第18話 ……まるでデートじゃん。ふふ

「チャリ使わねーのかよ」

「お前みたいな馬鹿がいるから無理なんだよっ」

「おもんな。しょーもないって、そういうの~」


 渡辺君と与田さんが俺達の前を歩く。

 過去の問題を考慮して百均までは徒歩移動となった。


「この高校の文化祭ってどんなのなんだ?」


 隣を歩きながら聞いてくる瑠汰に俺は考える。

 そう言えば、こいつにとっては初めての光南高校文化祭か。


「日程は二日、そして二日間で出し物が変わる。要するに俺達は一日目の出し物担当だから二日目はフリーで校内を回れるというわけだ」

「俺達って一日目だったのか?」

「らしいよ。さっき学級委員長が言ってたから」

「三咲って意外と他人の話聞いてるんだな」

「ははは。そりゃ聞いてないと後々困るからさ。ほら、ぼっちは聞き逃したら誰にも教えてもらえないから」


 別に普通の事を言ったつもりだった。

 実際、隣の瑠汰はうんうんと同調を示して首を上下に振っているし。

 しかし元原君は引きつった笑みを浮かべる。


「なんか悪いこと聞いたな。忘れてくれ」

「気にするなよ」


 その気遣いが余計にくるんだよ。

 と、瑠汰は掘り下げて聞いてくる。


「で、どんな出し物やってるんだ? 屋台系はあるんだろうけど、ステージでバンドが演奏とかするの?」

「知らない」

「え?」

「去年は空き教室で過ごしたんだ。ほら、教員も緩いから携帯ゲームを持ち込んで。いいだろ?」


 人混みに入るのは苦手だからな。

 実際ステージ発表があったとして、ぼっちが一人で見に行くことはないだろう。

 それに、目立つところには大抵奴がいる。

 学校一の美少女と名高い、あの猫かぶりが。


「アタシも同じ! 前の学校の文化祭サボった!」

「流石気が合うな」

「えへへ。やっぱそうだよな~」


 こんなとこでも意気投合。

 やはり元カノと言うのは素晴らしい存在だ。


「どんな学校生活送ってきたんだお前ら……」


 引き気味の元原君はさて置き、俺達は話を進める。


「ね、今年は一緒に回らない?」

「え、俺と?」

「他に誰がいるんだよっ」

「……でも、別に付き合ってるわけじゃないし」

「ッ! そ、そっか……」


 逆に何故こいつは俺と回りたがるんだ。

 流石にぼっちだからと言っても、男女二人で文化祭を回ったらそれはもうライン越えじゃないか?

 いや、当然俺は一緒に回りたい。

 瑠汰といたらどんなことも楽しめるだろうし、少し文化祭にも興味がある。


 悲しそうに肩を落とす瑠汰。

 心なしかツインテールも元気がなくだらんと下がっている。

 どういう心情なんだこいつは。


「一緒に回って周りからどう見られても、お前が気にならないんなら別にいいけど。俺はお前と回ってみたいし」

「ふ、ふ~ん? そこまで言うなら回ってあげてもいいよ?」

「お前が言い出したのに、なんで俺がお願いしたみたいになってるんだ?」

「べ、別にアタシは君がぼっちで寂しいだろうから気を遣っただけだし?」

「そうかい。それじゃありがたく気遣いに乗じるよ」

「ほんとに? やったー!」


 やっぱお前がぼっち回避したかっただけじゃないか。

 まぁいいや。

 理由はどうであれ、俺と一緒に回るのでこんなに喜んでもらっては嬉しいの極みだ。

 久々のデートだと思って、こっそり楽しんでおこう。


「……まるでデートじゃん。ふふ」

「なんか言ったか?」

「う、うるさい! 独り言」

「ごめん」


 気のせいかな。

『まるでデートじゃん』って聞こえたんだけどな。


 なんて勘違いもみっともないか。


「お前らもう付き合ってしまえよ」


 元原君に呆れられながらそう言われる。

 俺もそうしたいところなんだがな。

 チラチラと俺の様子をうかがう瑠汰に、俺は肩を竦める。

 仮に告白するにしたって、それは俺が脱陰キャできた後の話だ。


 それに、皮肉な事に三年前は付き合っていたんだ。

 元原君の言葉に懐かしさが込み上げてくる。

 あの頃は毎日楽しかったな。


 そんなこんなで感傷に浸りながら、俺達は百均に到着した。

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