Case.2 Wolf Flock


「人的被害、負傷者死傷者共に0名、っと.......よし纏め終わり!!!PDFだな!?ならこいつを貼っつけて.......送信!!!ヨシ!!!!!」


昨夜のゴリラの様な混沌生命体との戦闘から一夜明け、土曜日だというのに朝一番から始末書の作成に勤しんでいた焔は、遂にその任を遂げた。

「よし防衛省から受理メール届いた!!!これで面倒な書類作成からも解放だぜ〜!!」

そう言って椅子の上で諸手を挙げる焔。

その顔は晴れやかな笑顔で染まり、目尻に涙を浮かべていた。


そう、焔はこの書類仕事がどこまでも苦手である。

何せ、細かい文字が多く、数値も正確に書かなくてはならない。

おまけにパソコンと長時間向き合わなくてはならないので必然的に腰も痛くなれば体も凝ってしまう。

焔は、どうにもこの仕事が好きになれない。

「よし凍也、ラーメン食いに行こう。さぁ行こう、すぐ行こう!!」

「はいはい、お疲れ様。少し待ってよ」

若干興奮気味の焔を諌めるように凍也は話す。


その時、事務所のドアが開いた。

興奮気味から一気に仕事モードに切り替わった焔が、すぐに応対に出ようとする。

「少々お待ち下さい!!!.....凍也、お茶頼む」

「わかった、応対任せたよ」


ネクタイを締め直し、表情をキリッとさせた焔は、仕切り板を超えてオフィスエリアから応対エリアへと移動する。

「お待たせしまし......た......」

そこで焔は少し言葉の歯切れが悪くなる。


何故なら、そこに居たのは中学生くらいの少女と小学生くらいの少年だったからだ。

「えーと、どうかなさいました?不審者でも出たとか、それともストーカー?」

若干戸惑ったように、焔は話す。

しかし、少年少女は首を振る。

そして少年は大きな声で

「お、お兄さん!!!お願いします!!!!ジョンの仇をとってください!!!!」




「なるほど、犬のジョンの仇、ですか」

事務所に来た少年少女──少女は名をハナ、少年はキヨシと言った──は、事情を話す。

「うちで飼ってたジョンが、朝起きたら、頭だけになってて.....お父さん達が、混沌生命体カオスナーの、仕業だって......」

華が、涙ながらに話す。

「こ、これで、退治してもらえませんか!?」

清が、ポケットからくしゃくしゃの千円札を一枚出す。

「これ、俺の持ってるお金です!!!これで、倒してもらえませんか!?」

「──っ」

凍也が、焔の横で辛そうな表情を浮かべる。


「........凍也、返答は、してもいいか?」

焔は、意を決した様に問う。

「.......あぁ、頼んだよ、焔」

目を伏せて、凍也は答える。

そして、焔は口を開く。

「その依頼、引き受けましょう」

その一言で、3人の顔はパッと明るくなる。

「清くん、その千円札は仕舞ってください。そのお金は、もっと有意義に使ってくれ......華さん、親御さんの電話番号と、住んでる自治体教えてくれないか」

「は、はい!!わかりました!!!えっと、住んでるところは、田所町です!!!!」

ハキハキとした声で答える華。

ならば、とばかりに焔は一気に指示を出す。

「凍也、地図出せ!!!作戦はお前に任せる!!!華さん、清くんは周辺の様子を凍也に教えてやってくれ!」


そう言って、焔は電話を手に取る。

「もしもし、そちら植野 華さんのご自宅でしょうか?.....あ、はいいきなりすみませんこちら──」





田所町、そこはその名の通り田園が広がる町。年々過疎化は進むが、それでもまだ子供は多い町。

休耕田───というよりは廃業した農家が多いという事もあり田園の水は抜け、どこも泥地であったり、あるいは僅かながらの稲が残っている。

田所町町役場二階、会議室にて。

