第13話
「お話しは終わったかしら?」
ドアから入ってきたのは、青い髪を腰近くまで伸ばした、長身の男。こちらを観察するような碧眼や端然とした顔つきと相まって、怜悧さを感じさせる。
だが、俺の記憶にはこの男に該当する記憶はない。
俺は咎めるような目つきで男を睨みつつ警戒する。
「誰だアンタ? どっから聞いていた?」
「あら、ヒドい挨拶ね。気絶した貴方をここまで運んであげたのは私よ。それから、来たのは今さっきだから、アナタたちの会話は聞こえてないわ」
聞いてないってのは確認のしようがないが、もう一つの方は確認出来るか。
男から視線をミディアへと向ける。
「本当か?」
「あ、はい。そうです、倒れたレイアスさんをどうすれば良いのか戸惑っていたところを助けて下さったんです」
ミディアが首肯しつつ説明してくれた。どうやら、俺を運んでくれたのはこの男らしいな。なんか話し方が変わっているが、視線に危ないものは感じられない。
「名前は?」
「リオン・エリュティカよ。リオンでいいわ」
「俺はレイアス・オースティンだ。助かったよ、リオンさん?」
自己紹介と一緒に頭を下げる。単なる気まぐれか、恩を売りたかったのかは分からないが、礼には礼だ。そこを違える気はない。
「あら、傭兵って聞いていたから気難しいのかと思っていたのだけど……結構、素直なのね。それと、さんも付けなくて良いわ」
「どんなイメージを抱いているか知らないが、傭兵ってのは恩も縁も大事にするんだよ。何が仕事に繋がるかわからないし、敵を増やしても良いことはないしな」
これは本当だ。傭兵なんか使い捨ての駒にしてくるような依頼だってある。
そういうときには仲間内で助け合ったり、外部の手を借りたりして、達成したことだってある。ある程度の威厳はいるがガラの悪さなど傭兵には必要ないのだ。
「それで、俺達を助けてくれたリオンにはどれ位払えば良い? 幾らかは今すぐにでも出せるぞ?」
「別にお金はいいわ。運んだだけだしね。それよりも、アナタたち帝都に向かうのよね?」
「あ、ああ……そのつもりだが? というか、やっぱり盗み聞きしてたんじゃねえか……」
「最後だけよ。下で食事を取っていたら、ミディアちゃんがドタドタと駆け下りてきて、トレーをもう一つ持っていったの。だから、きっとアナタが目覚めたんだろうと思って、食後にこうして訪ねてみたってわけ」
と、ここで一旦区切ったリオンは俺達を見回した後、口を開く。
「私も同行していいかしら?」
「はい?」
「あら、何その顔? 聞こえなかったの? 私も同行したいって言ったのよ。私もこれから帝都の方に行こうと思っていたの……一人で向かうより安全でしょ?」
妙にしなを作って、提案してくるリオン。
一人旅よりは安全だろうが会ったばかりの奴らに頼むことか?
黒の歌姫のせいで、世の中が歌姫自体に過敏になっていたりするから、ミディアが赤の歌姫で俺がその契約騎士ってバレかねない以上、同行者が増えるのは余り好ましくない。
しかしながら、問題は助けられた――借りがあるってことだ。断りづらいことこの上ないな。
そんな考えが俺の顔から滲み出ていたのか、リオンがだめ押しのように自分のことをアピールしてきた。
「これでも、一応戦えるから足手纏いにはならないわよ?」
「……ミディアが良いなら俺は問題ないが」
「私は大丈夫ですよ」
そんなあっさりと……まぁ、森からの脱出の護衛が出来なかったから、帝都までの護衛依頼に変更になったと思えばいいか。
で、その依頼主が同行者としたと思えば、似たような依頼は何回か受けているな。
戦えるって言っているから完全な足手纏いが増えたわけじゃないし、マシな方だろう。
「なら、決まりね。私もこの宿に泊まっているから、行くときは声をかけてね。」
そう言って、部屋から出て行くリオン。ただ去って行っただけなのにどこか様になっている。
「えっと、私も失礼しますね。絶対に今日は休んでくださいよ!」
「ミディアに心配かけるなですよー」
そう言い残し、ミディアとレットも俺の部屋を後にする。
ドアが閉められ、足音も聞こえなくなったところで、
「どうなることやら……」
ただの傭兵の仕事がおかしな方向に転がっていったもんだ。
そんなことを思いながら、俺はベッドに倒れ込むのだった。
―――――――――――――
「さぁて、出発しますか」
ブレードライフルを始め、装備を整えたところで身体の調子を確かめるように軽く動かす。
寝ていた日も含めて、この五日ほど完全休養だったわけだが、あまりなまった感覚はない。これなら大丈夫だろう。
帝国軍との連絡もついて、飛翔竜退治の件のお咎めはなかったので一安心だ。代わりに報酬もなくなったがな……今回は完全に赤字だな。ペナルティがないだけ良かったと思うしかない。
二日目の時点でもまだ怠かったものの、ベッドからは起きれるようになっていたので、フィレンの町長に頼み込んで魔導通信機を使わせてもらった。
流石にただで使わせてもらうのはアレだったので、幾ばくかの金を渡している。
帝国の場合、魔導通信機は魔獣や他国に攻め込まれたときのような緊急事態から、通常の警備隊だけでは対処出来ない事案が起きたとき――その他諸々の連絡のために、軍の基地や施設、町や村に設置されている。
村だと置かれていない場合もあるが、町ならば代表者である町長宅の近くか警備隊の詰め所にあることが多い。このフィレンも例に漏れず町長宅に置いてあった。
一番きにしていたことが終われば、あとは帝都郊外にいるミディアの師匠に会うだけだ。
宿の前で待機していると、
「お待たせしました」
「あら、もういるじゃない。早いのね」
ミディアとリオンもやって来ていた。
「別にそんな待ってないから、気にしなくていい。行けるんだな?」
ここに来たってことは大丈夫なのだろうが、一応確認しておくと二人とも頷いたので、
そのまま、全員で門の所まで、歩いて行く。
すると、ミディアが何か気付いたのか、声をあげた。
「あのレイアスさん? あれ……」
「ん?」
ミディアが指さす方を見てみると、門の所で誰かが手を振ってきていた。
「誰かいるわね?」
「……そうだな」
この町に知り合いなんていないはずだが? 精々商店のおっちゃんぐらいだが、見送りしてもらうほど仲良くなったわけじゃないし。
わざわざ、ここにやって来るような物好きも――と思ったところで、手を振っている人物の声が耳に届く。
「レイアスさぁーん!」
「お前――エリク!?」
そこにいたのは、短い紫紺の髪を中央で分けた整った顔の男――飛翔竜退治中に別れたはずのエリク・ダッシュモンドが待っていたのだった。
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