第10話 壁ドンキス未遂事件
「双子で同じ家に住んでるわけじゃん? 友達とかによくバレないな」
放課後、我が三咲家に向かう途中で瑠汰はそう口にする。
「鋭登は友達いないからアレだけど、向こうは大丈夫なの?」
「まぁお互いに知り合いを呼ばないようにはしてるしな。帰る時もタイミングずらすようにしてるし」
「大変なんだな」
「あぁ」
大変なんてものじゃない。
瑠汰も今に分かるはずだ。
あの恐ろしい雰囲気の妹の姿を見れば、日々の俺の苦労もわかるはずである。
俺は溜息を吐きながら、自宅の扉を開けた。
‐‐‐
「朱坂瑠汰ちゃんだよね!? 三咲萌夏です、よろしくね」
「……よ、よろしく」
「そんなに固くならなくても大丈夫だって~。あ、そこの椅子に座っていいよ」
「うん……」
コロコロと表情を変えながら愛想良く話すのは美少女だった。
清楚華憐、誰がどう見ようと完璧JK。
ショートボブの髪が体の動きに合わせてサラサラと揺れ、彼女の清潔感を彩る。
流石は学校一の美少女と名高い女である。
「なぁ」
「どうしたの?」
「なんなんだそのキャラは」
「ん? キャラ? なんの話かな、よくわかんないや」
「……」
こいつは人格がいくつか内蔵されているのかもしれない。
スイッチ式だろうか。
そう思って頭を叩いてみる。
「ころすぞ? ……髪崩れるじゃん。やめてよ~」
「ちょっとボロが出てきたな」
「チッ」
舌打ちをして例の如く俺のベッドにふんぞり返る萌夏。
舌打ちまでしてしまっては、完璧美少女とは言えまい。
やはりスイッチ式で人格チェンジができるようだ。
というか、なんでこいつは他人の部屋にこんな我が物顔でいられるのだろうか。
と、瑠汰はそんな萌夏を見ながら肩を縮こまらせていた。
昨日も言っていたが、陽キャ女子が苦手だという拒絶反応が溢れ出している。
そしてよく見ると凄い事が起きていた。
瑠汰のその仕草に胸部がむにゅッと潰れ、大きくて柔らかそうなそれが露わになっているのだ。
萌夏も瑠汰の持つモノに戦慄したようにガン見した後、深呼吸した。
「改めてよろしく。私は鋭登の妹の萌夏」
「あ、えっと……鋭登の元カノの瑠汰です」
いつものノリに急に戻った萌夏。
それに驚いたのか、瑠汰はめんくらったように吃った。
お手本のような瑠汰のコミュ障ぶりに、萌夏は俺を見る。
そして納得したように頷いた。
なんなんだ一体。
「マジでそんなに固くならなくていいよ。別にいじめようだなんて思ってないし。仮にも兄の元彼女だからある程度の敬意は払う」
「ふ、双子なのに兄とか妹とか気にするんだな。意外かも」
「私だって本来こんなのの妹なんて最悪。でも仕方ないじゃん、この馬鹿が私より先にお母さんのお腹を出ちゃったんだから。こうなった以上、生まれた順番を恨むんじゃなくて、せめて二卵性に生んでくれた両親に感謝してる」
「し、辛辣なんだな」
「鋭登がしっかりしてないのが悪いの」
そう言って睨みつけられる。
なんでこの流れで俺に矛先が向くんだよ。
「話が脱線したね。今日は話があって呼んだの。わざわざ来てくれてありがとう」
「全然そんな」
「呼んだ理由は口封じとお約束の確認のため」
「く、口封じ!?」
目を見開いて震える瑠汰に、萌夏はベッドから立ち上がる。
そしてじりじりと瑠汰に近寄ると、それに合わせて瑠汰も椅子から立ち上がり、後ずさっていく。
壁まで下がり、退路が無くなったところでドンッと手をついて萌夏が接近した。
超至近距離――いわゆる壁ドンってやつだ。
「私達の秘密を知って、ただで帰れると思わないでね」
「な、なんの事かわからないんだが?」
謎にしらばっくれる瑠汰に、萌夏がさらに近づく。
もはやキスでもするんじゃないかって距離だ。
……ちょっと羨ましい。
「今日話すこと、誰にも言っちゃダメだよ?」
「……」
「約束できる?」
コクコクと首を振る瑠汰。
その顔はもう真っ赤だ。
満足げにベッドに戻る萌夏に、俺は驚愕する。
いつあんなスキルを手に入れたのだろうか。
あいつは完璧美少女だけでなく、イケメンにもなれるのかよ。
ベッドの上で胡坐をかいている現在とは全くの別人格。
ってスカートの隙間から水色のパンツ見えてるし。
結構地味なの履いてるんだな。
女子力の欠片もない。
「今日言いたいのは二つ、くれぐれも私達の関係を校内で他言しないこと。それと学校で私を見つけても過度な反応はしないこと」
「え、なんで……?」
「今から詳しく説明するよ」
そうして萌夏は話を始めた。
小学校、中学校、高校で如何に俺がぼっちな陰キャで、対する自分がどんな努力をして完璧美少女を演じてきたという事。
だから人間関係も180度異なるため、互いに干渉するのは嫌だと。
今まで積み重ねてきたモノを台無しにされては困ると高らかに宣言した。
「そっか、それは確かに隠したいよな」
「わかってくれる?」
「アタシは兄弟すらいないからわかんないけど、多分家族と同じ学校生活って結構辛そうだし」
「ほんとそうなの!」
キラキラした目で瑠汰を見る萌夏。
今の人格は素なのか演技なのか、もはや俺にもわからない。
「わかった。協力するよ」
さっきの壁ドンで落ちたのか、やけに協力的な瑠汰。
しかしなんだかんだ、とりあえず口封じとお約束の確認は成功した。
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