第11話「道を塞ぐ車と分岐路」
困りつつ顎髭を触っていたゼマティスは、なにかを思い付いたかの様に徐に口を開く……
「何はともあれ、そのクリマをどうにかしに行かねばならんのぉ……。うーむ……」
ゼマティスは何やら考え込むが、チラリとメーンタームと私を見る……
「コバトや……良い機会じゃ。問題の確認ついでに、バケットの街を回って見て来るとするか!」
「え!?ゼ……ゼマティス様……街にですか?……これはえらい事になるぞ……」
何やら慌てるメーンタームにゼマティスは、『問題確認と言ったじゃろう?マジックアイテムや薬の類は持っていかんぞ?』と釘を刺す……
そのあと、杖で馬車を指して説明を加えた。
「もう儂の予定は、メーンタームに説明しておるだろう?来月には遠出せにゃならんのだ。街で商売をしておる場合ではないんでな!」
ゼマティスの言葉にメーンタームは、『ええ!存じてますとも!』と返事を返す……
その言葉をしっかりと聞いてから、ゼマティスは街へ行く理由を明かす……
「だから遠出するその前に、このコバトを連れて数回は街に行かねばならん……と考えていたのじゃ!誰かにこの娘の面倒を見て貰わんと……街で暮らす家も見つからんじゃろう?」
「成程!………ふむ……」
「うん?メーンターム?『腑に落ちない』と言う顔じゃの?」
ゼマティスは『どうしたんじゃ?』と言いながら、メーンタームにその理由を尋ねる……
するとメーンタームは言って良いのか?と言う顔をしつつも、好奇心は敵わず心に湧いた質問をぶつけた。
「質問なのですが……ゼマティス様……。そこまで気にかけているならば、ゼマティス様がこの家に帰られる迄暮らさせる……と言うのは駄目なのですかな?」
「それも実は考えたんじゃが……。一人にするのは危険じゃと昨夜に分かってのぉ……。この娘『見える』んじゃ……」
「見える?……見えるとは………あっ!!………まさか『闇に蠢く者』ハイドがですか?」
ゼマティスは『ウム』と短く肯定する。
「じゃから、この娘をここに一人居させるのは、何かがあったら危険じゃ……対処出来んからな。それに……」
「そ……それに?」
そこで話が終わると思っていたメーンタームは、話がまだ続くと思い『ゴクリ』と生唾を飲み込む……
その目は、何故か期待混じりだ。
「実はのぉ……先程アルラウネが出たんじゃよ。それも特大級のヤツが畑にな!」
「ア……アルラウネ!?あの魔物は……人間サイズならまだ銅級資格者でも平気ですが、中型になったら中級冒険者でも大変ですよ!?まぁゼマティス様であれば敵ではないでしょうけど……」
メーンタームは椅子から立ち上がると、穿り返された畑を見て愕然とする……
それも当然だろう……下半身の花と根こそ焼き払われているが、上半身はそのまま放置されているのだ。
「こんな巨大なアルラウネ……因みにお伺いさせて頂きますが……この上半身は何かに使う予定なのですか?」
「儂がアルラウネ装備を作り着ると思うか?……欲しいなら必要な部位を削いで持っていくが良い……」
そうゼマティスが言うと、メーンタームは馬車で控えている仲間を呼んで、細かく解体作業を指示する。
そして振り返ると即座にゼマティスに向かって、率直に質問をした。
「ゼマティス様……こんな簡単に特上部位を頂けると言う事は……私に何か『お願い事』があるって事ですよね?」
「フォッフォッフォッ……流石メーンターム鋭いの!いや簡単な事じゃ。バケットの街にあるお前の店で、娘の保証人になって欲しいんじゃ」
「我が商団が……この娘さんの保証人に?」
「うむ……まぁお主の立場上、難しいのはわかっとる。じゃから……」
「アルラウネの素材……と言う事ですね?まぁ保証人と言っても、私が何か出来るわけではないですよ?そもそも商団の絡みで、街に滞在する期間などは短いですし……」
「大丈夫じゃ!メーンタームは街の住民証さえ発行できる様にしてくれれば、後の暮らしは自分で何とかするじゃろう」
ゼマティスはそう言うと『そもそも自分で暮らせない様では、この先困るのは自分時自身じゃからな!』と言った。
「では……話が纏まった所で、問題の場所まで行くかのぉ?その場所迄はメーンタームの馬車に乗せてくれるかの?」
「ええ構いませんよ。実の所……異世界に興味もありますし!」
「因みにメーンターム……この娘の出所は内緒にしてくれんかの?色々と詮索されれば、他方で色々と軋轢を生むかもしれんからな!」
ゼマティスはそう言いつつ、出かける準備をする為に家に向かっていく。
「はぁ……最先怪しい事この上ないじゃないですか!……じゃあ行きますか!えっと……そういえば……お名前は?」
「おっと、言い忘れておったわ。この娘の名前はコバトじゃ!」
ゼマティスはそう言うと、今度はコバトに『メーンタームに自己紹介したら、お主は出かける準備を急いでするんじゃぞ?街で宿泊はせんからなぁ!』と言って『バタン』と家のドアを閉める……
「あ、そう言えば自己紹介がまだでした!……私はコバトと言います。メーンタームさん、宜しくお願いします」
簡単にそう挨拶をしてから『じゃあ、すぐに手を洗って準備をしますね!』と言って、急いで家に入った。
◆◇
馬車に揺られる事1時間と少し……目的地である『バケットの街』と『デニッシュの街』の分岐路まで来た。
本来『デニッシュの街』に行くには、分岐路から岩場に挟まれた道を通り抜けないと辿り着けないと言う。
しかし今は見事にその道は車によって塞がれていた……。
「ああ……朝よりひどい状況になってますね……。両方の街の住民に冒険者、商団も足止めで……ありゃ相当苛立っちまってますな……」
メーンタームは走る馬車の御者席から、幌馬車の中に居るゼマティスにそう話す。
ゼマティスは『よっこいしょ』と言いながら、補助席に座ると状況を確認した。
「こりゃまた……随分と大事になったもんじゃな……コバトや。あれがお前の言うクリマか?」
「そ……そうですけど……。何故あんなふうに言い合ってるんでしょう?まさか私の車が原因ですか?」
メーンタームは『わりと交通量の多い分岐路ですからね!乗合馬車を使ってるのは主に冒険者なので、気が荒くて短気なんですよ』と言う。
メーンタームの説明では、どうやら朝から移動出来ない旅人が車の周囲に集まり憤慨している様だ。
近づくに連れて岩場の影に微かに車の後部が見える……
どう見ても自分の車である事は間違いがない様だ。
馬車が近付くに連れて、事の重要性が分かってきた。
私は完全に、往来妨害をしでかした張本人だったのだ……
例え不可抗力でも、今となってはそれを許してもらえる雰囲気ではない。
既に商団馬車が3台に乗合馬車が4台、貴族のエンブレムが付いた豪勢な馬車が2台も見えた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。