なんて忘れられるわけがない。
だって俺、童貞だもの。
ごめんなさい。
と、心の中で懺悔している俺を他所に、またも腕を引っ張ってくる瑠汰。
「ちょっと来て!」
「ど、どうしたんだ」
「蜘蛛が出たんだよ!」
「あぁ……」
どうやら虫を見つけて焦っていたらしい。
仕方ないなと思って一緒に家に入る。
彼女の案内でリビングに入ると、正面の壁にすぐに小さな蜘蛛を見つけた。
「標的ってあれ?」
「うん……」
「ティッシュで潰せよ」
「無茶言うなキモすぎるって!」
「……」
知らなかったが、どうやら虫が嫌いなようだ。
「早く! 追い出して!」
「はいはい」
俺もそこまで虫系は得意じゃないんだけどな。
ただまぁ、横でラフな格好の元カノに懇願されればやる気は出る。
俺はティッシュで蜘蛛を捕まえると、そのまま玄関から逃がした。
家に戻ると瑠汰が言ってくる。
「手洗って!」
「はいはい」
言われて洗面所に入った。
手を石鹸で洗った後に、用意されたタオルで水気を拭こうとして、とあるものが目に入る。
これは……ダメだろ。
と、すぐにそれの存在を思い出してか洗面所に入ってきた瑠汰が、俺の方に走ってきた。
「いやぁぁぁぁぁ! 見たなぁぁぁあ貴様あぁぁぁぁッ!」
「お前が見せたんだろうが!」
風呂に入った後だったのだろう。
脱衣所でもある洗面所のかごには、先程までつけていただろう下着があった。
今度はパンツだけでなく、ブラジャーまでも。
……家でたまに見る萌夏のモノとはサイズ感が違い過ぎる。
「変態!」
「だからお前が見せたんだろうが!」
顔を赤くして叫ぶ瑠汰に、俺も顔を赤くして言い返した。
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