第12話「兄弟の因縁!?……喧嘩に巻き込まれる2つの街」


 問題は貴族馬車だけではない……更なる問題がある……


 ゼマティスとメーンタームの会話から判断すると、バケットの街の住民とデニッシュの街の住民が諍いを起こしてさえいる様だ。



「困ったもんじゃ……あれは……双方の街の町長か?」



「ゼマティス様。不味いですね……あの両街の町長は仲が悪いかならな……。まさかこんな事がきっかけで、町民を巻き込んだ大きな喧嘩に発展するとは……」



「ああ!儂も予想外じゃった……。あの双子は顔を見ると喧嘩するんじゃ。じゃが……あんな短気でよく町長が務まるな……」



 ゼマティスは『はぁ……行くのが嫌になってきたわい……』と力無く文句を溢す。



 ちなみに現在は、冒険者とは全く違う服装の人々が向い合って文句を言い合っている状態だ。



 デニッシュの街の住民は、車をよじ登り越えてバケットの街まで文句を言いに行った。


 そしてバケットの街の住民は、とんだ濡れ衣なので怒るのも無理は無い……



「魔法で音を拾ったが……。どうやらデニッシュの街の町長は、バケットの町長による陰謀だと住民を嗾けた様じゃ」



「ええ?じゃあ……今すぐにでも何とかしないと!原因は私なんですから……身に覚えは無いんですけど……」



「コバトさん……何とかしないととと簡単に言いますけど、あれは巨人でもなければ退かせませんよ?車輪らしき物がありましたが、何せ向きが不味い。前後が岩場で身動き取れませんからね!」



 そう言って、メーンタームは記録の水晶球を見せる。



「我々は一度馬を使って横に退かせないか、ロープで試したんです。それであのクルマとか言うものが、鉄の塊で出来ているとわかったんですから!」



「じゃがここで話してても問題解決はせんからのぉ……仕方ない行くかの……」



 そう言ってゼマティスは、少し離れた場所に馬車を止めさせた。


 ◆◇


「おい!リソルト……今回ばかりは許せんぞ!お前の魂胆はわかってるんだ!パンのシェアを独占したいんだろう?そんな事は絶対に許さんぞ!数秒早く生まれたからって偉そうにすんな!」



「何だと?リシュガー……お前こそ俺の街に言いがかり付けやがって!こっちはこんな事をするほど暇じゃ無い!毎日街ぐるみでパンを焼いてんだ!『王国の食糧庫』の名に恥じない仕事をしてんだよ!お前と違ってな!」



 凄い応酬が繰り広げられている……


 しかしお互い一歩も引くつもりはない様で、町民までも混じって喧嘩をしていた。


 辛うじて今は実力行使になっていない……



 だが、何かキッカケがあったなら、周りを取り巻く冒険者たちが用心棒として、双方の街に助っ人に入りそうな状況だ。



「リソルト早くこのへんな物を退かせ!……こんな物で俺の街へ続く街道を塞ぎやがって……」



「リシュガーお前は馬鹿なのか?こんな風にどうやったら岩場に入るんだ?俺らが魔法使えるとでも?だったら金まわりのいい宮廷魔導士になってるわ!!」



 兄弟の罵り合いが続く中、痺れを切らした貴族が割って入る。



「先程から……そんな事はどちらでも良いわ!さっさと協力して退かさんか!!私はすぐに西の大国に話をしに行かねばならんのだ!」



 そう怒鳴った貴族は『我は王国貴族、マグヌス・ウルフェンシュタイン侯爵である!両街の者に告げる!さっさと障害物を退かせ!』と言う。



 すると好機と見たのか、バケットの街の町長リソルトが動く……



「マグヌス様!良いところに居らっしゃいました!馬鹿な弟が、この馬鹿げた状態を私のせいにしているのです!侯爵様から注意してやって下さい!そして早く退かす様に言ってやってください!」



「いえいえ!マグヌス様。悪いのは出来の悪い兄の方です!私の街の新作パンに恐れをなして、こんな卑怯な手に出たのです!私は冒険者用だけでは無く貴族様向けのパンを開発して、今や飛ぶ鳥を落とす勢いなのです!侯爵様もご存知でしょう?」



