第13話「ノームとゴーレム」


『大地を司る精霊よ……大地の眷属ノームを我に遣わし賜え!開け大地の門!』



 ゼマティスは詠唱を終えると、地面を持っている杖で叩く……


 すると巨大な門が浮き上がり『ギギギギギ……』と思い音を立てて扉が開く。



 扉の中からは、茶色い皮帽子を被った小さな小人たちがワラワラと出て来た。



 その小人は、突然脳に直接話しかけて来る……



『なんじゃ……随分と人間が沢山おるな!?誰じゃ?儂等を呼んだ奴は……要件は何じゃ?はよう言え……儂等は暇じゃないんじゃぞ?』



『すまんのう、ノーム達よ。お前達を呼んだのはこの儂、古き友の魔導師ゼマじゃよ!』



『ゼマティス……なんじゃ、お前か!それにしても人間嫌いなお主が、随分と珍しい場所に儂等を呼んだな?それで……儂等に何か用か?』



『ノーム達よ、実はお主達に頼みがある。ゴーレムを作って貰いたいんじゃ。場所は既に魔石が埋め込んである場所じゃ!報酬はそうじゃな……大地属性の大魔石を2個でどうじゃ?』



『ふむふむ……ゴーレム如きで大地の魔石2個か?ボロ儲けじゃないか……ゼマ本当に良いのか?』



 ゼマティスはコクリと頷いた後に『うむ……じゃが持って行くのは『あの鉄の塊』じゃ、じゃからクレイ系ではなく、ストーン・ゴーレムにして欲しいんじゃ』と言う。



『ストーン・ゴーレムとな?まぁ魔石が埋まってる場所が岩場じゃそれしか作れないしな。それで?使える時間は、埋め込んである魔石の魔力が切れる迄で良いんじゃな?使えても1時間が良い所じゃぞ?』



『うむ!構わんよ。あの鉄の塊を我が屋敷の庭に持っていってくれれば……それだけで大丈夫じゃ』



 ゼマティスはノーム達と何やら会話をする。


 だが全ては耳から聴こえる情報では無く、直接脳内で解決している。



「この念話と言うのは、何度されても慣れないな……直接頭に響く声がなんとも不快だ……」



 それが何であるか……その答えはメーンタームの一言で分かった。


 どうやら『念話』によるノームの会話が、全部周囲に聞こえている様だ。



『ならば………さっさと仕事をするかのぉ。おい!お前達。手分けして作業じゃ!左右の魔石が埋まってる岩場に、ストーン・ゴーレムを作ってやれ!』



 そう言ったノームの号令で、周りにいたノームは岩場に走る。


 そして、たった数秒で巨大な石像を削り出す……



『なぁゼマ、これはボロ儲けどころの話では無いぞ?ゴーレムなんぞ、儂らの生活に欠かせない手足の様なもんじゃ。作るだけなら数秒で終わる話だ。魔力を通していつも通り削るだけじゃからな?』



