第8話「ゼマティスの魔法と絶望するアルラウネ」


 目の前のアルラウネは全体的に言えば巨大な華なのに、細部に神経があるのか時折『ビクンビクン』と動く……



「ガ!?……ギィ!!……ナニガ?……この土の腕は何!?………ガフ」



『ミシミシ……ブシュゥゥ……ベキベキボキ………』



「ガフ……ギィヤァァ!!………き……貴様……何だこれは!!……今……何をした!?……」



「え………え!?……ヒィ………いったぁぁ……」



 足を絡めていたアルラウネのツタが緩み、私は掘り起こされた土に落とされた……


 ふかふかになっていたので大事には至らなかったが、頭から落ちていたら大怪我だ。



 しかしアルラウネにしてみれば、全くもってそれどころでは無い……


 有利な状況から、圧倒的不利な状態になったのだから当たり前だ。



「まさか……さっきのは土属性の魔石?……それを土の拳に?……小娘……貴様……何を」



『ミチミチ……グチュ……ベキボキ……グジュ……』



「ガフ……ガガガガ……グギュ……ヤメロ……根が………結合部が……切れる………やめろぉぉぉぉ!!」



 アルラウネが絶叫をあげる中、聴き慣れた声が響く……



「ホレ!終いじゃ!!儂の畑を荒らす害獣め!……おっと……華だったか……こんな時はなんと言うべきかのぉ……まぁ良いわい」



『ぶちぶちぶち』



「じ……じじぃ!!……貴様……か!!………お前……何者……」



「儂か?儂は………って……逃すと思っておるのか?……舐められたもんじゃのぉ……『スネア・フラーモ!』……」



「ヒィ!ごあぁぁぁ!焼ける……やめろ……根の先まで火が……そこには本体の球根が……やめろ……『私』が……焼ける……ヤメ…」



「上を引き千切って根が剥き出しじゃから……『本体まで』届いてよく焼けるじゃろう?この魔法はな………お?なんじゃ……もう聞こえておらんか?弱いのぉ……ヨワヨワじゃ。全くもってつまらん」



