第16話「バケットの街散策・2」


 折角なので、パンを見て不思議に思っていた事を質問する。


「後気になってたんですけど……なぜプレーン味しかないんですか?レーズンとかチーズとか、チョコとか……ナッツ入りとか作ればもっと売れていいのに……」



 そう言った瞬間、店長とケイラそして客にまで大笑いされる。



「いやいやコバトちゃん……パンに何かを入れる?そんなことしたら足がはやくなっちまうじゃないか!……店にクレームが来ちまうよ!」


「え?……足がはやく?」


「ええそうよ?コバトちゃん。貴女はゼマティスさんの家では、何を食べているのかしら?パンは毎日食べるものだけど『毎日買いに』来ないのよ?」



 店長はケイラに『確かケイラは、俺が渡したパンにカビが生えるか黒パンになるギリギリまで、消費を伸ばしてるもんな?』と笑って言う……



 そして更に『日持ち出来るパンを焼いているのに、わざわざ中に腐る物を入れてどうするんだ?』といって笑い始めた……


 その言葉に、今度は客も混じって言葉をあげる……



「それに、お嬢ちゃん……そんなもん本当に美味いのかい?」


「そもそもパンにチーズを入れて?焼いて冷ましたら……パンの中でまた固まっちまうじゃないか!そもそもチーズは、パンに乗せてから軽く炙る物だろう?」



「え?……それを確かめて貰うための……試食です……。一口サイズに切り分けて、出すんです……けど?試食って発想はダメですかね?」



「「「はははは……」」」



「いやいや……確かめるための試食で、店がかなり損してるじゃないか!」



「いやいや店長!それも考え様だぞ?俺達はタダで食べれるんだ!ガハハハハハ!」



 そう言ってお客は笑いながら『タダで食べれるなら嬉しい』と口々にいうが、店長は『アホか!ウチはやらんぞ?そんな事……やめてくれ!店が潰れちまうよ!』という。



 しかし、私はついその言葉に、元の世界の常識を挟んでしまう……



「え?ならパンの大きさを小さくして、値段を材料費に合わせれば良いのでは?味変が出来ますし……家の食卓も彩り増えますし……」


「パンを小さく?材料に合わせて値段を変更?無理無理!パンごとに値段を変えてたら、その度の計算が大変じゃないか!この忙しい様をコバトも見ただろう?」



 店長の言葉に、自分が経験したアルバイト先のパン屋の仕組みを教える……


 しかし店長の表情はそれを聞いてもパッとしない。


 当然言う方は簡単で、それを毎日やる方は大変なのだ。



 サイズを分けての大量生産が出来る訳でもなく、レジスターが無い世界で都度の計算は面倒だというのも理解できる。


 そもそも生産しても売れる確証がない……それが一番のネックだろう。



「な……成る程なぁ……。しかしなぁ……それで売れなかったら全部無駄になっちまう!種類豊富のパンに、サイズ変更……俺の店では無理だな……」


「ああ……店長すいません。そんな深く考えないで下さい。ちょっと思っただけなので、余計な事を言ってすいません!」



「そ……そうね!て……店長……コバトをそろそろ役場へ連れて帰らないと!」



「あ……ああ。そうだな!そもそも売る物がもう無いんだ。有難うな?ケイラにコバト。今お土産持ってくるからちょっと待ってろ!」


 そう言って、店長は店の奥に向かう……


 その去り際にはブツブツと……『ベーコンチーズバケットか………だがなぁ……日持ちは間違いなくしねぇもんなぁ……サイズを小さく?うーんー』と言っていた。



 若干気まずい雰囲気が流れる中、ケイラの一言に救われる。


 役所へ戻る事になったからだ。



「ケイラさん……なんかすいません………。余計な事を沢山言った様で……」



「そんな……いいのよ?気にしないで。でもコバトちゃんパン屋の事に詳しくて、私びっくりしちゃった!」



 そう言った手前ケイラへの説明が難しい……



 元の世界の話をする訳にもいかず……だからと言って、私にはこの異世界の土地勘は無い。


 しかしそんな心配を他所に、ケイラは大きな声を出し指で何かを指し示す。



「あ!ゼマティス様達は話が終わってる様よ?お仕事のお手伝いしてたから、きっとその間に終わったのね」



 いま私達の手には、合計4本の大きなバケットとジャムの入った木製の器が2個がある。


 それを見たマサラは、びっくりした表情をしつつもケイラに駆け寄る。



「あらまぁ……ケイラ。貴女コバトにもお仕事させてたの?」



「マサラさん!ケイラさんの所為じゃ無いんです。市場についたら、早速巻き込まれまして……」



「でもマサラさん!あっという間にコバトちゃんが全部売り尽くしたんですよ?彼女ホイホイ売ってくので、最後は売る物が無くなっちゃって……それで帰って来たんです」



「ケイラ!それで帰って来たって……。まぁ仕事内容がわかって何よりだけど……」



 マサラの説明では役場の仕事は街の運営の他に、手が足りない店へのお手伝いも稀にあると言った。


 当然今回の様に何か貰えるばかりでは無いという。


 しかし、役場に何か問題があった時は、逆に皆が助けてくれるそうなので持ちつ持たれつの関係の様だ。



「まぁ今回は、コバトへ街の様子を見せる為に来たからのぉ。良い経験になったはずじゃ!」



 そう言ったゼマティスは『さぁ!ではそろそろ乗合馬車に乗るとしよう!最終便に乗らんと帰れなくなるからのぉ』と言って窓の外を指し示す………。



 家を出た時間が遅かった事もあり、既に日が暮れてきて夕陽が差し込んでいる。


 暗くなるにつれて、昨夜の闇に蠢くナニカの事を思い出してしまう。



「そうですね!ゼマティスさん昨晩の事もありますし……。あんな化け物に出会したら自分では対処出来ないから、早く帰って戸締りきっちりしましょう!」


 私はそう言って急いで帰る様に仕向けた……

 

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