第4話「びっくり箱?」


「見ておれよ?コレは魔法触媒で生まれる『バク』と言う魔法生物じゃ!本来は、バクを生み出すのに約30分はかかる。じゃが魔茶を使うと、数十秒で生み出せるんじゃ!」



『バクゥ!!』



「ほれ!生まれたじゃろう?コバト、今日はバクを抱えて寝るがいい。バクは悪い夢を喰ってくれるからな!多分今日は、このバクが良い助けになるはずじゃ!」



 ゼマティス爺は産まれたばかりのバクを押し付けて……『コバトのいた世界は、面白い世界じゃのぉ……タバコが身体に害か……変な世界じゃのぉ……フォッフォッフォッ……』と笑いながら部屋を出て行った。



 異世界だけあって何もかもが普通では無い……


 そう思いつつ、ハンドボールくらいの大きさのバクをベッドに転がしてから、拾ったリュックを開けて中身を確認した。



 寧ろ普通で無いのは自分であったが、基準となる世界が違うのだから、それに気が付かないのは仕方がない。



「リュックの中身……何コレ……ハサミにカッター……それにスパチュラ?これって全部私の部屋の造形道具……なんでリュックの中に?」



「何言ってるニャ?コバト……夕飯食べ過ぎておかしくなったのニャ?」



「ちょっと!!さっきからもう……私の部屋に置いてある物が、何故かこのリュックから出てくるから『変だ』って言ってるの!おかしいでしょう?持って歩いてないものが入ってるんだから!」



「だから何を言ってるんニャ?そんな物この世界には何処にでもあるニャ……普通の『ビックリ箱』ニャ?箱じゃ無いのが珍しいくらいじゃないかニャ?現にそれを見て、ゼマ爺も何も言ってなかったニャ?」



「ゼ……ゼマ爺って!今日会ったばかりなのに……貴方もうそんな言い方なの?……」



「ニャ!?……何て呼ぶか聞いたらゼマと呼べ言ってたニャ?だから爺さんとくっつけてゼマ爺だニャ!おかしいニャ?おかしいなら爺さんにするニャ!」



 コバトは頭を抱えながら……『ゼマ爺にしときなさい……怒らせたら貴方ゼッタイ三味線にされるわよ?』という……


 これ以上何を言っても仕方ない……と観念したコバトは布団の上のバクを抱えて座る……



「貴方もこのバクくらい素直で可愛かったら、オヤツくらいゼマティスさんに貰ってくるんだけ…………ちょっと!何食べてるのよ!信じられない!ベッドの上よ!?ここ……」



「美味いニャ……小鳩も食うかニャ?……絶品ニャ!もう3つ目食べ終わるニャ!」



「って言うか!食べ散らかして汚いわ!何をベッドの上で食べてるの………ちょっと!これ以上、借り物の布団を汚さないでよ!怒られる……にゃ………にゃおちゅーる!?何であなたが私の世界の猫用オヤツ食べてるのよ!!」



