第27話 同盟戦争開始
瑠汰の写真を撮影してから、準備は滞りなく進んだ。
与田さんと学級委員長の中野さんを中心にしながら、みんなで協力して作り上げる文化祭。
絵に描いたような青春だった。
まさか自分がその当事者になろうとは思わなかったが。
そうしてとうとう文化祭当日がやってきた。
文化祭当日、俺達は最終調整を兼ねて早めに登校していた。
各々話をしたり、飾りつけに手を加えたりしている中、俺は教室の隅の方に縮こまって座っている。
これは別に手伝う気がないから、というわけではない。
単に人の輪に入れないだけだ。
与田さんをはじめとした人達とグループを共にすることで若干話すようにはなったが、こういう時に話しかけに行けるほど打ち解けたわけでもない。
せめて邪魔にならない位置に収まっておこうという俺の意志だ。
と、暇なので隣の窓から外の景色を眺める。
晴れやかな空だ。
きっといい日になるだろうと、そう思わせる何かがある。
「一人でなにやってるの?」
「ん?」
声を掛けられ、上を見た。
そして言葉を失った。
「どしたの呆けちゃって。惚れちゃった?」
「……」
「ちょっと、何か言ってよ。恥ずかしいから」
そこにいたのは瑠汰だった。
それもカラコン装着時の黒目ではなく、青い瞳のナチュラルモード。
「……か、カラコンは?」
辛うじて出た声に、瑠汰は苦笑する。
「いや、みんな黒より青い方が好きみたいだから。それに、写真と違ったら詐欺で訴えられそうだし。パネル詐欺ってやつ?」
「……」
うちのお好み焼き屋台は、別にそういう商売はしない。
あくまで売りはお好み焼き。
瑠汰は付加価値に過ぎない。
「君も可愛いって言ってくれるしさ」
「……俺のため?」
「ち、違うし! 勘違いキモすぎ。これだから陰キャは……ってそういう事が言いたいわけじゃないんだが?」
「……は?」
ド定番となりつつあるやり取りをしながら、瑠汰は俺の隣に座る。
キモいと言いながらべったりで、意味が分からない。
じっと瑠汰の横顔を見ていると、はにかみながら聞いてくる。
「えへへ。どしたの?」
「……」
マジで意味が分からない。
どうしてこんなにもくっついてくるのか。
そしてどうしてこんなに可愛いのか。
落ち着け、三咲鋭登よ。
「……っていうか面白いよな。今日のお前って主役なはずなのに、誰も登校している事にすら気付いてない」
「主役は言い過ぎだろ。やっぱ元は陰の者ですから。君と一緒だな」
「似た者同士ってか」
「えへへ。そうだな!」
「何でうれしそうなんだよ」
相変わらず読めない奴だ。
と、瑠汰は聞いてくる。
「萌夏ちゃんはどうなの?」
「何が?」
「気合入ってるのかなぁと思ってさ」
光南高校一の美少女と名高い三咲萌夏氏か。
今朝の奴は見た感じいつも通りだったけどな。
腹の立つ話だが、あいつは昔から人に注目される事が当たり前の環境で過ごしてきた。
文化祭で顔を売りにするくらい、日常茶飯事なのだろう。
しかし、そういえば一言言ってたな。
「『瑠汰には絶対負けない。覚悟しとけ』って言ってたな」
「……怖いんだが」
「マジで売上狙いに来るだろうから、こっちも全力で行くぞ」
「うん」
頷く瑠汰に、俺は一つ疑念を抱く。
「瑠汰は緊張とかしないのか? こんな目立つ場所に立つのは慣れてないだろ?」
聞くと瑠汰は恥ずかしそうに頷いた。
「確かにそうだよ。ちょっと緊張してる。でもね——」
彼女はそのまま最高の笑顔を俺に向けて言った。
「君が一緒に居てくれるから、大丈夫」
「……そ、そうか」
あまりの眩しさに直視できない。
しかし顔を背けると、今度は窓から差し込む日光にやられた。
くそ、俺が陰キャだからだろうか。
両方向からやってくる光属性に浄化されそうだ。
「……今日は頑張ろうな」
「そうだな。打倒萌夏ちゃん!」
俺達はそう言って手を握り合った。
同盟戦争の開始だ。
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