OP後編


「おお!わりぃ……ショートカットしたくて、ちょっくら投げてもらったぜ!此処に入ったの見た奴がいるってんでな!」



「な……何言ってるのよ!……グレッチェン!!ちょっと皆の前だから……」



「お?コイツ等か?大馬鹿で世間知らず、出来損ないの人間の屑ってのは?」



「ちょっと!なんて事を言うの?……ゼマ爺になんて言われてるのよ貴方達……」



 コバトは『今すぐ黙らせますので!』と言うと、『グレッチェン』と呼ばれたナニカとヒソヒソ話し出す。



『ちょっとグレッチェン!いったい何したのよ?』



『あ?何って……魔石食べ放題パーチーだろう?だから木工細工に任せるよりは、俺等が来た方が盛り上がり確実かと思ってよ!』



『魔石食べ放題?何よそれ?……』



『え?マニカキャットのトラオが言ってたぞ?<オークとゴブリンの魔石食べ放題パーチー>だって?ってかもう喰っちまった……皆で……』



『皆?何?皆って……』



『トラオに言って、外箱のタグ変えて貰ったんだよ!相変わらずトロイなぁコバトは……気が付かなかったのか?』



『アンタって奴は……それにト……トラオの奴………部屋で暴れるだけで飽き足らず……なんて事するっと!!』



 コバトとグレッチェンはヒソヒソ話すが、ラステルは耳を澄まして聞いていた様だ。



 勢いよく『ガバッ!』と天幕の外へ出て唖然とする……



「な!?何だこれは……縫いぐるみがオークとゴブリンを喰ってる……だと?」



「おい!そこのオッサン!縫いぐるみだと?俺たちは『グレッチェン』だ。コバトが生み出した新しい『魔法生命体』だ……縫いぐるみと一緒にすんなや!」



 コバトの横に居た『グレッチェン』はそう言うと……『テメェ等、グレッチェンの本性見せたれや!!』と大声で言う。



 すると、一斉に縫いぐるみ達は雄叫びを上げた……



「「「「ゴアァァァァァァ!!」」」」



「祭りじゃー!冥途の土産に見てけやゴブリン共ー!」



「オーク共!魔石置いてけやー!!そして腹の中に収まれやー!」



 その言葉にコバトは………『やめなさーい!』と言うが遅かった。



『モリモリ………メリメリ』



 小さな縫いぐるみだった『グレッチェン達』は膨れ上がり異形なモノへ変貌する……



『ミタガァ!ゴレガオレダチ<グレッチェン・ビースト>ダァ!!』



 突然念話で脳へ直接話されたラステルは、すぐにコバトの方へ振り向く……



 コバトの横には、背中に翼が生えギザギザの歯を持つナニカが浮いていた。


 サメの様な流線形の顔だが、魚類では無く身体があり指の先には鋭い鉤爪があった。



「グレッチェン!もう!!お爺ちゃんが言った筈よね?その姿は相手が驚くからダメだって!人前では禁止したでしょう?彼等にも止める様に言いなさい。貴方がおっ始めたんだからね!!」



「あん?あれって爺さんの家の側だけって話だろう?」



「そんな訳無いじゃない!見てよこの状況……ラステルさん以外貴族様が全員逃げちゃったじゃ無い!!」



 コバトとグレッチェンがそんな話をしていると、オークの様な格好をした縫いぐるみが歩いてくる……



「ガチガチゴリゴリ……なぁ?コバト。魔石パーチーは喰い終わったら終わりだろう?……ガチガチボリボリ……魔石も今ので食い終わっちまった。さっさと帰ろうぜ!ってかコバト……畑の収穫しねぇと……オメェまたあのジジイにドヤされっぞ?」



