第15話
「いきなり爆発って……おい」
「ど、どうするっすか?」
「どうするって……無視するのはちょっとアレだろうよ」
関わり合いになりたくない感じではあるが、もしあれが盗賊団の仕業ならば情報だけでも帝国軍に高く売れるだろう。
それに目の前で黒煙が上がっていることに気にならないと言えば嘘になる。無視したところで巻き込まれる可能性の高い距離でもあるしな。
それ以上に、ミディアとリオンが妙に気にしているんだよな。たぶん始祖の歌姫に関連しているかもしれない塔って言っていたから、ファン? としては気になるんだろう(ミディアは赤の歌姫だからかもしれないが)。
その後少しだけ話し合ったが、結局気になったのでいくことになった。
―――――――――――――
「近くで見ると結構でかいのな……」
古塔の付近までやって来たところで改めて観察してみると、この塔の大きさは五階建てほどだろうか。
遠目でも見えたところからある程度大きいのは予想していたが、それよりも大きいように感じる。
「焦げ臭いっすね。爆薬でも使ったっぽいす」
古塔の入り口には大型の箱のようなものの残骸が残っていた。あたりには煤焦げたように黒く染まっており爆発の威力を物語っている。
「ふぅん……あの威力でも開かないようね。古塔の入り口が封じられているってのは本当みたい」
「それにしても、誰もいませんね」
全員であたりを見渡しながらゆっくりと近づいてきたが、特に誰かが隠れているような気配も――いやこれは!?
「上だ!」
「くるっす!」
俺とエリクがほぼ同じタイミングで、何かが現れるのを察知した。俺はブレードライフル、エリクは大型マチェットをすでに抜き出して構えている。
現れたのは、口元をマスクで覆った集団――九人かな? 着ている物はバラバラでいかにも盗賊といった様相だ。
「黒の歌姫が釣れるかと思ったが……釣れたのは帝国軍ですらない旅人か。予定が狂ったな」
盗賊の頭と思しき男が呟くように言っただけだったが、俺にはハッキリと届いていた。
そして、その言葉は俺の横にいたミディアにも聞こえていたらしい。
思いっきり反応してしまっていた。
「お姉ちゃんが近くにいるんですか!? あっ!?」
慌てて口を閉じるがもう遅い。俺だけでなく、エリクもリオンも、この盗賊達も聞いてしまった――ミディアの『お姉ちゃん』と言う言葉を。この流れでお姉ちゃんといえば、ただ一人『黒の歌姫』を指し示していた。
マジかよ……だからミディアのやつ黒の歌姫に会いたいとか言っていたのか。
頭の目が見開かれたのを見て、俺は奴らの次の行動を悟る。
「っち、くるぞ! 迎撃準備!」
「マジっすか!? どう見てもただの盗賊じゃないっすよ!?」
「同感ね。大分面倒くさそうよ」
反応こそ違うが嫌そうな声をあげるエリクとリオン。
別に俺だって戦いたいわけじゃない。
だが、
「相手が逃がしてくれそうにないぞ?」
「お姉ちゃん……だと? 予定変更だ。少女を確保しろ。あの少女を使って、おびき出す」
「「「「「了解!」」」」」
頭の言葉に合わせて武器を構える男たち。その手には二本のダガーが握られていた。
全員同じ装備かよ……服装にはこだわっていたくせにここはこだわっていないのな。
エリクもリオンも気付いているがこの盗賊っぽい男たち。おそらく、中身は盗賊じゃないだろう。
最初に隠れていたときから気配の隠し方が上手かった。おまけに、装備が妙に小綺麗で質が良い。多少の偽装は施していたみたいだったが、気づけないほどではない。
その証拠に今もこちらに攻めるときに統率の取れた動きをしている。
「だからこそ!」
「がっ!?」
ブレードライフルをすぐさま射撃モードに切り替えて、一発放った。
胸元に吸い込まれるように発射された魔弾だったが、ダガーを交差させて防いだようだった。反射的に防いだのか? いい目をしているな。
