第14話「バケットの街」
「そこで止まれ!荷物検査をする。中身はなんだ?……って………うん?……メーンタームじゃ無いか!お前……今日はデニッシュの方に行く日じゃなかったか?」
「おうガズ。今日も見回りご苦労さん!実は通行止めの所為で、全部予定が狂っちまってな……」
「ああ!そう言えば朝から町長が大激怒してたな。あれはデニッシュの通行止めって事だったのか?どおりで今日はやたら街への入場処理が多い訳だ!」
世間話をしつつ、処理を進めて行く。
顔見知りなのか、番兵の確認は凄く雑な処理だ。
「じゃあ後ろの……お?メーンターム。お前の商団の新しい手伝いか?随分と可愛い娘だな?丁稚か?お前はこんな可愛い娘を、どこで雇ったんだ?」
「ああ、すまん。その娘は訳ありでな……住民証は持ってない。これからバケットの役所で発行するんだよ」
「ほ……ほう……そうか……。まぁ稀にいるから気にせんが……娘、住民証が無い以上は、商団員でも銀貨5枚を入場料で貰うことになるぞ?まぁオマケして3枚にしておいてやる!オレはメーンタームの幼馴染でガズって言うんだ!まける代わりに、俺の名前を覚えておいてくれ」
何故か名前を覚えるだけで、入場料をまけてくれるらしい……
番兵にはそう言われたが、しかし考えてみれば現地の通貨など持ってはいない。
『どうしようか……』と悩んでいると、ゼマティスが小さな麻袋から銀貨5枚を取り渡して来た。
「ホレ、銀貨5枚じゃ!コバトや、これで払え。儂等は街の住民じゃ無いからの!払う必要があるんじゃ」
「知りませんでした……。街に入るのに、そもそもお金がかかるんですね!手ぶらで来ちゃダメなんだ……ディズニーみたい………」
「うむ!大切な事じゃから、コバトはよく覚えておくんじゃぞ?街や王都に入るときは『入場料』がかかる。じゃが村で入場料は要らん。ちなみにディズニーってなんじゃ?響きで既にワクワクする名前じゃな?」
銀貨5枚のお礼にディズニーの説明を簡潔にしていると、番兵が大慌てで話に割り込んできた……
「な!?ゼマティス様!?……な……何故この街に?……おっと……アンタ……ゼマティス様の関係者か何かか?……こりゃ失礼した。入場料は要らんよ!」
「と言うか、ガズ……この街とすれば、ゼマティス様の家族からは金は貰えんよな」
何故か突然、変な方に話が進んでいく……
ガズと呼ばれた番兵は『か……家族ぅ!?ゼマティス様に娘が?あ……いや……孫か?』と言い始める。
「何はともあれ、娘さんアンタの入場の際には金は要らん。じゃあメーンターム、さっさと入ってくれ!ゼマティス様が来たせいか……後が支えて来た」
その言葉で後ろを振り返ると、凄い長蛇の列になっていた。
入場後一度商団本部へ向かってから、メーンタームの案内でバケットの街にある役所に向かった。
その理由は、住民証を発行して貰うために来たのだ。
役所の受付担当はマサラと言う女性で、言葉遣いがとても丁寧な人だった。
だが年齢を答えた瞬間、先程からずっと担当者が私を疑っている。
「20歳!?……え?……その顔で?……あ……ご……御免なさいね?変な意味では無いわよ?」
「えっと……もう一度聞くわね?……お幾つかしら?」
「え?年齢は……20歳です……」
「……………………」
「え?……すいません。でも本当に20歳です……」
年齢を答えた瞬間、周囲の見る目が冷ややかになった。
ゼマティスでさえ『コバト……それは無いじゃろう?……本当に?……本当にその顔で20歳なのか?』と聞く有様だ……
「メーンタームさん……ちょっと来て!」
そう言ったマサラは、聞こえないと思っているのだろう……
マサラは、『貴方の関係者よね?この娘……本当に20歳?どう見ても……まだ子供よ?顔が……。歳を上に言わないとならないくらいの、何か重要な理由でもあるの?』などと問いただしている。
歳のさばを上に読むメリットがワタシには全く無いのだから、信してもらいたい……
それに、そもそも嘘は言ってない。
◆◇
「えっと……ではコバトさん、入場証兼住民証です」
そう言ったマサラは、『えっと……認定に時間がかかって……本当にごめんなさいね?貴方の顔立ちは、とても20歳とは思えない顔立ちで……』と担当者は言葉を選びつつも、軽くディスってくる。
しかし、そんな話の中にも収穫もあった……『童顔を武器に使えば就職は楽勝だ』それが役所職員の言葉だった。
この異世界は、女性の就職率は決して悪く無いそうだ。
農村部であれば農作業の仕事に街では各店の店番、そして貴族の屋敷であればメイドやハウスキーパー、聞いた事を挙げればキリが無い。
そもそもこの異世界では、自分が望めば女性でも冒険者になれてしまう。
冒険者という職業は、ミスをすれば自分が死ぬだけなのだ……親以外は誰も止める事などない。
ハイリスク・ハイリターンなのは問題だが……
それに付け加えて、1日あたりのパン生産量が多いこの街では、パン職人として女性は引くて数多だと役所の職員は言った。
おそらく『調理=女性』という訳では無い。
しかし街と言っても住んでいた東京と比べれば、圧倒的に総人口に差があるのだ……
「メーンタームさん、ここへ連れて来てくれて有難うございます!ゼマティスさんが旅に向かった後も、私はなんとかなりそうです!」
そうお礼をメーンタームに言うと、それを見ていたマサラがカウンター越しに話しかけて来た。
「コバトさん……もし貴女がこの街で働く事を望むなら、この役所で働く事も考えておいてくれないかしら?実は出産を控えていて、暫く来れなくなる子が居るのよ……」
「え?マサラさん……もしかして……私をこの役所で雇って頂けるんですか?」
「ええ。出来れば長く居て欲しいから、お手伝い扱いとか数日の非常勤じゃ無く、常勤で考えて欲しいのよ」
思いがけない言葉に、つい二度聞きしてしまう……
「……え?雇うって臨時じゃなく……常勤でですか?凄く助かります!でも……来れるのは約1月後ですよ?」
「ええ!それで平気よ?少なくとも貴女に此処で働く気があるなら……是非お願いしたいわ」
そう切り出したマサラは、『失礼な事を言ったお詫びもあるけど、一番の理由はその話し方ね!ちゃんと礼節を弁えてる所が気に入ったわ!』と付け加える……
そしてマサラは、コバトのビックリした顔に笑いながら『貴女の場合、言葉遣いを教える手間が省けるのは助かるわ!それに対応力も忍耐力もありそうだしね!』といった。
それを聞いたゼマティスは『この娘はそれだけじゃ無く、度胸もそこそこあるぞ?』などと笑いながらマサラと話す。
そして振り向くと、皺くちゃな顔をもっと皺くちゃにして、その喜びを顔いっぱいに表現していた……
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