第6話「初めての仕事は異世界でスタート?」


「起きるニャ!!コバト寝坊助ニャ」



「あ……あと5分………いや10分………『スヤァ』…………」



「……チィ………また寝たニャ!!……何時迄も起きないなら……最後の手段ニャ!大ニャンプ!!ローリングトランポリン!」



「ゲ……ゲフ!?………ゴホゴホ………こ……こら……トラオ……なんて事するの!?お腹の上で飛び跳ねないで!!私はトランポリンじゃ無いから!!」



「起きないハトが悪いニャ……寝相はコバトじゃないニャ……オオバトニャ……だらし無いニャ……」



「く……なんて猫なの……」



「良いにゃ!ゼマ爺入ってくるニャ!コバトが漸く起きたニャ!!」



『コンコン』



「んーーーやっと起きたかな?コバトや……えっと……食事でも掃除でもすると……昨日言っていた気がするんじゃが?もう……10時じゃぞ?朝飯にはだいぶ昼に近い気がするんじゃがな?」



「へ!?………う……うそ?もうそんな時間?昨日深夜にお風呂入ったから……ああああ!ゼマティスさんごめんなさい!!私ってば初日から……」



「嘘じゃ嘘じゃ!構わんよ。よく寝れたなら尚良かった……。一晩泣き明かしていたら……と思ってたんじゃ。快眠出来たなら一安心じゃよ!」



「ですが……朝食さえまだなんですよね?……私が朝からヘマしたから……」



「ああ、食事か?……アンカーマンが居る以上、仕事の殆どは奴等がやるからな……お主が作るものは無いぞ?此処に居る理由は、異世界で暮らす手段をお主が身につける為……と言った方が良いかのぉ……」



「確かに……昨日ひと月しか猶予が無いと仰ってましたね!……でも……それを含めて寝坊は在るまじき事です……。正社員一日目にして、寝坊で遅刻した気分です……」



 ゼマティスはコバトに『まぁやる気がある事は認めよう!朝食が終わったら早速色々教え込むから覚悟するんじゃぞ?』と言う……


 コバトはゼマティスと食堂に行くも、既にトラオまで食事を終えていて、食べるのは自分だけ……と言う恥ずかしい思いをした。



 頑張って急いで詰め込むので、朝食を食べた気がしない……


 非常に美味しい食材を、寝坊のせいで無駄にしている感じでさらに凹んだ。



「そんなに慌てんでも……ゆっくり食えばいいんじゃ……」



「ゼマ爺、コバトを甘やかしちゃダメニャ!……このままだとダメバトニャ!魔法を使えるイカすハトにならないと……ワテシの生活は極貧且つ穴あき住居確定ニャ!」



「ちょっと!トラオ……飼い主を労ろうって気は無いの?」



「コバトは今何もして無いニャ……してるのは寝坊してるだけニャ……ネバトニャ!コレじゃ労えないニャ……今労うと……『よく寝坊しました』としか言えないニャ!」



「ご………ごもっともです…………ふぅ……飼い猫にまで馬鹿にされる異世界ライフ……はぁ……早く帰りたい……」



「ならもっと早く起きるニャ!」



 ゼマティスは爆笑しつつ、『今日は畑の基礎を教えてやるから、そう落ち込むな……まだ一日目始まって無いんじゃぞ?』と言って、コバトを元気付けた……



 ◆◇



「それではコバトには、ここの畑に生えているモノを収穫して貰おうかのぉ……」



「………う……うぅ…………な……何ですか?コレ……………」



「うん?コレはグラス種とプラント種じゃな……ちなみに手前に広がっているのは噛み草で、正式名称はハウンドグラスじゃ。後ろの方が齧り草と言って、正式名称はウルフプラントじゃな……」



「噛み草?……ギャグか何かですか?でも……『ガチガチ』言ってます……もしかして……名前の通り噛んできますか?」



 葉っぱの真ん中にギザギザの歯があり常に『ガチガチ』と音をあげる。


 噛み草は噛むかもしれない……という訳ではなく、本当に噛む様だ。



 何故なら、ゼマティス爺が畑に入れた杖を、噛み草がひたすらガジガジ噛んでいる。


 脚を踏み入れれば間違いなく噛まれるだろう……問題は噛まれてどれくらい痛いかだ……



「さっきも言ったが、噛み草と呼ばれているこの魔物は『ハウンドグラス』と言う正式名称があってな、文字通り犬草と言う意味じゃ。馬鹿犬とも呼ばれていて、足を入れればひたすら噛んでくるぞ?一応魔物じゃからな……」