 ゼマティスは泣きじゃくるコバトを起こすと、泣き止む様に宥める……



「大丈夫じゃぞ?あんな雑魚にお前を喰わせるわけが無いじゃろう?」



「その割には随分遅かったニャ!ヘボジジィ……」



「誰がヘボ爺じゃ!そもそもお前は、そうやって消えてさえしまえば、そんな蔦玉から出られるじゃろう?何故下の武器をコバトにやらなんだ?」



 そのゼマティスの言葉を聞いて、トラオをしっかり睨み付ける……


 何故なら、トラオは緩んでもない球体の上で毛繕いをしているのだ。



 私からすれば『あの苦労は一体何だったのだろう……』そう思うしかない。


 だから尚更涙が溢れてくる……。



「何言ってるニャ!逃げたらトラオはまた捕まるニャ?……どうせ爺さん来るんニャ……ボケ防止の為にボケジジイに任せるのが手っ取り早い……」



 その説明を聞き更にイラッとしたので、トラオの一瞬の隙をついて飛び掛かる……


 そして消えて逃げられる前に、トラオをむんずと掴んだまま、助走をつけて遠くへ放り投げた。



「は!!……辞めるニャ……コバト……ワテシを放り投げるニャー……ニャーーーーー!!アイ・ニャン・フラーイ!!」



 『あの異世界の馬鹿猫は運動神経がピカイチなので、体勢を整えてくるりとまわり着地して、また私を馬鹿にする筈だ……』そう思っていたが、予想外のことが起きる。



 トラオは翼を出すと『スィー』と優雅に飛んでいく……



「は!……はぁ?……トラオ!あんた……まだ飛べるじゃない!飛べないって……まさか嘘なの!?」



「どうしたコバト?……マカニキャットが飛べない事なんかないぞ?風が無くても奴等は何処でも飛べるんじゃ。まさか……あの馬鹿猫は『飛べない』と言ったのか?」



「そうなんです!!飛びすぎで魔力が無いから、もうツタも切れないって!」



「そんなわけ無いぞ?奴等の爪は鋭く、植物系の魔物には効果絶大じゃ……魔力なんぞ関係もない……」



 ゼマティスにマカニキャットの特性を聞いた事で流石に怒りを覚えたので、未だにフラフラ飛んでいるトラオを追いかけようとする。



 だが残念な事に、掘り起こされた地面に足を取られ盛大にすっ転ぶ……



「転んだニャー!コバトは一生かかってもワテシを捕まえられないニャ………ダメダメ……ピャァァァ!!」



「おっと……トラオ……そこにはお主達マカニキャットが苦手な『タイガープラントの畑』があるぞ?気をつけないと……文字通り『ボコボコ』にされるぞぃ?」



「それを早く言うニャ!!耄碌爺ー!!ピャー!!右も左も……ピャー!!タイガープラントニャー!!」



「言ったじゃろう?まぁ……そこに飛んでいったお前が悪いのぉ……」



「コ……コバト!助けるニャ!飼い猫を助ける……ピャーー!ぶっ叩かれてボコボコに……コイツ等早くて……逃げられ………ピャー!!」



「ゼマティスさん!あんな馬鹿猫……もう放っておきましょう!!」



「そうじゃな!あの猫に構っておったら全くもって収穫が終わらん!……それに掘り起こされた噛み草も、早く回収せんと傷んで無駄になっちまう」



「コバトー!ピャー!!コバ………ピャー!お尻噛まれる……お尻がぁ……噛み……ピャー!!こっちはシャーク・プラントニャー!!何でこの畑には……こんなのばっかり……ピャー!!鼻を噛むニャー!」



「ゼマティスさん、そうなんですか?じゃあ急がなきゃ!さぁ、仕事仕事!!あれ?アルラウネとか言う魔物が居た場所……この大きな色付きの石は何でしょう?掘り起こされた土の間に沢山挟まってます!」



 視線を地面に落とすと、畑の中に綺麗な石を見つけた……


 手に拾ったそれは卓球の球くらいの大きさで、綺麗な緑色に光り輝く宝石の様なものだった。



 ◆◇



「さぁ、コバト昼食じゃ!既に時間は15時じゃが……まぁ朝飯が遅かったから丁度良いじゃろう?」



「そうですね!ゼマティスさん美味しくお昼を頂きましょう!」



「ペット飼育放棄だニャ!コバトはワテシにも飯を……辞めるにゃ!シャーク・プラントをコッチに向けるのは辞めるにゃ!ワテシが悪かったニャ!!ちゃんと謝るニャ!」



「今度同じ事したらもう許さないからね!死ぬかと思ったわ……握り潰されて!」



「握りじゃ無いニャ……縛り潰されてニャ……プププ……ヒィ!辞めるニャ!シャークダブルは辞めるニャ!!」



「じゃあ上げ足取ってないで言う事聞きなさいよ。あと!……ちゃんとゼマティスさんにも酷い言葉使ったことを謝りなさい!」



「仕方ないニャ……コンチクショウ……飯の為に謝るニャ。御免なさいだニャ!コバトに免じてトラオを許すニャ!耄碌爺……」



 あまりにも口が悪いトラオにタイガープラントとシャークプラントをトラオに向けてGOさせる。



 すると、もうお尻を噛まれたくないトラオは、すっ飛んで逃げていく……



「ゼマティスさん……本当にすいません……」



「大丈夫じゃよ!あの言葉はどうせワザとじゃろうからな……お主が引きずらない様に、ワザとあんな言い方しとるんじゃろう……」



「本当ですか?口が悪すぎて信じられませんよ……マッタク……」



「そもそもアルラウネが出た時、トラオは何か言わんかったか?」



「あ……そう言えば……珍しく慌ててた気がします……」



 ゼマティスは『じゃろう?』と言うと、笑いながらもパンに喰らいつく。


 その様を見て、つい自分もパンに手を伸ばす……



「モグモグ……そう言えばさっきの綺麗な石……本当に貰っていいんですか?……モグモグ……」



「ズズズズ……構わんぞ?あれは『魔石』と言うんじゃ……ズズズズ……」



「モキュモキュ……魔石ですか?……ゲームとか異世界小説で聞いた事があります……ゴクゴク……特別な石なんですよね?」



 私は食事を食べながら、自分の世界には無い魔石と言う物の話をした……


 どうやらこの異世界では、魔石については知っておかねばならない一般常識の様だ。

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