第15話 妹とのドライブデート(親同伴)

「もう家出るわよ?」

「俺は大丈夫」

「萌夏は?」

「ごめんちょっと待ってー」


 玄関先で母親と共に待つ。

 少し遅れてバッグを持った萌夏が走ってきた。


「おせえよ」

「あんたは知らないかもだけど、女の子は準備に時間がかかるの。ほんと器が小さい」

「だからって玄関前で十分近くも待たせるなよ。それに、女の子って言うならお母さんは既に準備終えてるけど」

「うるさいなぁ。私は——」

「二人とも朝から喧嘩やめて」


 ヒートアップする俺達双子に母親は頭を押さえる。


「あんたたち、いくつまでそうやって喧嘩してるの?」

「「……」」

「ほら、行くわよ」


 呆れたように家を出る母に続く俺と萌夏。

 互いに無言の圧を掛け合いながら乗用車に移動する。


 後部座席に並んで座る俺と萌夏に、母親は溜息を吐いた。


「仲が良いのか悪いのかわかんないね、あんたたち」

「「悪い」」

「ほんと息ピッタリね」

「「……」」


 またもにらみ合う俺達。

 母親はバックミラー越しにその様子を眺めると、苦笑した。


「今日はあんまり喧嘩しないでね、わかった?」

「わかってる」


 今から向かうのは祖母の家。

 祖父は何十年も前に亡くなっているため、ばあちゃんが一人暮らししている家だ。

 久々に見せる孫の顔なんだから、しかめっ面を見せるのは遠慮したい。


「じゃ、行くよ」

「はーい」


 こうして土曜日、俺と萌夏は母親と共に祖母の家に向かうことになった。



 ◇



 祖母の家は車で二時間くらいの距離にある。

 そのため長時間移動となるのだが、時間が余って仕方がない。


 ふと隣を見ると、萌夏が窓の外をぼーっと眺めている。


「何してるんだ?」

「話しかけないで」

「……」


 流石に塩対応が過ぎるのではないだろうか。

 悲しくなったため、スマホに視線を落とした。

 しかしながら連絡先を交換している友達すらいないため、通知が来ているわけでもない。


「で、なに?」


 俯いて自らの孤独をかみしめていると、萌夏が話しかけてきた。


「話しかけるなって言ってたのにいいのか?」

「さっきは音楽聞いてたの。でも寂しそうだから話し相手にくらいなってあげる。どうせ私以外話相手になってくれる人いないんでしょ?」

「……」


 めちゃくちゃウザい。

 黙れと一蹴してふて寝と洒落込みたいところだ。

 ただ、ほとんど事実な上に、今はなんでもいいから暇つぶしの相手が欲しい。


「なんで後部座席に座ったんだ? 俺の隣に座りたかったのか?」


 はじめに乗り込んだのは俺だった。

 萌夏は俺が隣にいることを理解したうえで、後部座席に乗ってきたのだ。


「……前だと知り合いに見られるかもじゃん」

「なるほど。後ろの窓はスモーク濃いしな」

「そそ」


 俺達は学校外でも気を遣わなければならない。

 街で二人一緒に居る所を見られ、関係性がバレるなんて冗談じゃすまないからな。

 割と芸能人みたいな生活を求められるのだ。


 特に俺じゃなく、萌夏が動きづらそうだ。

 俺の場合知名度がないため、そこらを歩いていてもただの通行人Aでしかないが、萌夏だと顔が広まっているせいで一瞬で『三咲萌夏だ!』となる。


「学校一の美少女も大変なんだな」

「……その名も危ういけどね」


 自嘲気な笑いを漏らす萌夏。


「みんな言ってるよ。瑠汰ちゃん可愛いって」

「お前のクラスもそんなことになってるのか……」

「正直、私より瑠汰の方が可愛いし嫌な気はしないけどさ。可愛いって言ってるのが男ばっかなのが嫌なんだよね。だってそんなのさ……」


 絶望したように俯く彼女。

 その視線に捕らえられているのは絶壁――ではないが、慎ましやかなそれ。


「ま、諦めろ」

「マジで男ってキモいね」

「俺も?」

「筆頭だよ馬鹿」


 ケラケラ笑いながら悪態をつかれる。

 しかしながら、なんだかんだ笑った顔は可愛いな。

 基本的に女子は笑うと良さが現れるような気がする。


「まぁ新しもの好きなだけだろ。すぐにそんな話は消えるさ」

「そうかな?」

「だってあいつコミュ障だし、お前とは違うよ。それに、今の評価はお前が積み重ねた努力の証だろ? もっと自分を信じろよ。お前のやってきた事はそう簡単に崩れないから」

「……なんかそれっぽい」

「はぁ?」


 人が真面目に話してるのにそれっぽいってなんだよ。

 サラサラに梳かされた髪を崩してやろうと、右手をワキワキさせる。

 腹の立つ妹だ。





 ◇


【あとがき】


 お世話になっております。瓜嶋 海です。

 ここまで読んでくださっている皆さまに感謝申し上げます。


 ひとつアンケートなのですが、今後の展開の参考にぜひご協力お願いします。


 質問はシンプルに『瑠汰と萌夏のどちらが好きですか?』というものです。


 反応次第で今後の展開を少し考え直すので、良かったら応援メッセージなどから教えていただけると幸いです。

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