町長と地域住民数名、そして焔達一行が一同に会していた。

「........こちらが、ジョン君の死体を見分した結果となります」

凍也が意を決して書類を差し出す。

「複数方向から噛みつかれ、引きちぎられたような形跡が多数存在しています。この周辺に、野犬や狼の類は出ますか?」

書類を指し示しながら焔は住民に問う。

「いない、です.......昔こそよくいたけれども今はもう見る影も」

老人が恐る恐る口を開き、答えを述べる。

そこで焔は確信した。

「でしたらもう確定です、周辺に混沌生命体がいます」

一気にざわめく会議室。慌てふためく老人に今にも泣き出しそうな奥様方。驚きのあまり声すら出ない町長達。

「落ち着いてください、幸いなことに今は土曜日の13時、今から規制や呼びかけを行えば今夜にでも駆除が出来ます」

はっきりと、焔は言い切った。

「今夜、恐らくですが混沌生命体は再びここに出現するでしょう.......言い方は悪いですが、犬一匹食べただけで満足するような輩は混沌生命体の中だとごく稀です。奴は確実に、

焔の言葉に、一同が絶句する。

「.......ですので僕たちが、囮となって逆に奴を狩ります」

静寂を切り裂いて凍也が口を開く。

「僕たちならそれが可能です......ですので、どうかお任せ頂きたい」

無機質な声の中に、確かな自信と熱意が籠もっている。

「.......分かった、では、これよりこの案件をお二人に依頼する」

「はい、お願い致します!.....お二人には、なんと申し上げたらよいか.....」

町長が協力するという意を込めた一言を発し、植野夫妻もそれに続く。

「お兄ちゃん達、お願いします!!」

依頼人の少年少女も、それに続いた。





30分後、町役場大会議室。

人気がすっかりなくなった広い部屋の中で、焔と凍也も一通りのミーティングを終え、小休止となっていた。

「........悪いな、凍也」

「.......何がだよ、焔」

そっと、静かな声で謝罪を述べる焔。

「2日連続で仕事、しかも今回は実質的なタダ働きだ........お前に負担かけちまってよ」

どれだけ強く、学生のような年齢であっても、焔達は社会人である。

当然、働かねば食ってはいけない。生きるには金がいる。

しかし彼らの商売は、生きるか死ぬかの瀬戸際を常に行き来する、言わば綱渡りの商売。

それをかなりの破格で請負い、生活こそ出来るがいつ赤字になってもおかしくはない。


しかし、彼は人を見捨ては出来なかった。

その証拠に、華の依頼を受けてしまった。

赤字である。

そこに不甲斐なさを感じた焔は、今詫びを述べたのだ。

「良いんだよ、俺だってあんな事言われたら受けるもん、依頼」

凍也は、軽く笑いながら赦す。


「それに────家族を喪う悲しみは、よく分かっているしね」

たった一言、軽く笑って言うその言葉には、微かながらも深い哀しみが、見え隠れしていた。




夕方6時。

住民の避難及び警戒区域内の住民の帰宅が済み、交通機関も通過或いは運行停止となった。

少しずつ日が沈み、周囲が薄暗くなる。

焔と凍也は迎撃ポイントの田園地帯の廃園区画に陣取っていた。

焔は電柱の上に登り、双眼鏡で周囲を確認する。

「さてと、薄暗くもなったし───そろそろ来るとは思うんだがな」

双眼鏡は別にライトが付いてる訳では無いので、薄暗いと当然見づらい。

しかし道には街頭がそれなりにあり、尚且つ混沌生命体は暗所にいると目が明るく光っており、存在がわかりやすいのだ。

故にそれらの灯りを頼りに混沌生命体を探すのだ。

しかし、今回はその必要が無かった。


ザッザッザッザッ──────


砂を蹴るような音が鳴る。

少々ばかり耳がいい焔は、遠くから鳴るその音を捉えた。

(西の方角、遠めの距離───)

