第9話 難聴はてめえだよ
二学期二日目。
「おはよ~。今日も暑いな」
「そうだな」
朝から話しかけてくる瑠汰が眩しい。
白い肌は日光をよく反射し、輝いているように思える。
まだ朝のごちゃごちゃした時間帯だからか、意外と周りからの視線は少ない。
「この学校頭良いから授業ついて行けるか心配だな~」
「授業なんてどこも変わらんよ。教員は他の高校と同じ県職員だし」
「へぇ~。ってか見て見て」
瑠汰はそう言って机の下にちょいちょいと手招きする。
何かと思って覗き込むと、スマホゲームの画面があった。
「これやってる?」
「一応」
「面白いよな~。キャラが生きててストーリー追うだけでめっちゃ楽しい!」
「そりゃよかった」
「なんだよその反応」
むっとして彼女が前かがみになった。
と、瑠汰の大きく育った胸が上から降りてきて、サンドイッチされそうになる。
オートパフパフだ。
「うぉっ」
「あ、ごめ」
「……いや、いいんだけど」
「そ、そう?」
「うん……」
なんなんだこの間は。
非常に気まずいでございます。
ってか下からアングルってかなりの迫力だ。
危うく意識を持っていかれる所だったじぇー。
うおぉぉ……っと、こほん。
「校則とか結構厳しいからさ、スマホゲームなんてしない方がいいぞ」
「つまんない学校」
「災難だったな、転校先を間違えて」
「別に。成績優秀校ならぼっちでも浮かないと思って来ただけだからどうでもよ」
とことん気が合うな、俺達は。
何を隠そう俺もその理由でこの高校を志望した。
しかしながら現実は非常だった。
人間は愚かなもので、どんな環境でも群れを形成する。
優秀な奴らの中でさらに陰湿な校内カーストが組まれただけである。
「でもいいんだよ。君とこうして話せる環境が楽しいから」
「え?」
「あ、えと違くて……そうだ、あほ面の君と話してると笑えるんだわ」
「どんな悪口だよ」
「ごめんごめん嘘です! いや嘘じゃないけど」
「どっちなんだよ」
「もぉぉぉぉぉ。マジでウザい!」
「……はい」
結局暴言を吐かれるだけの人生だ。
というか、昨日はイケメンだとか言ってたくせに、やっぱりあれはお世辞だったんじゃないか。
余計なことは言わないで欲しい。
昨晩はぬか喜びして夜しか眠れなかったというのに。
なんてふざけた漫才をやっている場合ではない。
俺はこいつに言わなければならないことがあるんだ。
「今日の放課後時間あるか?」
「なになに? 一緒に下校のお誘いですか?」
「まぁそうなんだけど」
「えぇ!? ほんと? やったー!」
「……はぁ?」
「コホン。別に君との下校に喜んだわけじゃない」
じゃあ逆に何に喜んだんだろうか一体。
ここ三年で思考回路が全く読めなくなってしまった。
おかしいな。
国語の問題によくある、登場人物の気持ちを答える系は基本的に外したことがなかったんだが。
リアルの人間とフィクションの登場人物は違うって事か。
こんな場面をあの嫌味な妹に見られたら、また陰キャだとかコミュ障だとか言われるんだろうな。
「でさ、今日は俺の家に来て欲しいんだ」
「ひぃぅ」
「どうしたどうした!?」
急に顔を机に伏せて変な鳴き声を上げた瑠汰に俺は驚く。
話しかけても反応がないため、肩を掴んで揺さぶった。
久しぶりに触れる元カノの肩は記憶にあるものより数段柔らかく、少しドキッとしてしまう。
「い、家? アタシ達別れてるんだよ? そりゃ君とは別に嫌じゃ……」
「え? なんだって? 最後聞こえなかった」
「難聴鈍感クソ野郎死ね!」
「だからどんな悪口だよ!」
鈍感? そんな馬鹿な話があるか。
俺はいま明確にお前からメッセージを受け取ったぞ。
純粋な殺意という名の言葉の刃をな。
それに自分から顔を背けてぼそぼそ言っといて、難聴もクソもないだろう。
加えて言うなら今は2022年だぞ?
十年前ならまだしも、今更難聴野郎なんて捻りがなさ過ぎる。
仮に俺がラノベ主人公なら、作者は想像力の欠片もないゴミカス野郎だ。
顔を真っ赤にして肩を上下させる彼女。
そこまで怒らなくてもいいだろ別に……
あと守るように胸を隠すな。
俺を性犯罪者予備軍みたいな目で見るんじゃねえ。
「変な事をする気はない。そもそも俺とお前の二人っきりで会おうという話じゃないし」
「え? そうなの?」
「……双子の妹を加えて三人でな」
「妹が咥えて三人で!? 知らない間に性欲お猿さんになっちゃったのか君は!?」
「違う違う落ち着け餅つけ」
どんな聞き間違えだ。
難聴はてめえだよ。
「……ちょっと話があるんだとよ」
「あぁ、そうなんだ」
若干声のトーンが下がる瑠汰。
「てっきり君と二人っきりかと」
「なんでちょっと残念そうなんだ?」
「別に残念じゃねーし。あわよくばとか思ってないし」
「あわよくば?」
「……アホな自分が死ぬほど嫌いだよ、アタシは。それと君の事も」
何故か巻き添えをくらったんだが。
と、瑠汰は深呼吸して頷いた。
「わかった。行くよ」
「助かる」
「覚悟しとく、怖そうだし」
「先に言っとくけどマジでロクでもないからな、あいつ」
俺の言葉に顔色を青くさせる瑠汰を見ながら苦笑した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます