第2話「魔導師ゼマティスとマカニキャット(風猫)」
私はお爺さんの後をついて行こうと、急いで落ちている物を拾い集めた……
落ちているリュックは自分の物ではない。
だがお爺さんの物ではない以上、この先々や不思議現象を考えると、持っていく方がいいかも知れない……
そもそも自分の荷物が飛び出ているのだから、まだ何か私物が入っている可能性もある。
リュックを背負うと、何故かずっしりとした重みがある………
『何故こんな重いのだろう……』と思って振り返ろうとするが、その前にお爺さんが問題発言をした……
「何じゃ!?お前……もうマカニキャットを手名付けおったのか?……」
そう言われすぐに首を捻ってリュックの方を見ると……ちゃっかりリュックに入り、首だけ出していた。
重いのも当然だ……
「見た事もないとか言っておきながら……最近の子供が考えることは、意味が分からんのぉ……」
その言葉に何か返事を言しようと考える……
しかし、そんな事は問題でも何でもない……と次の瞬間には思い知る事になった。
「ニャァ……よろしくニャァァァァ……コバト!……背中待機は楽ちんニャー」
私は思わずリュックを放り出した。
しかし今度は何故か頭が酷く重い……その理由も簡単だ。
マカニキャットは落としたリュックから飛び出て、私の頭の上に乗っていたのだ。
「魔法のリュックごとワテシを落とすなんて……酷いニャァァァァ………『ペシペシ』……」
「ちょっと……何するのよ……尻尾を退けて!」
「酷いことはいけないニャァ………『ペシペシ』……飼い主が虐待するニャァ……」
「尻尾を………く!……尻尾でオデコを叩かないで!!」
「ところでコバト……餌はまだかニャ?」
非常にムカつく猫だ……『落とされる訳……ニャァイニャァァァァ……ニャッヒィ……』と言いながら、尻尾でオデコをはたいて来るのだから、本当に始末が悪い。
「フォッフォッフォッ………随分懐かれたもんじゃのぉ……」
「懐かれたと言うより……舐められている気がします………」
「じゃが……さっきの悲痛さは無くなったんじゃ……そのネコに感謝するんじゃのぉ……」
「そうだニャァ……餌と名前を早くくれニャ!感謝は形で示す方がいいんだニャァ……。コバトは感謝という言葉を知っているニャ?」
馴れ馴れしく『コバト!コバト!』と言いながら、尻尾でオデコを叩かれる度に『凄くイラっと』する……
そして非常に態度がデカい……
「ってか!何で尻尾でオデコを何度も叩くのよ!!」
「「愛情表現じゃろ?(ニャ!)」」
ゼマティスという爺様とマカニキャットに言葉が揃った事で、怒りが2倍になった私は『ムンズ』と尻尾を掴んでから……
『今度尻尾でおでこ叩いたら、この尻尾……切り落とすわよ!』と脅すと……
「切るだけ意味がないニャ?また生えて来るニャァ……尻尾が欲しいニャー?……欲しいならアゲルニャ!」
そう言ってマカニキャットは、クルリと私の首に巻きつけた。
そして耳元で『プチン』と音がした……と思うと、上から新しい尻尾が伸びて来て、またオデコを叩き始めた……
「ワテシの尻尾は保温性に優れてるニャ!それにダニもノミも居ないにゃ……マフラーの代わりに使えるニャァ!良かったニャァ?コバト!『ペシペシ』……それより餌欲しいニャ!腹ペコニャー!!」
馬鹿猫に脅しを言った私が馬鹿だった……
◆◇
「ふむ……なかなか面白い話じゃった。まぁ、お前にしてみれば笑えないがのぉ……」
私はお爺さんに、今いる場所の話を聞く前に、自分の事を話した……
そうする事で帰る手段が見つからないか……そう望んだからだ。
その結果、お爺さんはある種の答えを導き出した……『転生や転移・召喚と召還』だった。
「お前さんが此処にいるのは、何をどうした結果の末に今に至るのか……それは今の儂には分からん」
「ま……魔法使いのお爺さんでもですか?『どうやったら帰れるか』それだけで良いんです!私に今必要なのは『帰る事』なんです……」
