第10話「ウッカリ?天然?突然のカミングアウト」
「メーンターム、お主やけに早いのぉ?来訪は明日の予定じゃろう……こんな早く来ても、まだ薬は出来とらんぞ?」
「申し訳ない!ゼマティス魔導師様……決して予定日を間違えたわけではないんだ!」
メーンタームと呼ばれた男は、黒い革製の帽子を被り、そして茶色の革製ベストを着た細身の男性だった。
ゼマティスによる事前情報では、薬品系を主に取り扱う商人らしい。
ちなみに商団の名前は『百貨』と言う名前だった。
名のある魔導師や薬師を訪れては薬を買い付けて、近隣の街や村そして王都へ卸す商人だそうだ。
「それで?当然じゃが、まだ全部用意できたわけではない。90%は出来上がってるが……レアな薬がまだじゃな」
「いやいや先ほども言いましたが、催促ってわけではないんです。デニッシュの街に行く道が封鎖されとるんですわ!……ってあれ?……」
「あの道が封鎖?誰がそんな事を!あそこが通れんのでは……誰も往来出来んじゃろう?それに……アレって何じゃ?……」
「あれは……ゼマティス様の仕業では?てっきり貴方かと……そうか……当てが外れたな……」
「当てじゃと?メーンターム……お主は儂があの道を封鎖したと思ってたのか?そんな事をして何になる?」
「いやいや……見た事もない物で封鎖されてますからね!『ゼマティス魔導師様がそうしたのではないか』ってバケットの街では大騒なんですよ?」
話を聞くと、どうやら何処かで問題があり、その行為はゼマティスが関わっていると思われた様だ。
魔物発生などを事前に感じ取り、そんな時は街の住民に注意を促しているのが、このゼマティスだった。
各街の住民は、今回もそれの一環だと勘違いしたそうだ。
「なんじゃと?……儂は知らん!!と言うか昨日から大忙しなんじゃ……そんな暇があるか!」
そう言ってゼマティスはトラオを『むんず』と掴むと、メーンタームに見せる……
「あ!?コイツ!!……まさか……また悪戯を?今度は何しでかしたんですか?前は確か……ネズミの群れを嗾けましたよね?」
「ああ!そう言えばそんな事も確かにあったのぉ……。あの鼠の大群は……流石に儂も怒ったなぁ!畑が台無しになたからのぉ……」
「そうそう……確かあの時は……このマカニキャットを捕まえてから、動けない様に下半身を2日間ほど石にしましたもんね?」
そのお仕置きを聞いて尚、ベロを出して欠伸をしているトラオにほとほと呆れ果てる。
まるで反省をしていないトラオの両頬を軽く伸ばしながら『もう……貴方そんな事したの?怒られて当然じゃない!』と注意をする。
しかしトラオは、指先まで舌を伸ばして『ペロリ』と舐める……
「アレは参ったニャ。動けないから暇で大変だったニャ。それも確か……連れて来たネズミが居なくなるまで、屋根で見張りさせられたニャ……」
「ちょっと!暇って貴方……。そもそもが自業自得じゃない。まさか今でも反省してないの?アナタ……」
「あんなのは、ちょっとした冗談にゃ!逆に耄碌爺がワテシを忘れないかヒヤヒヤだったニャ!本気でお仕置きした事を、ワテシは今でも謝って欲しいと思ってるにゃ!」
「って言うか……トラオ。反省してないなら、貴方はもう黙りなさい!じゃないと、ゼマティスさんにまた石にされるわよ?今度は顔以外全部かもしれないわ!」
緊張感のないセリフを連発するトラオを、ひとまず黙らせる。
「しかしゼマティス様じゃないなら、アレは誰の仕業なのか……。うーむ……困った……大きな問題になったぞ……」
「そんな酷い状況なのかね?記録水晶で状況は撮っておらんのか?」
「そうだった!記録水晶映像ならバケットの街の村長へ見せたのがありますな!ゼマティスが見れば、それが何かわかるかもしれないですな!」
そう言ってメーンタームは、両手に収まるくらいの大きさの水晶を取り出すと、息を吹きかける……