双眼鏡で音を捉えた方角を見る。


─────そして、絶望した。

「────凍也ッ!!!!!!!今すぐ範囲攻撃の準備しろッ!!!!!!!!」

怒号の如き声を飛ばす焔。

「は、範囲攻撃でいいんだね!?」

急な注文に戸惑いながらも即座に対応する凍也。

周囲に練気を張り巡らせ、敵が近くに来れば即座に攻撃出来る状態にしておく。

「ていうか、何で範囲攻撃なんだい?そんなに強そうな敵だった?」

若干不思議そうに問いかける凍也に、焔は頭を押さえながら答える。

「.......群生混沌カオスフロックだ」

「...........嘘ぉ........」

二人とも絶望しきった様子で頭を押さえた。



群生混沌カオスフロック

文字通り、混沌生命体が生活している状態を指す。

一体でさえ一人で駆除するのが困難とされる混沌生命体が、群れを成している。

つまり、超大量の人員が必要な駆除対象なのだ。

しかし、当然焔達一行は二人しかいない。

今から支援要請を出せるほどの人脈は未だなく、かと言って公的機関たる防衛省に援軍を頼んだとしてあの腰の重い防衛省が援軍を出すとは限らない。

何より、今から連絡したところで接敵に間に合うとは考えられない。


つまり、今からたった二人で群生混沌を駆除せねばならないのだ。

「あぁクッソ、噛みつき、多方向から引き千切られた形跡、野犬、狼........全部ヒントになってた!!!なんで群生の可能性を除外した過去の俺ェ!!!!!!!!!」

焔はいよいよ頭を掻きむしり、己の未熟を痛感する。

昼間自分が挙げたジョンの遺体に付いていた傷、そして考慮した可能性。

それら全ては双眼鏡から覗いた狼のような群生混沌に結びつく要素であった。

「.......いや、何言っても今更どうにもならねえ」

焔はそう言うと、剣の鍛造を始める。

(今回は、一頭一頭は小型の混沌だ.....つまり、こちらも小型で取り回しを重視する)

自らの練気を練り上げ、溶かし、叩き直し、より純度の高い練気へと昇華させる。

(二本作れば、手数も稼げて、対応力も上がる)

純粋な練気を二つに分け、形成。

生まれたのは、二本のナイフ。

大人も前腕程のサイズの中型サイズのナイフだ。

そして完成と同時に見え始める、群れの先頭。

「凍也、先頭が範囲に入り次第攻撃だ───必ずここで駆除するぞッ!!!」

怒号と共に、先頭の狼が凍也の射程範囲に入る。


練気の水が波打ち、一気に凍結。

氷柱ひょうちゅうの波となって狼たちに襲いかかり、数匹を串刺しにして消滅する。


たった二人の群生混沌駆除が今始まった。





戦いは熾烈を極める。

四方八方から襲いかかる狼たち相手に焔は手にした双剣で狼の波を捌く。

右手の剣で一匹の首を落とすと同時に、口を開け飛び込む狼の口腔に左の一本をねじ込み、抉る。

内部を削られた狼は内部器官に損傷を負い、消滅。

さらに襲いかかるもう一体には振り下ろしていた右の剣を逆手で振り上げ、空中で首を落とした。


凍也は、周囲に練気を張り巡らせ狼が侵入し次第氷の棘を発生させ、串刺しにして消滅させていく。

それは宛ら、かのヴラド三世の様な様相であった。

しかし、凍也は如何せん混沌生命体を相手していると、

串刺しに夢中になりすぎて、後ろから襲う狼に気づいていなかった。

(───────ッ、あの馬鹿、気づいてやがらねェ!!!!!)

