第17話 有能グループ+空気

 八月から九月に変わった。

 高校生の九月と言えばイベントの渋滞月である。

 文化祭に体育祭。

 二大イベントが詰まった青春期間だ。


 去年は雰囲気に溶け込み、存在感を消していたが、今年はそうもいかないようである。



 ‐‐‐



「二年一組の売店の売り子、瑠汰ちゃんお願いね!」

「へっ?」


 月曜の放課後、グループで出し物用の段ボールを切ったり貼ったりしていると、学級委員長の女子が笑顔でやって来る。


「ほら、うちお好み焼きを出すじゃん? その時お客さんの相手して欲しいの」

「あ、アタシが!?」

「うん」


 当然と言った顔で頷く委員長。


 二年一組の文化祭の出し物はお好み焼き屋台だ。

 なんでも野球部の元原君は家がお好み焼き屋らしく、秘伝の技とやらを披露してくれるらしい。


「確かに適任かも。やっちゃえよ瑠汰ちん」

「……瑠汰ちんってなんぞ?」

「あれ? 嫌だった。可愛くない?」


 与田さんのナチュラルなあだ名呼びにフリーズする瑠汰。

 恐らく人生であだ名なんて初めてだったのだろう。

 少し笑える。


「屋台って言ってもそんな大きくないからさ、中に入れるのは数人じゃん? 少数精鋭部隊の方がいいの」

「精鋭部隊?」

「元原は料理任せるから当然だけど、イケメンの渡辺、顔が利く与田ちゃん、数字に強い山野さん、そして今飛ぶ鳥落とす勢いで話題の美少女瑠汰ちゃん! ね? 最強の布陣でしょ?」


 確かに強そうなメンツだな。

 しかしあれ? 知った名前しか聞こえなかったような……


 机をくっつけ合った周りを見る。

 ふむ。


「……鋭登は?」


 瑠汰も同じことに気づいてくれたらしい。

 その言葉に学級委員長は『やべっ』って顔をした。

 おーけー十分把握できたぞ。

 何も言わなくて結構です。


「いや……別にこのグループから選んだわけじゃなくて。ただその、人脈とか考えたらね!」

「でも、人脈ならアタシだって……その、ぼっちだし」

「……話題性があるし」

「むぅぅ」


 瑠汰は腕を組んで唸る。

 まるでうちの娘はやらんとか言いだしそうな顔だ。


 と、与田さんが委員長に手を合わせる。


「三咲君も入れようよ。六人は入れるっしょ?」

「……本気?」

「マジだよ」


 委員長が頭を悩ませる。

 計画通りに行かなくて困ってますって顔だ。

 こんな顔をされると俺が悪い事をしている気分になる。

 身の程弁えずに駄々こねてるような。

 考えると恥ずかしくなってきた。


「あの、別に俺は——」

「アタシ」


 屋台スタッフなんかやりたくないと、そう言おうとした時。

 瑠汰が遮る。


「アタシ、鋭登がいないんだったらやらないからな」

「……」


 若干頬を赤らめながら俺を見る瑠汰。

 恐らく、さほど仲良くない奴と狭い空間に閉じ込められるのが怖いのだろう。

 そして俺を頼るのに羞恥心を抱いていると。

 はいはい、俺にはわかってるぞ。


 断固な瑠汰の姿勢に、委員長はしびれを切らす。


「わかったよ、三咲君頼めるかな?」

「任されました」


 瑠汰にお願いされたら断れねえよ。


「よく言えました~」

「ちょっ、やめろ頭撫でんな!」


 与田さんの謎の行動にぎゃあぎゃあ騒ぐ瑠汰を見ながら俺は笑った。


「でさ、早速悪いんだけど、買い物頼めるかな?」


 委員長は続けて言う。


「買い物?」

「割りばしとか紙皿とか、早めに買っておいた方が安心じゃん」

「なるほどねぇ。じゃあ今から百均行くかー」

「与田ちゃんのセンスで飾り付けに使えそうなのもお願い」

「りょーかい」


 仕事を与えるだけ与えて、すぐに自分の所属グループに帰っていく委員長。

 やはり真の上部ってのは自分で行動を起こさないんだよな。

 任務を各々に与えるのが仕事って感じだ。


「おっしゃ、久々にオレのチャリ芸見せるぞ」

「前に先生にバレて怒鳴られたの覚えてないのか?」

「私も怒られるのは嫌です」


 ぞろぞろと連れ立って席を立つ渡辺、元原、山野。

 流れで与田さんが立ち上がると、俺達を見て不思議そうに口を開いた。


「何やってんの?」

「え、あぁ俺達も行った方がいいのか?」

「当たり前。サボる気だったの?」

「いや……」


 サボりだとか云々の前に、付いて行っていいと思ってなかった。

 確かに同じグループだが、元から渡辺君と元原君と与田さんは仲良いし、友達が遊びに行くような感覚だと思っていたのだ。


「ほら行くよ」


 不思議な感覚に襲われながら、俺と瑠汰も彼女らに続いた。

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