第16話 俺とザリガニ

 祖母の家に着き、挨拶を済ませる。

 ばあちゃんはまだ六十代前半と若い。

 今日会っているのは母方で、半年に一度会うくらいの関係。

 と、祖母はそのまま母親との世間話を始めてしまった。


 こうなると暇なので、俺は早速家を出る。


 向かう先は近くにある大きめのドブ川。

 小さいときはよく中に入ってザリガニやらを捕まえたものだ。

 どうせ泊りなので、汚れても問題はあるまい。


 そう思ってドブ川を眺める。

 八月末だという事もあり、若干水位が高いな。

 小さい子供なら近づかない方がいいかもしれない。


「何してるの?」

「お前も来たのか」

「暇だから仕方ないじゃん。話し相手もいないし」


 萌夏は口をとがらせて俺の隣に座った。


「俺の事を話し相手としてカウントしてたんだな」

「そうだよ? お兄ちゃん」

「きっも」

「あんたに言われたくないし。こんな美少女にお兄ちゃんって呼んでもらえるとか、有料ものだからね?」

「はいはい」


 相変わらず自己評価の高い奴だ。

 実際その通りなのがイライラポイントである。

 こいつが『お兄ちゃん』と呼ぶのに千円とっても、ほいほい客が釣れそうで怖い。


「お、あっちザリガニか?」


 ドブの先を見ているとそれらしきモノを見つける。

 近寄ると思った通りアメリカザリガニだった。

 なんとなく捕まえてみる。


「えっ、きも」

「は?」

「ちょ、こっち来ないで」


 ザリガニを右手に装備した俺から萌夏が離れようとした。

 しかし不安定な地面に足を引っかけて転んだ。


「いったぁ……」


 懐かしい光景だ。

 小学校の頃はまだ仲が良く、こうして二人で遊ぶこともあった。

 どちらかと言うと萌夏が俺の後ろをついて来ていたような気もする。

 いつの間に力関係が逆転したのだろうか。


 そう思うと少し意地悪したくなる。


「ザリガニって食えるんだぜ?」

「いやマジで無理無理無理! ねぇぇほんと、ね?」

「はいはい」


 涙目の妹に満足し、俺はザリガニを逃がした。

 萌夏は昔から虫とかそういう類の生き物が苦手だ。


「これで手拭いて」

「気が利くな」

「きったない奴と一緒に居たくないだけ」


 先程のコンビニ飯についていたウェットティッシュを渡してくる萌夏。

 指を拭いた後に、俺は彼女の隣に座る。


「なぁさ」

「何?」

「陽キャになるのにどんな努力した?」

「急にどうしたの? キモいんだけど」

「ザリガニに対するのと同じトーンでキモいって言うな。俺は甲殻類じゃねえ」

「まぁ笑顔と明るい雰囲気と……まずは友達を作ることじゃない?」


 ツッコミを華麗にスルーしたものの、意外とアドバイスをくれる。

 と、俺の問いに萌夏は吹き出す。


「え? ぼっちやめるの?」

「ちょっと頑張ろうかと思って」

「ふーん。あんたが陽キャになるのは構わないけど、私のコミュニティに関わるのはやめてね」

「そうだな」


 俺がイメチェン成功し、晴れて高二デビューを果たしたとしても、萌夏との関係がバレるのはNGだ。

 そう考えると、陰キャのままいても陽キャになっても高校生活はハードだな。


「なんでお前、光南高校を受験したんだ?」


 実は聞いたことがなかった問いを投げかけると、萌夏は気まずそうに顔を背ける。


「あんた馬鹿だったから、成績良いところに行けば離れられると思って。あんたは逆に何でよ?」

「……頭いいとこに行けばぼっちでも浮かないと思って。あとお前がまさか光南高校を受けられる成績まで上げるとも思わなかったし」


 学力は若干妹の方が高かった。

 しかしそれでも精々偏差値60ちょっと。

 74もある光南高校に入学するとは思わなかったのだ。


「ほんと最悪。馬鹿は馬鹿らしく雑魚高校に行ってればよかったのに」

「県内の他の高校生すべてを馬鹿にしたな?」

「あんたに言うだけなんだからいいじゃん」

「それもそうだけど」


 萌夏は口も性格も悪い。

 ただ本気で憎めないのは、彼女の努力を隣で見てきたからだろう。


「あ、そういえばさ」

「ん?」

「あんたが脱陰キャを目指そうとするのは構わないけど、ほどほどにね? 陰キャが陽キャに尻尾振る構図ってマジダサいから」

「……」


 なぜいつも一言嫌味を言ってくるのか。

 

「いつか絶対見返してやるからな」

「楽しみにしてる」


 俺達はそう言って吹き出した。

 まるで少年漫画の主人公とライバルだよ。




 ◇


【あとがき】


 アンケートに答えていただいた方々、本当にありがとうございます!

 まだまだ受け付けておりますので、こちらのコメント欄から送って頂いても構いません。

 とりあえず今のところ、瑠汰の良さを最大限引き出せるような展開に仕上げたいと考えています。

 ご協力本当に助かります(╹◡╹)

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