第25話 おっぱいマウスパッド

「いや、これはさ。ゴミじゃないんだよ!……コレクション的な?」

「いつからのやつだよ。ってこれ、十年前のハードのコントローラーだし」

「あ、ゴミ漁るな!」

「自分でゴミって言ってるじゃないか」


 言ってることが矛盾している。

 まさかゴミ収集家なのだろうか。


「な、なんだよその目。汚い人を見るような目で見ないで欲しいんだが?」

「玄関にゴミ山積みしてるのに?」

「もういいって。さっさとあがれ」


 靴を脱いでいる途中で腕を掴まれ、危うく転倒しそうになった。

 その際俺は、凶器と何ら変わらない不燃ゴミに頭部から突き刺さることになる。


 俺は今日殺されるのかもしれない。

 とりあえず死を覚悟しておこう。


「お邪魔します……あ、食器とかは洗ってるんだな」

「ジロジロ見んな! 恥ずかしいから!」

「この豚のマグカップとか?」

「うわぁぁぁ」


 家の中でも変わらずうるさい瑠汰。

 ジタバタと悶える様は見ていて癒される。

 と、そこで気づいた。


「あれ、今日はカラコン着けてないのか?」

「あ、忘れてた」


 玄関先のゴミに気を取られて気づかなかったが、よく見ると今日の瑠汰は本来の碧眼だった。

 相変わらず綺麗な瞳だ。


「あはは。君相手だから気が抜けてたんだな。今着けてくるからさ」

「いやいい。今日はそのまま撮る」

「マジ?」

「碧眼の方が可愛く映るぞ。お前が嫌ならカラコンでもいいけど」


 しかし瑠汰は首を振る。


「わかった。そのまま撮る。こっちの方が可愛いんだろ?」

「……ッ!」

「あ、ちがっ。べ、べべ別に君の好みに合わせたようとしたわけじゃないんだからな!」

「ま、まぁそうだよな」


 そんなこんなで会話をしながら、瑠汰のメイン居住スペースに案内される。


「うおぉ」


 まず俺を襲ったのは圧倒的な既視感だった。


 部屋の壁に沿うように置かれた本棚にはラノベやら漫画やらがずらりと並ぶ。

 その横の冷蔵庫は無視して、壮観なのは部屋奥。

 PCデスクにガチモノのゲーミングチェア、そして二つのゲーミングPCがある。

 他にもデスク上には色んなゲームのハード機、コントローラーや当然高そうなキーボードマウスも配置。


 萌夏の部屋にそっくりだ。

 奴と違うのは本物感くらいか。

 こっちの方が数倍熟練度が高い。


「ガチだな」

「えへへ、ありがと」


 ガチゲーマーと言われて照れる女はそう多くいないだろう。

 やはりこいつはどこかズレていると痛感した。


 と、俺は視界におかしなものを捉えた。


「ってかなんでおっぱいマウスパッド?」

「え? ぎゃあぁぁぁぁぁぁ! これだけ隠し忘れたぁぁぁあ!」

「これだけ……?」

「いやぁぁぁぁぁぁっ!」


 俺がデスクに近づこうとすると、瑠汰は急いでマウスパッドを引っ掴む。

 そしてクローゼットに走って行った。

 なるほど。


「いかがわしいものは全部そこなんだな」

「あ、やべっ」

「他は何が入ってるんだ?」

「ちょ、マジごめんなさい。ほんとに謝るからやめてくれよぉ……」


 クローゼットを背に、崩れ落ちながらもなんとか座り込まない彼女。

 その様はまるで矢を浴びながら仁王立ちしていた弁慶のよう。

 それほどまでの覚悟で守ると申すか。

 ならば俺はこれ以上追及しまい。


 なんて言うわけないだろ。


「焦り方を見ると、マウスパッドよりもヤバいのがあるのか?」

「ギクッ」

「そうなんだな」

「ち、違うし?」

「じゃあ何故隠す?」

「……」


 瑠汰は観念したように地に尻を付けた。

 そして俺のジーンズの裾を握ってくる。


「お願いします許してください。だって、一人暮らし始めたら興味のあるもの注文しちゃうんだもん……ぐすっ」

「……」


 興味のあるものってなんだよ一体。

 その言葉に俺の興味があふれ出すんだが、どうしてくれるんだ。

 くそ、でもダメだ。

 流石にこれ以上の追及はかわいそうだ。


「わかったよ。誰にでも見られたくないものくらいあるよな。昨日の今日で急に予定入れちゃったし、ごめんな」

「ううん。やっぱ鋭登は優しいな。そういうとこ好きだよ」

「す、好き?」

「ち、違うから……アタシはいつも余計な一言を言っちゃうアホな自分が大嫌いだよ」


 何か小声で言っていたが聞き取れなかった。

 とりあえず俺のことが好きではないことだけ再確認できた。


「で、なんでおっぱいマウスパッドなんて使ってるんだ? 男ならまだしも」

「女の子だって他の子のおっぱいが好きなんだよ。って何言わすんじゃボケ」

「お前が勝手に言ったんだろうが」


 だからなんでこう、俺の元カノって奴は……


 チラリと横の瑠汰の顔を見る。

 若干頬を赤らめたおかげで、瞳の色とのコントラストが魅力的だ。

 マジで可愛い。

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