「にゃおちゅーると言うニャ!?コレは猫に食わすの危険ニャ!辞められない止まらない!ニャルビーのシッポエビセン以上に美味しいニャ!」



 にゃおちゅーるを食べ散らかす猫をとっ捕まえ、何処から手に入れたか聞く。


 すると、あっけなくリュックのサイドポケットから取り出したと白状した……



「サイドポケット?………そんな所に何で!?」



「ニャから……『ビックリ箱』だって何度も言ってるニャ!!コバトが考える、猫のおやつと言ったら?何ニャ?」



「猫のおやつと言ったら?………そりゃ貴方が食べ散らかした『にゃおちゅーる』に決まってるわ……」



「サイドポケットを見るニャ!!コレでワテシがコバトにした4回目のオヤツ催促ニャ!異世界のオヤツ……にゃおちゅーるクレニャ!……」



「!!………ビ……ビックリ箱って………そう言う事なの?………本当にビックリしたわ………これどうなってるの?」



 どうやら猫が催促するたび、私は勝手に『にゃおちゅーる』を想像していた様だ。



 そして『ビックリ箱』は文字通り『ビックリするぞ?』と言う意味の様で、遠くの物を取り出せる様だ。



 問題は、この厚かましい猫が食べている『にゃおちゅーる』が、何処から補充されているのか疑問だと言う事だ……



「このにゃおちゅーる……何処から来てるのかしら?」



「そんなの異世界に決まってるニャ……コバト……脳味噌のサイズが猫以下ニャ……ウマウマ…………」



「ツ!!今度馬鹿にしたら……もうあげないからね!……ってか!そんな事もどうでも良いわ……。いい?異世界から来てるって、そんな事は分かってるのよ!『家にない筈の!にゃおちゅーるが!何処から来たか!!』って事を言ってるのよ!」



「そんなのワテシが知る筈ないニャ?……コバト……脳味噌サイズが………ニャァァァァ返すニャ!まだ半分入ってるニャ!謝るニャァ………ワテシが悪かったです!コノヤロウ!」



「コ………コノヤロウ!?……態度も口も悪いわ……もう………」



「分かったニャ……ちゃんと答えるニャ!でも……多分で良いニャ?……」



 そう言った太々しい猫は、推測をして教えてくれた……



 欲しい物を想像する事で、想像した物を箱の中に届ける『ビックリ箱』だったが、コバトが異世界のリュックを活用した事で、その効果が一部おかしくなったと言う事だ。



 本来、配送物の所在地は自分の家や部屋を限定指定するが、それが『異世界まで拡張』されている可能性があると言う……


 そこでコバトは、ゼマティス爺さんが吸っていたパイプタバコを思い出した……そしてついタバコのCMを思い出す……



「コバト……もう左のポケットがパンパンニャ……何を沢山届けてるニャ?」



「うわ………大変な量のタバコが………箱で2箱も……リュックのポケットが凄く匂う………」



「ウニャニャニャニャ……ワテシもこの匂い嫌いニャ!!………ゼマ爺!!………匂い消しの草クレニャ!……コバトがしでかしたニャ!コバトがクサクサニャ!!」



「私は………臭くない!!」



 ◆◇



「ホウ………それでコレがさっき話していた『異世界のタバコ』か?……ふむふむ……確かに魔茶に比べて、特有な匂いがするのぉ……」



 そう言ったゼマティス爺さんは『棄てるなら儂がもらってもいいかのぉ?』と言い始めたので、分かる限りの情報を添えてプレゼントする……



「フォッフォッフォッ………まさか異世界の品が手に入るとは……親切はするもんじゃ!!ニコチン中毒を気をつけるのはよく分かった。充分気をつけて服用するで安心せい」



「それより匂い消しニャ!臭いにゃ!コバトが臭いにゃ!」



「私は臭くないって言ってるでしょう!!毎日お風呂入ってるから!この馬鹿猫!!」



「フォッフォッフォッ。まぁ喧嘩は辞めるんじゃ!マカニキャットは悪戯好きじゃからな……適当にあしらって置くんじゃな……。ちなみにコレが匂い消しと言うか……匂い袋じゃ……」



 そう言ってゼマティス爺さんは、なぜか匂い消しではなく匂い袋を渡す。


「コレは匂い袋であって、臭い消しではない。害悪を及ぼす魔物が嫌いな匂いを発して、人間や使い魔が好む匂いを出すマジックアイテムなんじゃ」



 本来、この匂い袋は魔物の追跡を撒くために使用する、高価なマジックアイテムだとゼマティス爺さんは言う。


 そしてゼマティス爺さんは『……コバト……この使い魔は、色々とお前の事を考えてくれている様じゃぞ?じゃから喧嘩は程々にな?』と意味深な事を言って部屋を後にした。



 しかしコバトは『フガフガ』鼻を鳴らしながらも、にゃおちゅーるを食い漁る様の猫を見て……『はぁ……ゼマ爺の言う様には……思えないよなぁ……』と呟いて布団の上で仰向けになるといつに間にか寝てしまっていた……

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