「悪いのぉ……何事もそうじゃが……『調べる迄は何とも言えん』………と言うのが答えじゃ」
「そ……そんな……じゃあ……『帰れない』という事ですか?それはこれからもずっとなんですか?もし調べたら元の場所に帰れるんですか?」
「矢継ぎ早に言われてもなぁ……。すまんな。儂に言えるのは『今は分からん……』それだけじゃ。じゃが『転生や転移・召喚と召還』についての説明はできるがのぉ……」
魔導師ゼマティスはそう言うと、コバトへ転生と転移の違いを説明した……
転生とは『新たな命』として生まれ出る事……
だが『特例』もあり、死ぬ前の記憶を持っている可能性がある。
転移とは『特異地点』に対象を移動させる手段で、生き物だけで無く『物』もそれに当てはまる。
そして『転移』には、『ナニカが関わる場合』と『自然発生』する場合がある。
『召喚と召還』は特定の魔法やスキルを使い、ある地点から『魔法陣を経由して召喚する方法』だと言う。
この場合、スキルもしくは魔法の召喚師が必要だけでなく、媒体も必要になる。
媒体とは、魔法陣や魔法印そして魔力文字がそれにあたり『それが揃わないと同じ場所には帰れない』という、非常に迷惑極まりないモノだ。
「では、そのどれかで私は此処へ呼ばれたって事なんですか?」
「おそらくじゃがな……。他にも幾らか可能性もあるが……それは主に扱われている方法では無いじゃろう……」
「人間は時に大馬鹿だニャァ……問題はそこじゃ無いニャ。帰るまでコバトはどうやって生きて行くニャ?それにワテシの今日の餌はどうなるんニャ?」
近くにあった物を苛つくマカニキャットに投げたくなる衝動に駆られるが、お爺さんは目で『今投げようと考えたそれは、儂の家の物じゃぞ?』と言う目で見る……
「ふぅぅ……まぁ、もうじき日暮れじゃ……娘一人を放り出して『魔物の餌』のでもなったら寝覚が悪い……仕方ない部屋と夕飯くらいは用意してやろう……」
そう言ってお爺さんは、椅子に立て掛けてあった杖を『ゴツン……ゴツン』と5回ほど床を叩く。
するとお爺さんの影が『ムクリ』と起き上がると、叩いた数だけ分裂していく……
「アンカーマン!飯の準備を三人分、あとは客人の部屋の用意を!」
お爺さんがそう言うと、影の人形は音も立てずに部屋を出ていく……
「お………お爺さん……アレは?」
「うん?ああ!そうかお前さんの世界では魔法がなかったんじゃな!アレは『アンカーマン』じゃ。影人間と呼ばれておる。主に自分の影を使って分裂させて手伝いをさせる『生活魔法』じゃ」
「ア………アンカーマン……危険は無いんですか?」
そう聞き返すと、『名前の理由なんぞ聞くなよ?儂が子供の頃には既にある魔法じゃ!生活魔法の由来など調べんからな!』と笑いながら言う。
「じゃが……お前さんの世界では、『自分で料理を作る以外は食べられん』と言う事じゃな?こりゃまた……けったいな世界じゃのぉ……」
「いえ……コンビニでも買えますし、お弁当屋さんがあるので、自分で作らなくても食べれます。って作り手の話でしたね!結局料理は、人が主に作ります。材料の加工は機械で出来ますが……」
ゼマティスは『機械』と言う言葉にすごく感銘を受けたのか、料理ができるまで根掘り葉掘りコバトに聞き続けた……
暫く魔導師ゼマティスに質問攻めに合うが、その質問攻めは唐突に終わりを迎えた……
話の途中で、突然アンカーマンが壁をすり抜けて来たからだ。
「えっと……明かりは蝋燭では無くて電気ですね。風力発電の他に火力発電と、原子力発電、水力発電も…………ひぃ!?…………きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『ビィアァァァァアァァァァァアァァァァァ!!!』
アンカーマンが壁をすり抜け突然現れたので、私が悲鳴をあげた瞬間、なぜかアンカーマンまで同じ様に悲鳴をあげた……
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