第8話 瑠汰とは俺の片想い

 帰宅後、現在両親は帰ってきていない。

 夕飯までの時間は普段課題などに取り組む時間である。

 こうして部屋で妹と顔を突き合わせるのなんていつぶりだろうか。


「そう言えば借りたラノベ面白かった」


 俺はバッグからさっき読んだラノベを取り出して渡す。


「え? 私の? 貸した覚えないけど」

「部屋入って借りた」

「勝手に?」

「あぁ」


 頷くと鬼の形相で睨みつけられた。

 ついでに俺の愛用蕎麦殻枕まで飛んでくる。

 胸部にドスっと衝撃が加わり、特有のずしゃりという蕎麦殻の音がした。

 肺が潰れたかもしれない。息が止まった。


「……けほっ、何すんだよ」

「誰が勝手に妹の部屋に入って良いって言ったの」

「……確かに汚かったけど」

「死ね!」

「お前だって今現在俺の部屋に勝手に入ってるだろ!」

「私はいいけどあんたはダメ!」

「ふざけんな馬鹿が!」


 なんという理不尽な!

 どうして兄妹間で俺だけ我慢しないといけないのか、全く理解できない。

 こいつはちょくちょく俺の部屋からゲームのディスクを奪っていったりと、悪質な犯行に手を染めた過去もあり、今回の俺に文句を言える立場は断じてないのだ。


「なんか見た?」

「脱ぎ散らかした服があったな」

「殺す」


 死ねだな殺すだの、最近の高校生はお口が悪いな。

 仕方ないだろ。

 本当に汚かったんだから。


 萌夏の部屋はthe・オタク女子って感じの部屋だ。


 入ると左壁にはずらりとラノベ・少年漫画・少女漫画が並ぶイロモノ感溢れる本棚。

 真っ直ぐ先にはモニターとゲーム機、そしてpcがある、勉強なんていつしているのかわからない勉強机がある。

 ベッド周りも普通なら香水とか女子っぽい物を置いているだろうが、こいつに至ってはキャラクターフィギュア等が並んでいる始末。

 全体的にごちゃっとしていた。


「ほんと猫かぶり陽キャなんだなって思った」

「あんたの部屋だって汚いじゃん」

「どこがだよ」


 全体的に何もない。

 机周りはきちんと整頓されており、ベッドも本来は掛け布団等乱れてはない。

 現在一名の侵入者によってぐちゃぐちゃになっているが。


「なんか全体的に陰気」

「お前に言われたくねーよ」

「写真とかないの? 何も飾ってないけど」

「……」


 そう言えばこいつの部屋には、友達と撮った写真だったり、後輩からもらった寄せ書きだったり色んな物が飾られていた。

 それも混沌を生み出す元にはなっていたが、確かに俺にそういう物はなかったな……


「元カノはいても今友達いないんじゃ話にならないね」

「黙れ」


 気にしてるとこチクチク刺してくるな。

 お前は安全ピンかい。


 と口に出してみると。


「何その例えツッコミ。おもんな。だから友達いないんだよ」


 ごめんなさい。

 ……もう泣いていいですか?

 いや、言う前から泣いてるんだけどさ。


「ってかさ、ルール決めようよ」

「ルール?」

「今後の高校生活をお互い少しでも干渉しないための、ね」


 萌夏は人差し指を立てる。


「まず、これは今まで通りだけど互いの人間関係には踏み込まないようにしよう」

「おう」

「具体的に私は瑠汰ちゃんと絡まないし、あんたも亜里香とかそこら辺の私の友達と絡まないで」

「言うまでもない。陽キャ女子は苦手だ」

「こんなに情けない兄が今日ほど頼りなく見えた日は初めてだよ」

「もっと褒めてもいいんだぜ?」

「それマジでキモいからやめて。唐突な語尾の『だぜ』も引くほどハマってないし」


 話が脱線しそうになった。

 萌夏は咳払いをして続ける。


「それとお互いの事を意識しないようにしよう。今日は何回か会って、お互いに意識しちゃったからさ。それも原因で瑠汰ちゃんにバレたんだと思うし。私も気をつける。今日はごめんね」

「おう。俺も悪かった」

「それと最後に」


 萌夏はベッドから降りると部屋を徘徊した。

 そして椅子に座ったり、ベッドに座り直したりしたのち、俺の隣までやってきた。

 落ち着きがない奴だ。


「瑠汰ちゃんとの関係をはっきりしなよ」

「え?」

「元カノとか言ってるけどまだ好きなんでしょ?」

「なんでわかった?」

「見てればわかる。恋する卑屈な陰キャなんてマジでキモいのに、それが実の兄って最悪だから」

「そこまで言うなよ」


 何故俺の周りにはこんなにも、卑屈や陰キャを連呼して傷を抉ってくる連中がいるのだろうか。


「仮に付き合うならこの先ハードってのは覚えといて」

「色んな意味でな」


 美少女転校生と付き合う陰キャとなれば、嫉妬を集めてしまうだろう。

 それも面倒だが、俺の知名度が増せば萌夏との関係性もバレるかもしれない。


 しかしながら、俺は悲しく笑った。


「その心配はないよ。俺が好きでいても、向こうはそうじゃない。片想いさ」

「ふぅん?」

「なんだその反応」

「別に。あんたの卑屈っていうの、そういうとこだよ」

「はぁ?」


 よくわからない事を言われた。

 今のどこに俺の卑屈さが表れていたのだろうか。

 もはや息を吐くようにネガティブワードを吐き出しているのだとしたら、結構重症だが。


「でさ、早速さっき決めたルールぶち破って申し訳ないんだけど。明日瑠汰ちゃんと三人で話せる?」

「え?」


 事態は思わぬ方向へ向かっていく。

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