おとぼけ日和

あいず / ZeI

第1話

おとぼけ日和 1話

 「おーいザサエーカーリングしよーぜー」


 「ツッコミどころ多すぎだろ……てかせめて野球とかにしてくんね?」


 「えー……、じゃあアイスホッケーでいいよやろーぜー」


 「ほとんど一緒じゃねーかよ」


 「じゃあリョーマは何がしたいんだよ」


 「県議員立候補とか」


 「お前ボケの方向性だいぶズレてんのな」


 今俺の事をさらっとdisったのは同じクラスの友人宇渡海斗(うつ かいと)である。彼とはこの高校で、この人生捨ててるヤツらの集まりの中で出会った


 俺らが通うのはとある田舎の高校で、俺らは1年、高校初の夏を目前にして、今は学校帰りに歩いているところだった


 忘れていたが俺の名前は坂本柳二(さかもと りゅうじ)である。決して教科書に載っている人ではない


 「ところでリョーマはさ、目当ての子とか見つけたりした?」


 「え、お前まさかホ、ホ、」


 「ホモちゃうわ!」


 うちは男子校である


 「じゃなくて、身近にそういう子いないのって」


 「いないし、ここら田んぼじゃん。お前作物に恋しちゃう系なの?」


 「じゃなくて、道を歩いててすれ違うとk」


 「じゃあお前あれか、動物愛好家。ここよく野生動物うろついてるしな」


 「だから違うから!」


 「じゃあなんだってんだよ。ここには田んぼと動物とじーさんばーさんしかいないよ。それとm」


 「それだよ!それ!」


 辺りを見回す。周りには一面に田んぼが拡がっている。ここらでは米でも育てているのか、一面の緑が綺麗だ


 「どれだよ、どの田んぼのこと?」


 「だからちゃうわ!」


 「ここってリョーマの言った通りピッチピチの女子高生なんていやしないんだよ!」

 

 確かに、こんな落ちこぼれの男子校ひとつしかない田舎に、女子がいるわけが無い。すなわちこんなとこにいる限り、一生独身か、老人介護をすることになる


 「お前の言い回し気持ちわりぃよ」


 「うるせー」


 「うるさくねーよ!」


 「お前切れるポイントもズレてんだよ」


 ひとくだり終わった満足感を味わうために何拍か置く


 「それで、ピチッピチッの女子高生がなんだって?」


 「そんな打ち上がった魚みたいな擬音じゃねーけど……ともかく、女子高生に会うためにはここじゃない場所に行く必要があるわけだ」


 「なるほど、それで?」


 「ここから電車で1時間くらいのとこならちょっとは都会らしくなるだろうし、そこにはきっと女子高生もいるはずなんだ」


 「お前の女子高生に対する執着はなんなんだよ」


 「もう夏休み目前なんだよ!今なんだ、今頑張れば俺の青春ラブコメh」


 「おいバカやめろ、俺一人の下校シーンとか誰得なんだよ」


 「なんで俺消える前提なんだよ!?」


 またもやしてやったりといった場面に悦に浸る俺。将来は芸人とかが有望かもしれない


 浸っていると、突然海斗が手を合わせて、おねがいのポーズを取る


 「なに、ごちそうさまでした、ってこと?」


 「いつ俺が食ってたんだよ」


 「描写されてないだけだろ」


 「何の話だよ!?」


 次にお前らは、メメタァ、と言っただろう


 「違くて、今度のにt」


 スタンディングスタートの姿勢をとる。肩掛けのバッグはしっかりと脇で掴み、顔だけ海斗の方を向け、早口に話す


 「断る、じゃあまた明日な」


 言い終わると、全力で走り出す。田舎男児の本気の走りを見せてやると言わんばかりに全力で走る。


 「ちょっまって」


 そういえば海斗も田舎男児だったので、そこそこ足は早いのだが、しっかりスタートダッシュを決めた俺相手に勝ち筋はない


 異世界転生ものだったら横から車でもやってくる展開だが、見ての通りこれはそんな作品では無いので、俺は無事家まで走りきり、途中で諦めたのか、海斗の姿はなくなっていた



       「おとぼけ日和」1話 おわり

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