第14話


「わざわざ俺を追いかけてこなくても良かっただろうに……」


「いやいや、レイアスさんがあの小型飛空挺に乗っていたって聞いたっす。これはすぐにでも会いにいかなければと思ってきたんっすよ。懐もあったかいっすからね。ちょっとした休養も兼ねてるっす」


「それは、俺に喧嘩売ってんのか? おい?」


「め、滅相もないっす!?」


 そんな会話をしつつ、帝都に向かうための街道を歩いている。

 エリクとしては俺の無事を確認しにきたついでにお礼を言いに来たらしい。


 どうやら、あの時激突した飛翔竜が群れのボスだったようで、俺とミディアの乗る小型飛空挺と一緒に墜落してからは飛翔竜の統率が乱れたそうだ。


 そこから先は消化試合というか、結構楽に討伐できて残った二機の飛空挺は致命的なダメージを受けることなく、発着場にたどり着いたとのことだ。


 俺はただ働きだったがな。

 ついでにエリクは前日にはフィレンの町には着いていたらしいのだが、夜が近かったので訪ねるのは止めたそうだ。別に気にしないのだが、こいつ変なところに気を回すからなぁ。


「で、この少女がレイアスさんと一緒に墜ちた少女っすか?」


「あ、はい。ミディア・イッシュメントと言います」


「ご丁寧にどうもっす。エリク・ダッシュモンドっす。レイアスさんと同じく傭兵っす」


「ミディアのことは傭兵達の間で噂になっているのか?」


「殆どないっすよ。俺はレイアスさんがどこにいるのか帝国軍に聞いた時にちょろっと教えてもらっただけっすから」


 契約騎士になったことは帝国軍にも報告していないが、ミディアについては言わざるを得なかった。

 赤の歌姫であることやレットのことは一言も言っていないが、ミディアという少女を追いかけて――……とぐらいは説明した。そうじゃないと俺が勝手に小型飛空挺を乗り回して、飛翔竜にぶつけたことになるからな。


 エリクはミディアから横を歩くもう一人の男へと目を向ける。


「それとこちらの方は?」


「知り合って、一緒に行動することになった――」


「リオン・エリュティカよ。エリク君ね、よろしく」


「ど、どうもっす。また個性的な方っすね」


「別に害はないからどうでもいいだろ?」


「そ、そりゃそうっすけど。レイアスさんほど肝太く無いっすよ」


 そんな感じで意外と仲良くやれているようだった。

 エリクは人当たりが良いから、話しやすいんだろう。


 街道脇から時折現れる魔獣も俺が全部倒しているわけじゃなくて、エリク――それにリオンも倒してくれるから結構楽だ。エリクはともかくリオンもかなり強いことは間違いない。


 杖と槍が一体化した――槍杖とでも呼べば良いのか――武器を使いこなしていた。槍で薙ぎ払った後、槍の先から飛び出た魔法で魔獣を倒したときは思わず内心で拍手してしまったほどだ。


 ちなみにレットはミディアの懐に隠れて出てこないつもりらしい。街道で他人に見られたらミディアが狙われかねないから嫌らしい。


 小一時間ほど歩いていると何やら前方が騒がしくなっていた。


「なんだありゃ?」


「橋の前で人が沢山集まっていますね」


 ミディアの言う通り、帝都へ向かう川を渡るための橋の前に人だかりが出来ていた。


 少し、近づいてみると状況が分かってきた。


「どうやら帝国軍が道を塞いでいるみたいね」


「そうみたいっすね。封鎖なんて話は発着場でも、フィレンの町でも聞かなかったすね……」


 どうも、大規模な盗賊団が出たらしく、包囲するために一時的に橋を封鎖したようだ。封鎖の解除は盗賊団の壊滅次第で、いつになるか分からないらしい。


 これは面倒なことになったな。


「どうしましょうか?」


「どっかに別の道とかないのか?」


 フィレンで買った地図を広げてみる。


「うーん、どこかいけそうかしら?」


 帝都へのルートがどこかにないかと地図を見ていると、エリクが地図の北東を指さした。


「それなら、こっちに洞窟があるっすよ。少し遠回りになるっすけど、帝都にはいけるはずっすよ?」


 エリクの言う通り、遠回りにはなるが、帝都には迎えそうだ。川を越える必要もないので、帝国兵が道を塞いでいる可能性も低いだろう。


「いいんじゃないか?」


「そうね……川が関係ないなら大丈夫そうだし。でも、ミディアちゃんの体力は持つかしら?」


「ただ歩くだけですから大丈夫だと思います」


 全員が賛同したので、エリクが言ったルートを通ることにする。ただ、距離が結構あるので、今日は洞窟手前で移動を止めることになりそうだな。


 そのまま、三時間ほど休憩を挟みつつ歩いていると、何やら少し遠くに塔のようなものが目に入る。


「何だあれ? こんなところに塔なんかあったか?」


 そこにあったのは円柱型の古塔だった。

 城壁の名残ってわけでもなさそうだし、物見櫓みたいな感じでもない。古いとはいえ、近くに人里もないのになんで塔なんかあるんだ?


「本当っすね……なんであるんすかね?」


 全く分からない傭兵組と違って、他の二人は知っているらしい。


「あれは、始祖の歌姫に関係している言われている古塔よ。遺跡みたいなものね」


「ええ、その通りです。なんでも、入り口は封じられていて、中には歌姫でも入れないらしいですよ。リオンさんひょっとして、始祖の歌姫について調べていたりするんですか?」


「ええ、結構詳しいのよ。でも、ミディアちゃんだって知ってたんじゃない」


 そのまま、きゃいきゃいと、始祖の歌姫のことで盛り上がる二人。


「へー、中にお宝とか眠ってんのかね」


「確かにちょっと気になるっすね」


 一方で俺達は残されているかもしれないお宝の方に興味が向いていた。

 中には入れるなら、入ってみたいなぁなんて思いながらもう一度、古塔を眺める。


 その直後――


 ボガァン!! と巨大な爆発音が轟いた。


「きゃっ!?」


「なっ!?」


「爆発!?」


「なんすか!?」


 急な出来事に驚く俺達の前で古塔からは黒い煙が立ち上っていたのだった。


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