「ま……魔物なんですか?こんなのを……どうするんですか?収穫しても噛まれるんですよね?」



「うん?この噛み草と言うのは……まぁ使い道が沢山あるんじゃよ」



「ゼマ爺……説明がめんどくさいと思ったニャ?」



「フォッフォッフォッ……」



「笑って誤魔化すって事は……やっぱり面倒なんだニャ……」



 そう言ったトラオは、ゼマティスの代わりに魔法生物は魔法薬の素材で使うと教えてくれた。


 刈り取り方は簡単で、棒を上から入れると集まって噛み付くので、その間に鎌で根本から切り裂くだけだ。


 全く移動をしない魔物で、株の真上に棒を入れると反射的に棒を噛むので、対処が楽だという。



 そして切り分けると途端に動かなくなる、非常に不思議な植物だ。



「じゃあコバト……この周辺の噛み草の刈り取りを頼んだぞ?噛み草のレベルは1じゃ。じゃが齧り草はレベル2じゃ。噛まれると、ちょこっと痛いからな?気をつけるんじゃぞ?」



『ガジガジガジガジ……ガジガジガジガジ……ガチガチ』



「こんなに噛むのに……ちょこっと痛いって……絶対嘘ですよね?」



 そんな質問をした時には既にその姿はなく、他の畑に向かっていく後ろ姿だけが見えた。



 ゼマティスは他の作物の収穫に追われていたので、短距離転移をして畑の間を移動していたのだ……


 だがコバトにして見れば、初めての魔物討伐だ……決心が付くまで時間がかかる。



 それを見ていたトラオは柵の上に飛び乗ると、毛繕いをしながらアドバイスをする……



「ビビリバトニャ……相手は所詮葉っぱニャ……相手は樹木系魔物のトレントじゃないニャ?それに、動物の噛み付きとは全く違うニャ。試しに棒を引き抜くと言っている事が分かるニャ……」



 トラオに言われた通り、棒を真上に引き上げると噛んでいた葉っぱが裂けていく……



「あ………裂けた………ギザギザの歯がこんなに沢山あるのに……こんな簡単に裂けるの?なんか想定外の脆さだわ……」



「ゼマ爺!!……コバトがヘマしたニャ!葉っぱが裂けたニャ!!」



「!?……へ?………ちょ……ちょっと!あなたが試しにって言ったんじゃ無い!」



「収穫してるのに、言われて本当にやる馬鹿いないニャ……コバトは本当に駄目だニャ……」



「く……馬鹿猫……にゃおちゅーる……もうやらないんだからね!!」



 猫と人間の喧嘩をゼマティスは、微笑ましいと思いながら眺めつつも『どうせ薬作る時に裂いて煮詰めちまう!多少裂けても気にせんでいい!』と大きな声で言う。



「ほぅら見なさい!ゼマ爺は私の味方なんだからね!!意地悪な貴方は、少し噛み草か齧り草に噛まれるといいわ!!」



 コバトがそう言うと、トラオが下に垂らしていた尻尾に齧り草が食らい付く……



「ニャ!?」



「ザマァ見なさい!全く……少しくらい痛い目を見なさい。助けてあげないんだからね!」



 しかしトラオは、噛まれてモグモグされている尻尾を根本で切り離し、すぐに肩に飛び乗って来た……



「コバト……逃げるニャ!!此処にいたら駄目ニャ!」



「何?今度は何で私を騙すのかしら?いい加減にしないと……ゼマ爺に言いつけちゃうわよ?」



「違うニャ……今度は違うニャ!!……この気配……『アルラウネ』だニャ!!地面の地下に巣作り………ニャニャニャニャニャニャ!?」



 トラオの言葉を笑い飛ばそうとした瞬間、突然地面が盛り上がり『ボコン』という音と共に、巨大なケバケバしい色の華が咲き乱れた。

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