第22話 顔面バトル

 その週の金曜日のHR。

 先週と同じく文化祭の準備にあてがわれた時間だ。


 一応我ら二年一組はお好み焼き屋台を出すのだが、その際に表で動くのは六名のみ。

 俺達のグループだ。

 これはこの前クラス会議をして正式に決まった。


 渡辺君や与田さんなど、俺以外の五人に異論はなかったが、俺の名前が出た時だけは全員が首を傾げていた。

 若干名から『あんな人いたっけ?』と囁かれる始末。

 うるせえ。てめえらこそ誰だ。


 それはともかくとして、クラス約四十名中六名にしかスポットライトが当たらないと言うのはおかしな話だ。

 当日、他の生徒は校内やこの教室を使ってお好み焼きの宣伝を行う。


 今はそのための教室飾りつけ準備や宣伝ポスター、ビラ、そしてメニュー表などの作成をしている。



「ちょ、ちょっと……これは流石にやり過ぎだと思うんだが?」


 宣伝ポスター(仮)のレイアウトを見て瑠汰が絶句した。

 作成したのはクラス内で一番イラストが上手い山野さんだ。

 知らなかったが、美術部の部長だったらしい。


「嫌だったなら修正します」

「い、嫌じゃないけど……うーん。修正はしてほしいかな」


 控えめに訂正を要求する瑠汰。

 それもそのはず、そのポスターの上部半分には瑠汰の顔写真が貼られる予定になっていた。

 まだ原案の段階であり写真は撮っていないが、いずれ撮る気だったのだろう。


「えー。瑠汰ちんの顔が一番集客力あるって!」

「そ、そんな馬鹿な話があってたまるかい」

「四組はそうするらしいけど」

「流石に草」


 全然笑っていないくせに『草』とか言うな。

 表情を引きつらせる瑠汰に俺は思う。

 きっとネットで『草』と書き込む連中も、画面の前では真顔なのだろうと。


 そしてちなみに言っておくと、四組は萌夏が在籍するクラスだ。

 タコ焼きの宣伝に自分の顔を使うとは、確かに流石である。


「や、山野さんは絵が上手いんだろ? アタシの似顔絵でも描けばいいんじゃないかな? それも恥ずかしいけど」

「却下です。リアル寄りに描くと劣化朱坂にしかならないし、デフォルメすると変にオタク嫌いな方々が敬遠します」

「……でも恥ずかしいって」


 ごもっともな意見に羞恥心だけが残った瑠汰。

 困ったように俺を見てくる。


「ね、三咲君も思うっしょ? 瑠汰ちんのご尊顔を広めるのが一番だって」

「まぁ、萌夏……さん達に売り上げで勝つならそれしかなさそうだな。顔写真には顔写真で対抗ってことか」

「そそ。美少女には美少女でってね。萌夏に勝てる逸材は瑠汰ちんだけ……! 私達光南高校の未来はその大きなおっぱいにかかっているのです!」

「お、おっぱ――何言ってんの!?」


 目を見開いて胸を抑える瑠汰。

 一々反応が可愛すぎる。

 そんな瑠汰に見惚れていると、与田さんに鼻で笑われた。

 なんだってんだよ。


「で、彼氏さんもそう言ってますけど。瑠汰ちんどうすんの?」

「へぁっ?」


 瑠汰は日本語でギリギリ表現できるか否かの声を漏らす。


「か、かかか彼氏?」

「まぁなんでもいいけど。三咲君も瑠汰ちんの顔写真ポスターが見たいって言ってるからさ」

「……見たいの?」

「え、俺に委ねるのかその判断」


 恥ずかしそうに聞いてくる瑠汰。

 俺はここでどう答えるのが正解なんだ?


 見たいか見たくないかで言ったら、見たい。

 それに実際、あの三咲萌夏が体を張って出てきたんだ。

 あいつの性格を知っているが、顔写真を貼られる事に嫌悪感を抱かない人間ではない。

 これは捨て身で勝ちを取りに来ている証拠である。


 萌夏は努力の天才だ。

 奴が本気なら、こちらもそれなりに力を入れなければなるまい。


 だがしかし、こいつはどうなんだろう。

 流石に本人が望まないのに、俺の余計な一言で写真を貼るのはなんだかなぁって感じだ。

 瑠汰の気持ちが一番大事だからな。

 と、そんな事を思っていると。


「見たいんだな」

「え、いや」

「君が何を考えてるかわかってる。見たくないなら即答でそう言うはずだから」

「……」

「わかった。やるよ」


 瑠汰は頷くと、山野さんを向いた。


「そ、その案で良いよ……頑張ります」

「ありがとう朱坂さん」

「おぉ、よく言った瑠汰ちん!」

「えへへ……っておっぱい触んじゃねぇ!」


 頭を撫でていたはずが、いつの間にか胸を撫でられて憤慨する瑠汰。

 女子の絡みというのは、いつも男子にとって夢の光景である。

 っていうか頭を撫でられるのはいいんだな。

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