第11話 陰キャにも口はついている
瑠汰に協力を取り付けることに成功し、俺達三咲兄妹は一命をとりとめた。
これからも以前と同じ高校生活が送れると、瑠汰を帰した後に双子で胸を撫で下ろしたものだ。
瑠汰が帰る前、俺がトイレに行っている間になにやら話をしていたようだが、詳細は教えてもらえなかった。
何はともあれ双子バレの危険性は若干緩和されて安心である。
しかし、瑠汰が転校してきて訪れたピンチは双子バレだけではなかった。
萌夏には関係ない、俺にだけ与えられた試練。
時は現在、俺のようなぼっちには地獄であるHRのグループ活動である。
◇
「はぁぁ、文化祭だりぃぃ」
「それな。なんでわざわざ出し物しねーといけないのかね。山野さんもそう思うっしょ?」
「私も勉強したいです」
「全生徒に望まれてないイベント、やる意味ねーじゃん」
「そんな事言って、元原は彼女と一緒に回るんでしょ? 昨日お誘いメッセージ来たって、紗樹から聞いたし。楽しみなくせに~」
「おい、あいつバラしやがって……」
「……」
このグループには五人のメンバーがいます。
一人は野球部の
二人目は山野さんに話を振ったサッカー部の
三人目は優等生で人望が厚い
四人目はバレー部の
そしてわたくし、三咲鋭登でございます。
さて、おかしなことに気づきましたか?
今の会話では四人しか口を開いておらず、たった一人だけ会話の輪に入れないため、三点リーダーで若干の存在感アピールをしている空気君がいます。
何故でしょう。
どうして彼は言葉を発しないのでしょう。
答えは分かっても言わないで結構です。傷つくので。
……
冗談はさて置き、厄介だ。
出席番号順で割り振られたこのグループだが、生憎と陽キャラ揃いである。
息が詰まって仕方がない。
本来、転校してきた瑠汰はクラスの最後に出席番号を割り振られているため、同じグループなのだが、今は担任と別室で事務連絡を兼ねた個人面談中だ。
まぁいたところであいつも陰キャだし、こんな場所で会話なんてできないが。
と、話し相手がいないため誰へかわからない状況説明を脳内で繰り広げていると、ふとグループ内が静かになっているのがわかる。
そっと顔を上げると、真正面の与田さん含めた全員が俺を凝視していた。
「ねぇあたし聞いちゃっていい?」
「好きにしろよ」
「おっけ~」
サッカー部の渡辺と言葉を交わした後、与田さんは言う。
「三咲君と朱坂瑠汰ちゃんって仲良いよね」
「……まぁそれなりに」
「付き合ってんの?」
ド直球を投げられ、狼狽えた。
こいつバレー部じゃなくて野球部かソフト部なんじゃないか。
「付き合ってない」
「じゃあなんであんな仲良いの?」
「……知り合いなんだよ」
元カノというのも良かったが、荒れそうだったために言葉を選ぶ。
すると俺の言葉に与田さんは笑った。
「だよね! 付き合ってるわけないよね~」
だよねってなんだ、おい。
他の三人も緊張が解けたように笑い始めるし。
嘲笑か? 嘲笑ってるのか? 喧嘩なら買わないぞ、負け戦はしない主義だから。
「瑠汰ちゃん可愛いよなー」
渡辺がそう言うと、みんな頷く。
「顔めっちゃ可愛いよね。ハーフっぽいし」
「でも話しかけたら嫌そうな顔されました」
「そそ。人見知りなのかな、萌えるよなー」
一気に談笑ムードに突入した。
またも置いてけぼり感がぬぐえない。
仕方なく現実逃避に寝たふりでもしようかと思った。
が、しかし。
先日の萌夏や瑠汰に言われた言葉によって自分が決意した事を思い出した。
脱陰キャしなければ。
いつまでも『陰キャ』とか『ぼっち』なんて言われたままでは嫌だ。
萌夏の嫌味は勿論、瑠汰にもそんな目で見られたくない。
しょうもないプライドかもしれないが、好きなこの前でくらいはカッコつけたいのだ。
そう思うとこんなザマでは笑われる。
踏んでやろうじゃねえか、高校生活ファーストステップを。
「あんな可愛い奴、俺には勿体ないよ。付き合ってるなんて勘違いやめろよ? 瑠汰が不憫だからな。ははは」
唐突に声を出した俺。
他四人がフリーズした。
そして。
「「「「しゃ、喋ったーっ!?」」」」
「そのレベルだったのかッ!?」
なるほど。
これは萌夏も俺の事を避けるわなって感じの最低の反応をされた。
「はは、三咲君卑屈過ぎだろ」
「そうか?」
「男は顔だけじゃないんだぜ? うんうん、やっぱり上腕二頭筋が勝負だ!」
「出た脳筋野球バカ~」
お世辞にもイケメンとは言えない元原君の筋肉芸に与田さんが爆笑。
つられて周りもどっと湧き、俺もにやけてくる。
そしてこのなんとも言えない充実感。
なぁ萌夏、俺ようやく高校生っぽい雰囲気出てきたよ。
自分の中の世界が変わるのを実感しながら、静かに胸の中で妹に報告した。
とりあえず殻を破った瞬間である。
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