焔は、相棒の危機に人一倍敏感であった。

修行時代からの期間、ずっと凍也と共に歩んできた焔だからわかる、相棒の危機。


「ったく!!!!」

ほぼノールックで左のナイフを後ろに投擲する。

投げたナイフは見事凍也の背後の狼の頭部に命中、狼は塵となって消滅する。

対象が消失したナイフは地面に突き刺さり、トスンと静かな音を立てる。

そして正面から襲い来る2頭の狼に、焔は即座に新しい一本を鍛造し、斬り伏せる。

しかし、即座に鍛造したナイフは必殺の一撃と共に砕け散る。

即ち、新たに襲い来た狼2頭に対する剣が不足しているという事。

「────凍れっ!!!!」

左側の狼の頭部に、氷の棘が突き刺さる。

これで残りは一頭、即座に焔は右手のナイフを振り下ろし、脳天から狼を斬る。

お互いがお互いのミスをカバーする、それは修行時代から培った感覚が為せる技であった。

「凍也、しっかり周り見ろよ」

「ごめん、見てなかった───焔、前」

背後のナイフを取ろうとしたその隙を見過ごさず、狼は襲い来る。

そこに氷の波が押し寄せ、消滅させていく。

たとえ二人であっても、捌ききれる確信が二人にはあった。



戦闘開始から約10分。

減らない狼の波に、疲弊が見え隠れする二人。

彼らの戦力である練気は自身の体力や精神力に由来する、故に彼らの疲労の速度は2倍以上に増している。

それでも後には退けない、守るものがあるという信念の元に、二人は絶対に弱音を吐かな

い。

「凍也ァ!!!今何体殺った!!!!!」

「合計100は超えてる!!!」

基本的に群生混沌は一体一体は弱い。

弱いとは言えど、常人にはかなり強い存在ではあるが。

故に一撃で一頭は殺せる。

しかし、量はとても多い。

下手をすればざらに頭数は1000を超える。

本来10人程度の集団で500頭の群生混沌を駆除するのがセオリーだ。

しかし彼らは二人、ハイペースで狩っているが、このハイペースが逆に命取りになりかねないのだ。

(配分を間違えば余裕で全滅、後にはも控えてやがる......)

焔はそう考えながら剣を振るう。

既に何頭の首を落としただろうか、考える事すら面倒になるほどの作業。

時にキックなどの体術も織り交ぜながら、次々と駆除する。

凍也は周囲に狼を寄せ、氷の棘で貫き、氷塊を降らせ、更には氷の剣で接近戦も行う。

莫大な練気を持つ凍也だからこそ行える荒業は、驚異的な殲滅力を発揮する。


そして突如、狼達は攻撃に被弾していないのに塵になりだした。

「凍也、来るぞ」

「わかってる、何時でも迎撃可能だよ」

言葉を交わした直後、空に舞った狼たちの塵が収束し、大きな狼が出現する。

「出たぞ、統率個体フロックリーダーだッ!!!!」

群れの長である統率個体が出現した。

長である狼が出てきたという事は、群れの崩壊の危険を感じたという事である。

巨狼は、威嚇の遠吠えをした。

「「──────ッッッッ!!!!!!!」」

空気が震える。

耳を塞いでも鼓膜が破れそうになり、近くの空き家のガラスが割れる。

「たった威嚇でこんだけかよ、クソッタレ!!!!」

悪態をつきながら、焔は巨狼に駆け、双剣で斬りつける。

(浅いッ.....毛皮が厚すぎる!!!)

