第1話「異世界と変な老人」
『起きんかい娘!………人ん家の庭先で何をしておるんじゃ!!何かを盗みに来たなら、ウチには何も持っていくものなんぞないぞ?』
「う…………うぅう………あ……崩れる!………天井が!崩れるぅぅぅ!!きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「うぉぉぉ!?#%¥!£$€%¥#!?……天井が崩れるじゃと!?………ひぃぃぃ…………」
「え!?……う……此処は……何処?……頭が……痛い………」
「って………此処に天井なんぞあるかい!あるのは青空じゃ。急にびっくりさせるな……小娘が!……寿命が10000年は縮んだぞ!」
「ふえ……はぁぁぁ………ひぃ!………ひぃぃぃ………髭が……サンタ……さん?」
「こ……今度はなんじゃ?……は!?……まさか今度は儂の顔か!?人の顔見て驚きおって………お前より儂の方がよっぽどショックじゃぞ?……全く………そもそもなんじゃ?サンタってのは?」
「す……すいません……お……お爺さん。所で……こ……此処は?何処ですか?……」
「此処はじゃと?……『此処は儂の家の庭先で、お前は絶賛不法侵入中』じゃ!………」
「庭!?……何で私がそんな所に?」
「じゃから!!儂が知るわけないじゃろう?……分かったら帰れ!!どうせその身なり……街の貴族の御令嬢様っていった所じゃろう?下手な芝居までしおってからに……」
「芝居まで?そんな芝居なんて……本当に何もわからないんです……私は気が付いたら此処に……」
「どうせ気を引いてお涙頂戴じゃろう?お前ら貴族には魔法指導も素材売買もせん!それにしても……お付きまで返して……手が込んだ事しおってからに……」
周辺を見回すと、長閑な草原地帯に小さな畑そして歪な形をした家がある。
ちなみに『庭』と言われた通り、ウッドデッキにある大きめの揺り椅子に座って気を失っていたようだ。
「此処はどこですか?何で私が……庭に?……さっきまで車の中に居たはず……」
「何じゃ?夢でも見てたのか?此処が何処かより、そもそもお前は誰じゃ!魔法関連じゃないなら、此処へ何をしに来た!!儂が聞きたいわ!!マッタク……。さっきから本当に、お前は何を言っておるんじゃ!!」
激怒するお爺さんを見て、唐突に涙が込み上げて来て泣き出してしまう……
怖いとか言う事では無く、人知が及ばない現在の状況に不安しかないからだ。
目の前の女性が混乱の余り泣き出したことで、流石の老人も異常な状態にあると察した。
老人は仕方無く怒るのを辞めて、今現状彼女の身に起きている事を聞く事にした。
「………お前……その様子……嘘ではなさそうだな。それに話を聞いた限り……身なりからして、確かに街のもんじゃ無いな?………」
「此処は?………私の車は?……もう……家に帰りたい………」
「お前が言う『クリマ』が儂にはいったい何かは分からんが……。此処はキャロティア王国の南に位置する場所じゃ」
「キャロティア王国!?………え?王国?」
「うむ……そして王国の食糧庫と呼ばれる『バケット』と言う街から、更に南へ1時間程歩いた場所じゃ……」
「バケットの街?更に1時間?………え?此処は王国じゃ無いんですか?」
「まぁ……今は流石に理解が難しい様じゃな……。一応覚えておくが良い。ちなみに儂は、白と生命の魔導師ゼマティスと言う……それで娘、お前の名は?」
「わ……私は小鳩(コバト)です………」
「そうか……コバトか……。ならばコバト、いいか?心して聞くがいい……。残念じゃがお前は、自分の世界からこの世界へ『転移』した様じゃ」
「て……転移?漫画じゃ無いんですから……そんな事……出来るはずが……」
「まぁ結論を急がず聞きなさい。おそらくじゃが……と言う話じゃ。……そもそも何が原因か儂にはわからん……」
そう言う老人の話を理解しようとすると、涙がさらに込み上げてくる……
しかし我慢して話を聞こうと思い、涙を堪える為に上を向く。
その際に目に入った歪な形の家の屋根を見る。
すると、小猫の額にツノと背中に何故か翼がある奇妙な生き物が、休憩を終えて飛びたった。
「ね………猫が………飛んだ!?猫に……羽根!?……」
「ん?羽根じゃ無いぞ?あれは翼じゃ!……」
ゼマティスと言う老人は、そう言った後に『よくみろ……羽根と言うには形が違うじゃろう?アレは使い魔になる<マカニキャット>じゃ……何じゃ?お前の世界には居ないのか?アレが?』と言った。
だが、全く耳に届いてこなかった……
よく見れば、あちこち猫が飛んでいる……
猫が飛ぶ世界なんて、その時点で悪い夢でしか無い。
マカニキャットと呼ばれた猫は『ニャァァァァァ』と言いながらブンブン飛び回る……
そして一匹が『フッ』と姿を消すと、何故か私の足元に居て脚に擦り寄っていた……
「ひ!?…………ヒィィィ…………」
「何じゃ?お前マカニキャットが嫌いなのか?こんな愛くるしいのに……」
「ち……違います!猫は平気ですけど……私の知ってる猫は飛びませんし!消えません!」
「ほぉ……面白い話じゃのぉ……。お前の世界ではネコが消えんし……飛ばんのか!!ふむ……まぁ折角じゃ……。儂の家に来るがいい。事情をもう少しばかり詳しく聞いてやろう」
そう言ったお爺さんは『うんうん……何やら急に興味が湧いて来たぞ?わかる事には答えてやろう!特別じゃ』と言うと、何処からとも無く杖を出し地面を『ゴツン』と叩く……
すると目に前にあった歪な家は『シュワシュワシュワシュワ…………』と音を立てながら、端から姿が変わっていく……
「いぃ?……や……屋敷が………出て来た!?」
「何じゃ?幻術じゃろうが……防衛魔術の基礎じゃろう?………ま……まさか?魔法も知らんとか言わんだろう?」
お爺さんはそう言うと、じっと顔を見つめて来る……
「こりゃ参った……魔法の魔の字も知らんのか!?……なんて世界じゃ!」
「魔法なんて……漫画か映画にしかありません!」
「お前の暮らしていた場所は……もはや儂には想像もつかん……。これはとんでもなく面倒な事に巻き込まれたんじゃないかのぉ……はぁ………」
そう言ったゼマティスは『おい!荷物放っておくなよ?野良のマカニキャットに持っていかれちまうからな?』と杖の先で荷物をさす……
その示した先には、私のスマホと見た事もないリュックが放置されていた。
リュックのチャックは開いた状態で、中からは何故か自分の造形道具が散乱していた。
私の足元に擦り寄っていたマカニキャットは、いつに間にかリュックの方に居て、他のマカニキャットを威嚇している。
どうやら荷物に近づかせない様にしてくれている様だ……
慌てて荷物をかき集めてから、スマホをポケットに押し込んだ。
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