「え?もうそんな時間?……やっば!……じゃあラステルさん、お仕事はおしまいで!魔石ご馳走様でした!魔石代金馬鹿にならないんで……大助かりです」



 コバトは、足元で腰を抜かしているラステルにそう言う。



「ほら!グレッチェン満腹になったでしょう?貴方も帰るわよ……日が暮れる前に畑の収穫しないと!!またゼマ爺に怒られちゃう!!」



 そう言ったコバトは、机の上にあった干し肉を頬張るグレッチェンにゲンコツを落とす……そして『ほら、貴方達もお礼を言って帰るわよ?』と言う。



「「「「「ご馳走様でしたー」」」」」



 そう言ったグレッチェン達は次々に箱の中に吸い込まれていく……



「コバト君はいったい何者なんだ?………」



「え?私ですか?………私は……………ラッテルさんの言う様に、単なる小娘ですよ?お人形が大好きな……」



 そう言ったものの、コバトは以前の自分の事を思い出す……



 ◆◇



「もしもし?ママ!受かったよ!念願の就職試験!」



「コバト?……本当に!?受かったの!!おめでとう!!昨日の夕飯カツ丼にした甲斐があったわ!今日は大好きな…作る……何食べた……」



「もしもし?……あれ?ママ?聞こえる?」


「コバトちゃん……もしもし……電波が………………悪いわね……」



「やっぱり?今車で国道脇のトンネルに入っちゃったから……出たらまた電話するね!友達が家に来るって言ってたから……もしもし?聞こえてる?」



「もしもし?……コバトちゃ……ザザ…………『シーン』…………」



「ああ!もう!イラっとするわ……このトンネル毎回電話が切れるんだから!!」



 私はそう言って携帯電話を助手席に『ポイッ』と電話を放り投げた……



 今日私は、念願の会社から採用通知を貰った……人形を作る造形師のお仕事だ。



 私の趣味はドールの自作。


 そして今日は、採用通知を貰って念願の造形師になった人生の記念日だ。



 フィギュア好きが強く影響し、人形を作るようになった。



 好きになったきっかけ……その大元を辿るとお婆ちゃんの家の『雛人形』だ。


 家に飾られていた雛人形で遊んで、うっかり壊し……母に叱られた記憶を鮮明に覚えている。



 お婆ちゃんはそれを器用に直していた。


 私は子供ながらにそれを見て……『将来人形のお医者さんになる!』と、お婆ちゃんに言った事を今でも覚えている。



 ちなみに私が作るドールの材料は、石粉粘土と言う粘土だ。



 石粉粘土は呼び名の通り、石の粉で出来た粘土で、それを乾燥させてドール本体を作る。


 当然ドールは紙製や布製の他に木製、そして陶器で出来ている物など様々な種類が存在する。



 でも私は扱い易い粘土を材料にしたのだ……その発想の大元は地元でよく見る雛人形の中にあった。



 埼玉県岩槻市……雛人形で有名な場所だが、私は地元である人形博物館に行くのが大好きだった。


 そこで基礎を養い、お小遣いで作れる素材を探した……と言うわけだ……



 少なからずフィギュアの造形も同じ道を通るので、それを知った時は驚きのあまり、そのままフィギュア造形師になろうかとも思った……



 話が昔話に逸れたが、今何をしていたか……と言うと、採用通知を貰ったので大学へ報告へ行った帰り道だ。


 家から大学までは遠い……



 なので車で近くまで行って、父の職場の駐車場に停める……そしてバスで大学まで向かう……それが私の通学スタイルだ。


 大学の駐車場は、新校舎増築の為に業者が使い、私達学生は使用禁止だったからだ。



 トンネルに入って少し進むと、ガードマンが走ってきた……



「すいませーん!」



「はい?あれ?もしかして……トンネル内の事故ですか?」



「いえいえ、事故では無くトンネル内工事です。お手数をかけますが、1車線通行にご協力お願いします!通れる様になったら合図しますので、此処でお待ちください!」



「はい!ご苦労様です!」



 私はそう目の前のガードマンに言われて、労いの言葉をかけた……その瞬間……


 遥か前の囲いの中から閃光が上がる……



『ドガーーーーーン』



「うわぁぁぁぁぁ……………」



「ぎゃぁぁぁぁぁぁ……………………」



 響き渡る轟音で耳が『キーン』とする。


 車内に居て耳鳴りがする位なのだから、外はもっと酷いだろう。



 前方の辺り一面は粉塵が舞い見通しなど無くなっていた……


 私の乗る車の前にはトラックがあったので、身体への被害こそなかった……しかし無事とは言える状況では無い。



 そして閃光と爆音の後、斜め前にいたガードマンはそこには居なかった……



 サイドミラーを見ると、ガードマンは後方に吹き飛ばされて居た。



 粉塵の影響で見えずらいが、辛うじて彼の姿を確認できる……


 彼は何とか起きあがろうとしているので、死んではいない様だ。



 だが、起き上がったガードマンの表情はあり得ない物を見ている感じで、何やらこっちに向かって騒いでいる。


 私は車を降りて逃げるべきか、車内で安全を確保するべきか悩んでいた……



 耳鳴りも酷く、声が聞き取りづらい……


 私はこっちに向かって手を振るガードマンの声に耳を澄ませる……



『………………げろ…………!……にやって……げろ!………降りてはやく!………げろ………』



「降りて?早く…?」



『降りて………ずれる……げろ!……物なんか………はや………』



「降りて……ずれる?……ズレる?………!!……崩れる!?………え!?……」



『ドシャ!!』



 趣味が仕事になったその日……私は最悪な状況に陥った……

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