第7話 双子バレ

 とりあえず萌夏に瑠汰との関係を伝えることはできた。

 しかし、本来伝えるべきことは他にある。


「あのさ」

「なに?」


 怖い。

 何を言われるか分かったもんじゃない。

 だが言わなければだめなのだ。


「瑠汰に俺とお前が双子だってバレた」

「……は?」


 今日一鋭い声に、俺はビクッとする。

 どうして妹の不機嫌オーラとはこんなにも身の危険を感じるのだろうか。


「言ったの?」

「いや、さっき横断歩道ですれ違っただろ?」

「あぁ。え? あれだけでなんで?」

「なんか瑠汰曰く、俺達のオーラが似てるんだとよ」


 そう言うと、萌夏は心底嫌そうに顔を歪める。

 その顔は心外だと言外に語っていた。


「一応双子の妹がいるって話は三年前付き合ってた時に話してたんだ。それで、今日お前を見かけて気付かれた」

「驚いた。初めてだよ、そんなバレ方するの」

「ほんとだよな」

「私とあんたが似てるって……あり得ないでしょ」


 傷つく言葉だが、正直俺も同感だな。

 コミュ力も容姿も何もかもが違う。

 共通点と言えば苗字くらいだが、当の瑠汰は萌夏の名前すら知らない状態で言い当てた。


「鈍いのか鋭いのかよくわかんないね」

「そういう奴だからな」


 昔からいつもはあほっぽいのに、変なところで賢さを発揮するのだ。

 なんだかんだ偏差値74の高校に編入できたのはそういうところなのかもしれない。


「ガチで終わってるじゃん。どうすんのこれから」

「流石に拡散はされないだろうけど」

「そんなのわかんないでしょ」

「大丈夫だ。瑠汰には追及しないでもらってるし、俺が止めてるのに他に言いふらすような奴じゃない」

「あんたにその子の何が分かるの? 三年前の話でしょ? とっくに性格も変わってるよ」


 確かにそうだ。

 三年という年月の空白は大きい。

 しかしながら、この点において俺は自信がある。

 彼女を信頼するのには根拠があるのだ。


「大丈夫だ。瑠汰には友達がいないし、それを作るコミュ力もない。言いふらしたくても相手がいないんだ、あいつには」

「……似た者同士で付き合ってたんだ?」

「いいだろ?」

「きっも」


 現役美少女JKから生の『きっも』をいただきました。

 ありがとうございます。


「仮にそうだとしても、同じ高校内に私達の関係を知る人間がいるのは困る」

「どうする気だ?」

「潰す」

「馬鹿野郎」


 物騒なことを言うんじゃねえ。


「口封じをしなきゃ」

「そこまで俺と双子だってバレるの嫌なのかよ?」

「嫌」

「そうですか」


 そこまで即答されると言い返す言葉も出てこない。


「今日だって、一緒に帰ってた亜里香がめっちゃ言ってたよ『あの人誰だっけ?』って」

「……鳩山さん、去年は同じクラスだったんだけどな」

「亜里香はそれだけだったけど、他の友達も悪口言ってたし」

「……」

「マジでしっかりしてよ。ほんと迷惑」


 そうか、下校時に萌夏の隣にいたのは鳩山亜里香だったか。

 鳩山さんは去年同じクラスだった女子バスケ部の陽キャ女子だ。

 三回くらい隣の席になって、俺にしては会話した回数の多い女子だった。

 顔すら覚えられていないとは悲しい。


 とは言え俺もすれ違っていながら気づいていなかったが。


 ただ、迷惑か。

 そう言えば瑠汰にも陰キャだとか、生意気だとか言われたな。


「やっぱり俺みたいなキャラってキモいのか」

「ようやく気付いたの?」

「耳にタコができるほどどこかの誰かが散々言ってきてたからな」


 でもここまで色んな人に言われるようなら、治した方がいいかもしれない。

 いや……瑠汰に—―好きな女子に陰キャなんて言われるのはちょっと傷つくしな。


 俺は瑠汰の事がまだ好きだ。

 正確には今日惚れ直した。

 久々に会ったあいつがめちゃくちゃ可愛かったってのもあるが、やっぱり雰囲気とか笑った時の顔とか、全部含めて好きだなぁと改めて思った。


 また付き合えるなんて淡い幻想は抱かないが、せめて恥ずかしくない男にはなりたい。


「変な顔」

「余計なお世話だばーか」


 決意に満ちた男の顔になんてことを言うんだこの妹は。

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