『フォッフォッフォッ……構わん構わん!今は自分で作るより、今はお主達に頼んだ方が助かるんでな!』



 ゼマティスはそう言った後に、担いでいた袋からソフトボールの様な大きさの魔石を2個取り出した。



『これで我等の家族がまた増やせる!精霊のシェア争いには興味は無いが、家族が増えるのは憂しいからな。こんな仕事なら、いつでも儂等を呼んでくれ!』



 そう言ったノームは、またもや仲間を呼ぶ。


 呼ばれた仲間は魔石を抱えると、喜びの声を上げて門へ走って行く。



『あやつら……もう終わったのか?相変わらず仕事が早いのぉ?お主……手は抜いておらんだろうな……』



『おいおい……ゼマよ。儂等が手を抜く筈ないじゃろう!?……さぁボロ儲けの仕事は終わりじゃ。もう用事は無いのか?』



『大地の門を開き続ければ、それだけ魔力が消費するでな……。家じゃない以上、儂の魔力にも限りがある。此処らで閉めとかないと、お前達が強制送還になっちまうでな?』



 そう言ってゼマティスは、ノームに別れを告げた。



 ◆◇



「おぉぉ……あっという間に解決しちまったぜ!」



「流石は魔導師様だな!俺達が退かそうとしても、びくともしなかったあの障害物をあっと言う間に退けるとは……」



 周囲の見物者達は、見事に解決したゼマティスに向けて続々と称賛の声を上げる。


 ノーム達を見送った後、ゼマティスはゴーレムに指示を出した。



 そのゴーレムへの命令は、とても簡単な物だった。


 だが命令は的確だ……



 『目の前の障害物を持ち上げて、邪魔にならない場所に持っていけ!持って行く場所は……うーむ……そうじゃな……これを見て村長達がまた喧嘩されても困る。うむ……目に付かない場所……儂の屋敷の裏まで持っていけ……』



 コバトの責任に触れなかった上に、両方の街の町長がこれ以上喧嘩が出来ない様にクギを刺した物だった。


 そして当然だが、ゼマティスの屋敷に帰れば何時でもその車に触れられる。



 それはコバトに対しての、ゼマティスの優しい配慮だった。



「ふむ……相当重いなあの『障害物』は……あれでは幾ら住民が来ようとも、そう簡単に退かせはせんかったじゃろう。まぁこれで西国へ行けるぞ?マグヌス侯よ!」



「ゼマティス助かったぞ!これで漸く足止めから解放だ」



 そう言ったマグヌス侯爵は馬車へ戻ろうとする……


 しかし足を止めて振り返ると……『そうだ……メーンターム。私は数日で屋敷に戻る。話はその時にするとしよう!……そうだな……準備をかねて、7日後に来るといい。屋敷の者似は伝えておく!』と言って、その場を去っていった。



「はてさて……一時はどうなるかと思ったが!なんとかなるもんじゃのう?」



 そうふざけ気味に言ったゼマイティスだった。


 しかしメーンタームは、すぐにゼマティスに駆け寄るとその手を取る。



「ゼマティス様!!なんて事だ……私が!私が……マグヌス侯爵家の出入り商人に!!有難う御座います!本当に有難うございます!!」



「じゃあメーンターム。御礼ついでに、バケットの街まで送ってくれんかの?流石に大量に魔力を使ってしもうてな!ちと疲れてしもうての……」



 メーンタームはデニッシュの街に行く予定だった筈だが、予定地を変更してバケットの街へ馬車を向ける。


 ゼマティスは馬車へ乗る前に『此処まではお膳立てをしたぞ?コバトお前も後はちゃんとうまくやるんだぞ?』とボソリと呟いてから、返事も聞かずに荷台によじ登った。


 馬車は10分と少しばかり、舗装されてない出来の悪い道を走る。


 すると、所々に苔が生えて年季が入った外壁に囲まれた街に辿り着いた。



「す……凄い壁!メーンタームさん……こ……此処がバケットの街ですか?」



「うん?そうだ。此処が『王国の食糧庫』と呼ばれている、パン生産量第一位の街だ」



 そう言ったメーンタームは街の説明をした。



 王国で消費される6割のパンの主原料は、この周辺から採れる小麦だ。


 そして長期保存できるパンの製造も、この街が一手に引き受け王都へ毎朝直送している。



 当然王都にもパン屋はあるが、住民用のパン製造が関の山だと言う。


 現代の大量生産が出来る機械が無い以上、全てが釜戸で焼く手作業なのだそれも仕方がない。



 そして冒険者用の日持ちする保存食用の黒パン類は、大量かつ早く作っておく必要がある。


 其れ等は王都で生産するには、費用対効果が望めない。


 

 それを街の特産にしたのが、バケットの街にいたショートニング家の先先代……即ちリソルトとリシュガーの祖父だ。


 元々この地にあった農村であるバケットの村は、祖父の代を経てから、彼等夫妻の奇抜なアイデアによって数十年をかけて、さらに大きな街に変貌したのだった。



「メーンタームさん……この街にそんな歴史があるんですね……」



「凄いよな!小麦を育ててた祖父が冒険者用の保存食を作った事で、村が街になっちまったんだ……。俺もその運にあやかりたくてな!」



 メーンタームにそう説明受けつつ、荷馬車は街の門を通過した……

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