しかしながら、勢いを完全には殺せなかったようで腕の一本があらぬ方向を向いている。本来なら追撃したいところなのだが――
「覚悟っ!」
「次々くるわな!」
側面から襲いかかってくる盗賊もどきのダガーをブレードライフルを横倒しにして防ぐ。小回りの効く相手だ。刃で確実に受けようなんて考えていたらこっちがやられかねない。
「短刀の使い方ならこっちだって得意っすよ!」
「かはっ!?」
エリクはエリクで、ダガー二本相手に身のこなしだけで回避しつつ、大型マチェットの一撃を叩き込んでいた。防具の上からだったため、死んではいないだろうが、あばらの一、二本は逝ったことだろう。
「いきなさい! ハイドロウェーブ!」
リオンは槍杖をクルリと一回転させ、ダガーを受け止めると、鉄砲水のような水流を撃ち出して盗賊もどきを弾き飛ばしていた。
とりあえずは大丈夫そうか。と二人の方を見ている間に、別の盗賊もどきが襲いかかってくる。
握っているダガー目掛けてブレードライフルを横に振るう。ダガーとブレードライフルでは質量が圧倒的に違う。相手の技量は決して低くないが、まさかわざわざ持ち手にぶつけてくるような人間がいるとは思っていなかったようで、ダガーはあっけなく吹っ飛ばされてしまった。
致命傷になりそうなところは相手もある程度警戒していそうだから、あえて武器を狙ってみたんだが上手くいったようだ。
ただ、想像以上にうまくいきすぎて、ダガーごと本体も飛んでいってしまったので、これまた追撃は出来なかったのだが、まあ良いだろう。
そんな光景を見て、エリクが問いかけてきた。
「なんかレイアスさん強くなってないっすか?」
「多分、契約騎士ってのになったせいか?」
「なんすか? それ?」
「後で余裕があったら教えてやるよ」
エリクと会話している最中も盗賊もどき達の攻撃が止むことは無い。最初と違ってこちらを舐めるような甘い動きが殆どない。仲間の半数近くをやられればそうなるのも当然だろう。
現に頭も指示を出すだけでなくこちらに襲いかかってきていた。
「よくも部下を!」
「自分達で隠す気すら無くなったのかよ!」
興奮して話し方に特徴が出てきたな。帝国訛りって感じじゃないから、他国の人間か。
どういう情報網でやって来ていたのか気になるところだが、変に生け捕りとか考えない方がいいな。
頭役だけ狙えるなら狙ってみるか、ぐらいの感覚だ。
そのまま、戦闘を続けていたが互いに致命傷を与えられないまま時間だけが過ぎていく。
流石に連携されるとそう簡単には倒れてくれないな。
しかし、それは向こうも同じようだった。
「くそ!? 黒の歌姫にやられるならまだしもこんな旅人ごときに手傷を負わされる羽目になるとは……」
盗賊もどきの頭は歯がみしながら俺達をにらみ付けてくる。いや、知らねーよ。
そっちから喧嘩を売ってきておいて俺らのせいって言われても困るわ。
このまま戦ってもいいのだが、相手が死にものぐるいでくると、ミディアを守り切れるか少々怪しい。
かといって、逃げるわけにもいかないし、どうしたものかと考えていると、
「あら? 私がどうかしたのかしら?」
いきなり、そんな声が聞こえてきた。直後、黒い光弾が放たれ、盗賊もどきが二人吹き飛び古塔の外壁に激突して倒れ伏す。
結構な威力の魔法だな。
声の聞こえてきた方を向いて見るとそこには、艶やかな長い黒髪をたなびかせ、黒の三角帽子に、黒いローブのようなドレスを着た美少女が浮いていた。
少女が現れたことにより全員の目が少女へと向けられる。
もちろん俺も少女に目を奪われてしまった。
だが、俺はこの少女に見惚れていたわけではない。俺はこいつを知っている。いや、全員が知っているだろう。
こいつの名前はイルニス・アージェン――黒の歌姫だ。
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