第16話
「っく!? これ程まで手勢がやられた状態で本命がくるとはついていない……撤収するぞ!」
「「「「は!」」」」
盗賊もどき達は無駄のない動きで、仲間を回収すると、森の奥へと消えていった。
残されたのは俺達と黒の歌姫だけだ。
「………………」
てっきりこのまま戦闘に発展するかと思ったのだが、黒の歌姫はこちらを一瞥しただけで、何も言わずに古塔の入り口へと歩いて行く。
それに我慢ならなかったのか、ミディアがたまり兼ねたかのように数歩踏み出した。
「お姉ちゃん! どうして、どうしてあんなことをしたの!?」
あんなこと――というのは、国に喧嘩を売って領土を手に入れたことだろう。
その過程で大規模な戦いが起きているともなれば妹としては止めたい。それが叶わないのならばせめて理由だけでも聞きたいということか。
ゆっくりと振り返った黒の歌姫――イルニス・アージェンの表情には久々に会うはずの知り合いへの親密さを感じさせるようなものは一つもなかった。
「姉じゃないわ。私と貴方に血のつながりはない――ただの姉弟子よ。そして、それに答える義務も、義理もないのよ。大人しく帰りなさい『赤の歌姫』ミディア・イッシュメント」
「……お姉ちゃんっ」
口の中で小さく呟き歯がみしたミディアは過去を振り払うようにイルニスに向き合った。
「赤の歌姫として、貴方を止めます。『黒の歌姫』イルニス・アージェン!!」
「そう、それが貴方の選択なのね。愚かで……とても残念だわ!」
イルニスの声に合わせて石の人型が三体現れる。これは……ゴーレムか!?
「貴方たちと違って私は暇じゃないのよ。この子達と遊んでいなさい。本気で止めるつもりなら上ってくると良いわ」
そう言い残し、イルニスは古塔の入り口に手をかざし、門を開くと中へと消えていった。
あの爆発でも開かなかった門が開くということは、イルニスは開け方を知っていたと言うことだろうか。
だが、考えている余裕はない。眼前にはゴーレムが襲いかかってきているからだ。
ミディアは自前の杖を掲げながら俺達に対して呼びかける。
「皆さん、力を貸して下さい!」
「依頼主のご要望だ……やるとしますかね」
「ゴーレムぐらいなら戦えるっすけど……」
「別に良いわよ?」
三者三様の返事でゴーレムに向き直る。
「!!」
「おっと、危ねえな」
大ぶりに腕を振るってきたゴーレムの攻撃を躱したところでブレードライフルをゴーレムの胴体へとたたき込む。
「!?!?!?」
流石に固くて一撃で両断するとまではいかないが弾き飛ばすのには成功した。
なら、あとは――すぐさまブレードライフルを持ち替えて射撃モードにする。
そのまま、魔弾を放ちゴーレムの足を撃ち抜いて吹き飛ばす。足を一本やられたゴーレムは立ち上がれずに地面でもがくだけだった。
一先ずは無力化出来たか。とどめを考えると纏めて葬りたいところだな。
そう思い、エリクとリオンの方に視線を向ける。
「こっちっすよ!」
「!!!」
周りを飛び跳ねるエリクに対して、ゴーレムはなんとか捉えようと腕を振りまわす。
しかしながら、エリクは軽い身のこなしでヒョイヒョイと全て避けてしまう。
ゴーレムが完全に空回りして、背後を向けた瞬間――
「いただきっす!」
大型マチェットをゴーレムの背中に叩き込んだ。そのまま吹き飛んだゴーレムは俺が足を壊したゴーレムとぶつかって足先が砕けたのかどちらも起き上がってこない。
「ありゃ? 入りが甘かったっすかね?」
「いくわよ! アクアランス!」
槍杖の先に水流の槍を産みだしたリオンはゴーレムに向かって駆け出していく。
「!?!?」
下段からすくい上げられるように振るわれた槍をゴーレムは受け止めようとするが、魔法によって威力が強化された槍の一撃は非常に重いのか、あっけなく腕は吹き飛ばされ胴体ががら空きになってしまった。
「そこね!」
「!!」
ゴーレムもそのままやられるわけではない。もう片方の腕で槍の切っ先を握りしめて持ちこたえる。
だが、リオンは焦ることなく不敵に笑う。
「良いのかしら、そんなところ握っちゃって?」
「!?!?」
槍先の水が渦のように回転しだしとても持っていられない状態となってしまった。
ゴーレムは勢いよく吹っ飛んでいき、エリクのゴーレムの後を追うように俺が足止めしたゴーレムとぶつかって三体がゴチャゴチャに固まる。
「なんか都合良くごっちゃになってるな」
チャンスではあるので、三体が纏まったところに俺が再び魔弾を撃とうとしたのだが、
「今です――フレイムタワー!」
ミディアが放った炎の柱によって、ゴーレム達はガラガラと焼き崩れ、その機能を停止させた。
「なんだ……攻撃魔法が使えたのか?」
今まで使ってなかったから攻撃魔法は使えないもんだと思っていた。ゴーレム三体を倒せるとなると結構高威力じゃないか。
「あ、はい。使えるんですけど、かなり集中しないとだめなんです。ただ、今回は特に皆さんばかり戦わせるのはよろしくないんじゃないかと思いまして」
確かに自分から戦う空気を作って置いて、全部お願いしますってのはちょっと心苦しいのかもしれない。
イルニスのことに責任を感じているのかもしれないが、姉弟子って言ったって他人なんだから気にしなきゃ良いのに。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
「とりあえず、追ってみましょうかね」
俺の言葉に異論は無いのか全員で古塔の入り口へと歩き出すのだった。
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