斬れ味鋭かろうと、その厚すぎる毛皮が斬撃を防ぐ。

そしてそれは打撃にも等しく作用する。

凍也が落とす氷塊にも少々顔を顰めるのみで、ダメージが入っている感触はない。

「有効打皆無かよッ......んなモンどう駆除しろってんだ!!!」

忌々しそうに焔が悪態をつく。

それと同時に巨狼が動き出す。

ダンッ、と地を蹴る音。

瞬間、巨狼の姿が視界から消え去る。

殺意の隠し方が巧いのか、敵意から相手の位置を察知する二人が巨狼の位置を感知出来無い。

「──────凍也、氷で盾を!!!!!!」

刹那、焔の目が爛々と輝く巨狼の眼を捉えていた。

確実に屠りに来る。

その予感から凍也に指示を飛ばす。

実に厚み10センチの氷の盾が形成される。


瞬間、氷の盾は4つに裂けた。


「.........おいおい、マジかよ」

二人に傷はない。しかし氷の盾は4つに裂け、地面には鋭い3本の傷跡が残っている。

それは、10メートル程度向こう側にいる、巨狼の爪の一撃であった。

真艫に喰らえば、間違いなく体が引き裂かれていただろう。

「........しかもノーダメでいかないとダメなのかよ.......」

まさに無理難題。

攻撃を一度でも喰らえば即死亡ゲームオーバーという綱渡りの戦い。

しかも焔達の攻撃はほとんど通らない。

これを無理難題と言わずして何と言おうか。

「凍也、何か策はあるか?」

巨狼の連続噛みつきや爪をかいくぐりながら、後衛で氷によるサポートを行う凍也に問う。

「........一個だけ!!!!」

少しの間を置いて、凍也は答える。

巨狼と距離を取るようにバックステップし、少しの作戦会議を行う。

「作戦、あるんだろ?」

「うん、ある.....ただし、一回限り、しかもチャンスも一回限り」

そして、凍也は概要を話す。

「.......クッソリスキーだが、やらなきゃこっちが殺られるもんな......やるぞ、凍也!!!!!」

そう言うと、焔は巨狼に向けて駆けだす。

但し、攻撃はしない。

動きだ。

噛みつきを捌き、爪をいなし、飛びかかりを避けされど迂闊に反撃はしない。


そして動きを止める。

至ったのだ、位置に。

そして叫ぶ。

「──────やれッ、凍也ァ!!!!!!!!!!!」

瞬間、荒れ狂うが巨狼の背後から浴びせられる。


驚愕の響きを持ちながら、巨狼は唸る。

波に依って毛は逆立ち、表皮が露出している。

そして、忽ちに水は凍てつき、毛が凍る。

足元にも水が滴り、巨狼の足元までもが凍てつき、動きが止まる。

「俺の練気能力、練気凍結の派生がこんなとこで役に立つとはね」

凍也の能力、練気凍結には派生系が存在する。

それがこの能力、過冷却水生成だ。

ある程度凍結までの時間を調整出来る過冷却水を生成する能力だが、大きなデメリットがある。

練気を莫大に消費するのだ。

本来、1リットル生成するのでさえ全体の3%程度の練気を持っていかれる。

それを、巨狼の体に奔流としてぶつけ、更に凍結時間の調整まで行った今、凍也に残った練気は僅か2%程度しかない。

つまり、ここで決めねば後はない。

(狼の体温が上がって、氷が溶けるまでが勝負─────!!!!!)

焔が、全身に練気を巡らせ、肉体を強化する。

「う、おらァああああああああ!!!!!!!!!」

双剣による、連斬。

巨狼の首、左側側面を目にも止まらぬ速さで斬り続け、皮膚が裂け始める。

(まだだ、もっと速くッ!!!!)

腕に更に練気を集中させ、より斬る速度を上げる。

氷も次第に溶け始め、少しずつ毛並みが戻る。

タイムリミットは近い。

しかし、諦めない。


持てる全力を、今ここに注ぐ─────!!


一念岩をも通す。

瞬間、皮膚が裂け肉を斬る。

首の中心にある、骨に剣は至った。

「凍也!!!!!」

怒号。

凍也は残り僅かな練気を振り絞り、中空に氷塊を生む。

練気で強化した脚で跳び、逆さの状態で氷塊に脚を付ける。

「──自壊せよ」

号令と共に、双剣が赤熱を帯びる。

この剣が、最期の一撃の為に持てる練気を荒ぶらせる。

氷塊を蹴り、逆糞されたロケットの様に巨狼の頸に跳ぶ。

双剣が、骨に食い込む。

火花を散らしながら、剣を振る。

「う─────ォォォオオオオオ!!!!!!!!」

最後の練気を腕に回し、剣を振り抜く──!



バキィィィィィ─────ン──────



骨が折れ、剣が崩れる音がした。

巨狼の首が宙に舞い、剣は折れ、崩れ去る。

焔は、姿勢を崩し受け身すら取れず、左腕から落下する。


二人は、やり遂げた。

たった二人で、群生混沌を駆除しきったのだ。

「「っ......しゃああああああ!!!!!」」

歓喜の声を挙げる。

初めての快挙に、雄叫びを挙げた。


しかし、二人共限界であった為、そのまましばらくは動けなかった。







「ありがとうございました、なんとお礼を申し上げたらよいか!!!」

町長と植野夫妻が共に頭を下げる。

照れくさそうに焔と凍也は答える。

「いえそんな、こちらも依頼ですから!!」

時間は九時。

戦闘終了後の様々な後始末や必要な業務を行い、今やっと戦勝報告を行えたのだ。

「華ちゃん、清くん、ジョンの敵、取ってきたぞ」

二人はしゃがみながら、少年少女に報告する。

「ありがとう、お兄ちゃん!!!」

二人は嬉しそうに感謝を述べた。

「ジョン、もう帰ってこないけど、きっとお空で笑ってる!!!」

華がそう言うと、皆が微笑みながら、頷いていた。






「で、この大金と」

帰り道。ヘトヘトになりながら自転車を漕ぐ。

なんと、二人には植野夫妻と町から報酬として75万円もの支払いが為された。

現在凍也の鞄にはそれだけの大金が入っている。

「タダ働きだと思ってたら、思わぬ収入だったね......」

なんとも言えぬ表情で二人は帰る。


この後、二人は報酬で贅沢しようと言ってラーメン大盛りトッピング全部盛りをするのだが、それはまた別のお話。

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