第20話 陰キャでも仕事はする

 萌夏たちと別れた後、俺達は特に用もなく店内を回っていた。

 既に割り箸やフードパックなどのお好み焼き屋台に必要な品は、買い物かごに入れ終わっている。

 与田さんによって可愛らしい小物も集まったため、完全に用は済んでいるのだ。


「やっべ、連絡来た」


 与田さんはスマホを開いて言う。


「急用でガムテープとカッターがいるらしい」

「今買えばいいな」

「そだね」


 そうして注文通りの品を見つけたが、与田さんはそれを俺と瑠汰に押し付けた。


「二人で先帰ってていいよ」

「え?」

「私たちもうちょっと残ってるからさ。ガムテープは中野ちゃんに渡してくれたらいいから」


 中野ちゃんと言うのは、学級委員長の事だ。


「いいのか?」

「大丈夫だってー。ね? 瑠汰ちんも三咲君と二人でいたいもんね?」

「な、何の話かわからないんだが? アタシは別に—―」

「はいはい。じゃあねー」


 こうしてやや強引に、俺達は四人に別れを告げられた。




 ‐‐‐




「まさか萌夏ちゃんに会うとはなー」

「びっくりしたな」

「ほんとだよ。肝を冷やしたじぇ~」

「なんだそれ」


 どこから拾ってきたネタなのかわからない。

 瑠汰はネットスラングとか、向こうの住人なのが丸分かりな口調を多用するが、たまによくわからないことを言う。


「三咲同士敵視してるなんてアタシが言い出したけど、ほんと面倒な事になったな」

「お好み焼きとタコ焼きで勝負か。敵対状態だな」

「そうそう。それにどっちが美少女か競うって、どう考えても向こうの方がクオリティ高いんだわ。アタシは所詮陰キャのぼっちだし」

「卑屈だな」

「君に言われたらおしまい」


 失礼なことを言う奴だ。


「どう考えても萌夏より瑠汰の方が可愛いよ」

「ッ! ちょ、ちょっと君、滅多なこと言うんじゃないって。殺されちゃうって」

「誰にだよ」

「萌夏ちゃんのファンクラブとか?」

「あー」


 そう言えばこの前本人に聞いたが、そんなのも存在するらしいな。


 俺達は歩道橋を渡りながら学校を目指す。

 わざわざ連絡してきたくらいだし、急いだほうがいいだろう。


「ってかアタシの方が可愛いとか言っておきながら、さっきはあの女子の事見つめてたじゃん」

「あの女子?」

「はと……はと、はとぽっぽ?」

「鳩山さんな」


 アホみたいな間違えをする瑠汰に俺は溜息を吐く。

 こいつの知能は鳩並なのかもしれない。

 ちょっと可愛いと思い、ドキッとした内緒だ。


 と、瑠汰は顔を背ける俺に覗き込んでくる。

 その顔にはニヤニヤとした笑みを張り付けて。

 こいつまさか、今のはわざとだったのか? 恐ろしい奴だ。


「ん? 今照れてる? アタシ可愛かった?」

「うるせーな。で、なんだよ。鳩山さんを見てたらお前になんか不利益があるのか?」

「べ、べべべ別にないし! 鳩山さんを見つめてた君がいやらしくてキモかったの!」

「……」


 いやらしい、キモい。

 そうか……そう見えてたのか。

 だからローキックしたのか。


「え、そんなに落ち込むなよ」

「落ち込むだろ。ってかごめんな。キモかったか……」

「冗談だって。キモくないから! その、か、カッコいいから!」

「そんなどもりながら言うな」


 お世辞がここまでわかりやすいのは異常だ。

 ご機嫌取りはもう少し分かりにくくやってくれ。


 萎えて肩を落とす俺に、瑠汰は横でおかしな挙動をしながら慌てる。

 そして思い立ったように深呼吸した。


「ほんとだよ! だって……そんなキモい奴と付き合ってたわけないでしょ?」

「確かにそうか」

「そうだよ……」

「……うん」

「……」

「……」


 お互いに恥ずかしくなる。

 ぴくぴくと震える目の前のツインテール。

 そして無言の空間。


「は、早く帰ろうぜ」

「……そうだな!」


 俺達は走って学校まで戻った。



 ◇



「お、ありがとう三咲君! 意外と仕事とかやってくれるんだね!」

「どんな最低評価だったんだ俺」


 学校に着くと委員長に喜ばれた。


 陰キャ・ぼっちというのは気を付けた方がいいな。

 あまり個人行動をし過ぎると、協力体制皆無のクズ人間だと勘違いされるらしい。

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