「ゼマティス様……ちょっとこれを見てください。これは端から端まで鉄で出来てるんです」
ゼマティスに渡した水晶には、見慣れたものが映し出されている……
それは何かというと『車』だ……
何とそれは、自宅へ帰る時に事故に巻き込まれるまで乗っていた、自分の『愛車』だった。
「そ……それって……私が乗ってた車です!!」
「ホウホウ!!これがコバトがあの時に言ってた『クリマ』か!こりゃまた珍しい!」
そんなに発音が難しくない筈だが、何故かゼマティスは車をクリマという……しかし問題はそこではない……
メーンタームが此方をガン見しているからだ。
「これは……君のだと?クルマと言うのかね?」
「はい……間違いなく私の車です……」
「それで……何故こんな風に道を封鎖したんだ?馬車も通れず、皆困ってるんだ。一刻も早く退かしてくれないか?」
「ご迷惑かけてしまいすいません……でも何故そこにあるかも私には分からないんです!何せ私自身も、昨日訳も分からず突然ここで目覚めたので……」
そう説明するもメーンタームは『当初の予定が車のせいで全くこなせない』と憤慨する。
しかしゼマティスは水晶を覗き込み、冷静に現場の状況を確認している。
「じゃが……これは……そもそもどうやって入ったのじゃ?それにコバト……これは何をする物なのだ?」
車を見たことがないゼマティスとメーンタームに、その詳細を説明するのは非常に困難だった。
ガソリンの詳細やエンジンの原理など説明ができない。
そして運転の操作を説明しても、想像ができないようだ。
当然アクセルとブレーキの説明もチンプンカンプンだった。
「ってか……お嬢さんは一体誰なんだい?収穫手伝いでバケットの街から来てるのかと思ったが……まさか……貴族様か?……じゃなかった……で御座いますか?」
「貴族?私が?いやいや……違います!私は春から単なる社会人です!」
メーンタームは何処となく変な事を言う娘に戸惑うが、魔導師ゼマティスの前ともあり、それを口には出せなかった。
しかしそれを見たゼマティスは、困り顔をしつつ口をひらく……
「うむ……どう説明したものか……。メーンター説明が難しいのだが……。まぁ言うなれば……実は彼女は遠い地の者じゃ……他の大陸のな」
「ぶはははは!ゼマティス様は冗談が上手いなぁ!見た事もない物にその説明!そして大陸人?何処にそんな大陸など……私をかつごうとしても無駄ですぞ?」
「「…………………」」
「……ぶはははは!名高い魔導師様が迫真の演技をされるとは!」
「「…………………」」
「いやはや……良い物が見れました。ですがゼマティス様!気をつけて下さいよ?新天地に憧れる若者などがその話を聞いたら……心から信じてしまいますぞ?」
笑い続けるメーンタームに、黙ってスマホと免許証を見せ、ついでに異世界のお札と貨幣を見せる。
「信じて貰えるか分かりませんが……スマートホンという電話です。それであの車を運転する免許証に……国で流通してるお金がコレです」
「ん?………え?………え?……本当に?………ヒィィィ………!!」
メーンタームはびっくりし過ぎて、座ってた椅子ごと後ろにすっ転ぶ……
「揃いも揃ってコイツ等はダメダメニャ。それにコバト……それは絶対に言っちゃ駄目なヤツニャ!」
「し……仕方ないじゃない!だって私の持ち物が、この異世界の人の迷惑になっているって知ったら、説明くらいしないと……」
「だからって、何も馬鹿正直に話さなくてもいいニャ!それに異世界の単語はもっと禁句だニャ!昨日の夜一緒にスマホで見た『動画』とか言うやつと同じで『ピー』が入るニャ!」
トラオにそう言われて『確かにその通りだ!』と思ってしまう。
ゼマティスをチラリと見れば、困り果てた顔で顎髭を触っていた。
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