第9話「魔石と精霊」


 魔石とは一般的には『魔物の魂』と呼ばれる物で、この世界のどんな場所にでも存在する『特殊な石』だと言う。



 その石を使い魔物は転化を果たし、この異世界で生まれ出るそうだ。


 なので魔物を倒すと必ず手に入り、その系種の魔物を特定するのにも使われる。



 主な使用方法は扱いによって異なる。


 有名なのは使い魔の作成などに使われたり、職業で言えばテイマーなどは魔石から希望する魔物を生み出して従わせる。



 魔導師や魔道士などは、同じ石同士を掛け合わせて特殊な効果を生むと言う。


 逆に錬金術師は、違う石を掛け合わせて特殊な効果を引き出すそうだ。



 どんな状況であっても、使う魔石の属性と大きさは重要だと言う。



「そんな重要なもの……私が貰っていいんですか?」



「構わん構わん!儂の部屋には山の様にあるでな!利用方法じゃが、金に困った時に街で売るといい」



「売れるんですか?……そうか……これでご飯が食べれるのか……不思議な世界です……」



「ああ売れるぞ?そのサイズなら暫く喰い繋げるじゃろうからな!」



「私たちの世界で言えば、宝石と価値が似てるんですね……」



「宝石は宝石でちゃんとあるし、魔石よりはもちっとばかり高価じゃぞ?それに魔石とは言うが、実はそれは石ではないからな……」



「そうだニャ!モグモグ……魔石は石じゃないニャ!……クチャクチャ……魔石は精霊の成れの果てニャ!」



「あ……トラオ!?いつの間に私のお肉を!!……また適当なことを言って!!アナタの言葉は嘘っぽく聞こえるわ」



 突然机の下から姿を表して机に乗ると、勝手に食事にありつくトラオに辛辣な言葉を投げる。



 しかしゼマティスから『実はトラオの言う事は合っとるんじゃぞ?』と言葉が帰ってきてビックリする。



 そしてトラオを見ると器用に胡座をかいて座り、前足で肉を掴んで食べている……


 オヤジの様なその様に、思わず二度見をしてしまう程だ。



「クチャクチャ……だから言ったニャ?魔石は精霊の死骸が砕けて石になった物にゃ」



「ちょっと……精霊の死骸って……遺体とか亡骸とか言いなさいよ!イメージが悪いじゃない!」



「何言ってるニャ……クチャクチャ……対して変わらんニャ?……クチャクチャ……」



「ちょっと!トラオ!……口からお肉がはみ出てる!!食べるか喋るか……どっちかにしたら?はみ出た肉が落ちちゃうわ!」



「ニャ?はみ出て落ちても食べるから問題ないニャ!ワテシは猫ニャよ?過度な期待をしないでニャ!それより説明ニャ……クチャクチャ……」



 そう言ったトラオは、口から溢れ落ちた肉を地面スレスレで尻尾を使い叩き上げると、空中で見事に『パク!』と噛み付く。


 そしてドヤ顔をしたまま、また説明の続きをする……



「魔物は聖霊になりたくてもなれなかったその魂が、精霊の残留物に纏わり付くことで基本の形を成すニャ……そして時間を経て魔物として生まれるニャ」



「という事は……トラオは精霊になれなくてマカニキャットになったって事よね?」



「そうニャ……コバトはなして首を傾げているニャ?」



「あれ?……ゼマティスさん……でも使い魔って、魔石から生まれるんですよね?」



「コバト……何言ってるニャ?使い魔も魔物ニャし、ワテシも魔物ニャ……」



「え?なんか凄くこんがらがってきたわ……ゼマティスさんがさっき魔石からは使い魔がって……」



 トラオの説明を聴きながら、必死に頭を整理する……


 魔石は精霊の成れの果てであり、それが結晶化した物であると頭に叩き込んでから、次の疑問を順を追って潰す……



 使い魔は魔石から生まれるが、トラオも使い魔だ……


 トラオは使い魔でありマカニキャット……



 そのトラオはゼマティスが生み出したのか、それとも自然発生の魔物なのか……



 自然発生にしては、出会ったその日から何故か懐いてくれている。



 しかしゼマティスが生み出したなら、トラオはお爺さんの使い魔であり、勝手に私がぶん取った事になるだろう。



 そんな事を考えていたら、頭がこんがらがってきたのだ。



 しかしトラオは冷ややかな目で見ている。



「何言ってるニャ?使い『魔』って言うくらいだから……ちゃんと魔物ニャ!コバトしっかりするニャ!脳味噌の大きさ鳩並みニャ?」



「まぁまぁ……仕方ないじゃろう?コバトにはちょっと難しいんじゃ。まだ此処に来て1日じゃぞ?」



 ゼマティスはそう言うと、長い髭を撫でながらこれから言おうとした言葉を、もっと簡単にまとめた。



「ちなみにな……トラオはマカニキャットと言う自然発生した魔物で、使い魔の資質を持った知能の高い猫系魔物じゃ」



「はい!そこは理解できてます!大丈夫です!」



「うむ……そしてマカニキャット自体は、風精霊になれなかった魔物じゃ……じゃから風を使わずに飛べるんじゃよ」



「成程!じゃあ……トラオの様な魔物を自然発生じゃなく、魔石から魔導師さんは作り出せるって事ですね?」



「さっきからそう言ってるニャ!ポンコツニャ……コバトは3歩歩くと忘れるニャ!」



 その言葉を聞いて、鉢植えに植え替えたタイガープラントを、足を使ってそっとトラオのお尻のそばに寄せる……


 すると蕾の口が『パカリ』と開き、トラオのお尻目掛けて素早く噛み付く……



 びっくりするくらい丈夫なツルはトラオをズルズルと引き寄せると、虎の腕の様な葉っぱが『ボコスカ』殴り始める……



「ピャッピッ!!お尻に……タイガー!……ニャ!何するニャ!ボコボコニャー!!コバトから奪ったお肉をやるから辞めるにゃー!タイガー!ハウスニャー!」



「えっとゼマティスさん……魔物からは聖霊にはなれないのですか?」



「そんな事はないぞ?精霊力をその身に宿せば転化が始まり精霊になるぞ?じゃがそう楽なことでは無いからごく稀にしか聖霊にはなれんじゃろうな……」



 そう言って、ゼマティスはトラオを見る……



「聖霊になったらお前ら覚えてるニャ!この草め!お尻につけた歯形の怨み……晴らさでおくべきニャ!」



「トラオは無理じゃろうなぁ……精霊の残留物がどう見ても不良品だった様じゃ……下手すればただの石コロだったんじゃないかのぉ?コヤツの場合」



 そう言ったゼマティスの方を見ると、遠くから馬車がこちらの方角へ向かってくるのが見える……



「ゼマティスさん……馬車が見えます……アレってこっちに向かってきてます?」



「うん?おお……確かにこっちに来てるのぉ……」



「ゼマティスさんの家から近いあの道はどこへ続いてますか?街ですか?だとすればこっちに来ない可能性も有りますけど……」



「いや……あの馬車は見覚えがあるのぉ……予定では明日来るはずじゃが……」



 そう言ったゼマティスは『今収穫している物で薬を作るんじゃ。それを明日買い付けに来る予定じゃが……』と言うと目のあたりで親指と人差し指で円を作る……どうやら何かの魔法の様だ。



 そしてゼマティスは椅子から立ち上がると『望遠視』とボソリと呟いた。

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