 二人はお互いを罵り合いながら、知り合いと思われる貴族まで巻き込んでいく……



「ええい!儂は何方の側にもつかん!それより早く退かさんか。退かなぬならば『王国の食糧庫』を別の地域に移すまでだ!!身勝手な事ばかり言って、互いで協力出来ぬ馬鹿共は王国には要らん!!」



 大激怒する貴族に住民はビックリすると、町長達に詰め寄り始める。


 住民とすれば、仕事を奪われかねないのだから当然だ……



 喧嘩をしている場合じゃない……と理解した兄弟は、侯爵へすぐに謝罪をする。



 しかし決して兄弟は、お互いへは謝ろうとはしない。



 それどころか今度は、『障害物を退かすのは自分達の街だ』と取り合いの喧嘩まで始める始末だ。


 もはや喧嘩がしたいだけで、実は障害物の事などその言い訳なのかも知れない……



 しかしゼマティスは、それを見て何かを閃いた様だ。


 『コバトいいか?これから何があってもお前は口を出すなよ?』とだけ言って、碌に返事も聞かずに前に歩み出る……



「マグヌス侯爵よ!こんな所に居るとは……もしや西行きか?」



「おお!ゼマティス老師……良いところに居てくれた!実は何がどうなってか分からんが、障害物のせいで身動きが取れんのだ!あの馬鹿たちは協力をしないからいつまで経っても足止めでな……。お主が何とか出来ないものか?」



「うむ……ならば儂が退かしましょう。実は儂の所にとある商団が、この件で相談に来ましてな!おい、メーンタームこっちに来るといい……」



「ほ……本日はお日柄も良く……マグヌス侯爵様。私は王国を渡り歩く商団『大黒屋』のメーンタームと申します……。実は以前、一度だけお会いしておりますが……覚えては居ませんよね?はははは……はは……」



 マグヌス侯爵を目の前にしたメーンタームは、非常に小さく縮こまる。


 そしてゼマティスの方をチラ見すると、どう言うつもりなのかと思考を巡らせた……



 しかしその答えが出る前に、ゼマティスが行動に移した。



「さて……これも何かの縁じゃろう……マグヌス侯、このメーンタームはお主に幸を齎す者だろう。今此処で儂等を遭遇させたのは他でも無く此奴じゃ!」



「うむ……確かにそうだな!魔導師ゼマティスをあの屋敷から連れ出す事は、国王陛下でも叶わん。だがこうしてお主が此処に居る事が、その繋がりの深さを物語っているな!」



「うむ!それに……マグヌス侯、お主が西国へ行く理由にもメーンタームはいずれ大きく関わるじゃろう。なんせ此奴がが主に取り扱うのは『薬品やマジックアイテム』じゃ!」



「ぬ!?……と言う事は……ゼマティスお前この者に薬を卸している……そう儂が考えても問題はないのだな?」



 ゼマティスは『是も否』も言わないが、代わりにメーンタームが言葉を挟む……



「大きな声ではいえませんが……。私は特定数の購入を許された、数少ない商団の一つではあります。品目も確定は出来ませんが、魔導師ゼマティスのマジック・ポーションを手に入れられる、数少ない商団である事は間違いがありません」



「うむ!分かった。では我が公爵家の出入りを其方に許可しよう。『繋がりを持って損はない』ゼマティスはそう言っている様だからな!」



 ゼマティスはマグヌスのその言葉を聞くと『フォッフォッフォッ』と笑い、『では始めるか……邪魔な者たちは退いておれ!今から<ストーン・ゴーレム>を生成するでな!』と言う。



 ゼマティスは車の両脇に歩いて行くと、数回『コンコンコン』と岩場を叩き亀裂を作る。


 そして亀裂をいれた場所に魔石を挟み込んで、何やら呪文を唱え始めた。



 準備が終えたのか、ゼマティスは『うむ……後は向こうか』と言って、反対の岩場にも同じ事をする。


 車両を挟む様にある岩場に何かをしたゼマティスは、車の前に立つと呪文を詠唱した……

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