第10話
飛翔竜にブレスはないと決めつけていたが、今目の前にいるこいつは、翼で歩いたり、飛び跳ねたりする飛翔竜もどきだ。
どうしてブレスが使えないと思い込んだ……。
今さら駆けだした足を止めるわけにも行かず、ブレスに対して悪あがきにしかならないだろうが反射的にブレードライフルを振るう。
しかし、俺の予想とは異なり、飛来してきた何かは、ブレードライフルによって、断ち切られ、あたりに黒い残滓だけがまき散らされた。
切り払えた? 本物のブレスなら切り払えるわけもないはずだが……。
再び黒い飛翔竜が吐いてきたものを確認しつつ、切り払ってみる。
これは……瘴気の塊を魔弾みたく飛ばしてきているのか? ブレードライフルに不調はみられないが、万が一俺に当たるとやばそうな気がするな。
魔弾ほどの貫通性能はなさそうだが、下手すれば鉄砲水並みの威力はあるかもしれない。
「GURUA! GURUA!! GURUAAA!!!」
切り払って接近する俺を脅威と判断しているのか、黒い飛翔竜はやたらめったら瘴気弾を口から放っている。
油断が出来るほど容易くはないが、いけないほどではない。
そんなことを思っていると、
「ミディア、危ないのです!!」
「La~~えっ!?」
一発がミディアの方へと飛んでいってしまっていた。ミディアはレットの声で気付いたみたいだが、『聖歌』に集中していたせいか、避けるのは無理そうだ。
今の位置からだと切り払うのは……無理か! なら、仕方ねえ!!
「ぐあっ!?」
背中で受けとめるしかない!
厚めのハードレザーを着ているというのにこの衝撃……当たり所が悪ければ骨が逝かれてたな。
とはいえ、さっきまでみたく動けそうにはない。受け流しだんじゃなくて、思いっきり当たったせいか、身体が痛い。額には脂汗も浮かんできている。
「GURAAAAA!!!」
俺に一発いれたことで、黒い飛翔竜は調子づくように咆えていた。
むかつくが、すぐには動けそうにない。
それを見越しているのか、黒い飛翔竜は連続で瘴気弾を放ってくる。
「GURUA! GURUA!! GURUAAA!!!」
「ま、マズいです!?」
「そんなことは分かってんだよ!」
向かってくる瘴気弾をブレードライフルでミディアとレットごと防ぐが、身体が万全じゃないせいか、一発一発が重くて吹っ飛ばされそうな感覚を味わっていた。
というか、ミディアの歌が聞こえてこないんだが? アイツが勢いづいているのは『聖歌』が止まったことも大きい気がする。
チラリ、と確認してみると
「だめ……これだけ歌っても浄化できてない……私は……やっぱり未熟者で――」
弱気な言葉を吐きつづけているミディアを大声で止める。
「うるせえ! 俺は死ぬのはゴメンだ! こんな所で諦めんのだってゴメンだ!! だったら歌え! 歌姫なんだろ、お前は!!」
っちぃ!? 全然止まねえな。このまま瘴気弾でなぶり殺しにするつもりかよ?
冗談じゃない――ここで死んだら、俺は何も残せずに……。
「終わってたまるかよぉおぉぉぉ!!」
自分で自分を鼓舞するように叫んだ瞬間、懐から光が溢れ出る。
ここにはたしかミディアから受け取ったブローチを入れていたような……。
光に驚いていたのは俺だけではない。
「こ、この光はひょっとして……」
「まさか……アイツ!? 魔力無しだったですか!?」
後ろの方でミディアとレットがなにか言っているが、よく聞こえない。
俺に分かるのはこの光がなんなのか全く分からないが、不愉快なものではなさそうだ。
「GURU!?」
光に黒い飛翔竜が怯んだ隙に光が何かを訴えかけてくるような感覚に集中する。
どうやら、何かを持ちかけているようだが――痛みのせいかそれ以外はぼやけるようによく分からなかった。
ただ、俺には一つわかればそれでいい。
「アイツをぶっ飛ばせる力をくれるならもらうだけだ……何でもいいから、力をよこせぇ!!」
その直後、手の甲が妙に熱くなり、ブレードライフルを思わず落としそうになるがそれに耐える。
すると、そこには赤く光り輝いたブレードライフルが存在していた。
おまけに手の甲には赤い星のような紋章が現れていた。
「わけわかんねえが、これならアイツをぶった切れるみたいだな?」
「GURURURU……」
俺の直感を肯定するように黒い飛翔竜は怯えたように後ずさった。さっきまでの強気な姿は想像も出来ない。
逃げたいんだろうな。だが、ここまでやられて……俺が逃がすわけないだろうが!
ブレードライフルを強く握りしめて、駆け出す。
すると、アイツも逃げられないのを理解したのか、俺の動きに呼応するように瘴気弾を吐きながら突撃してきた。
力比べか……普段なら絶対にしないが――今ならやれる!
「GURUAAAAAA!!!」
「消え失せろぉおぉぉぉ!!!」
「GURUOOOOOO――……」
瘴気弾ごと一刀のもとに斬り伏せられ、消滅していく黒い飛翔竜。
それを見ながら、俺は吸い込まれるように地面に倒れ伏すのだった。
「ざまぁ、みろ……っての」
「レイアスさん!?」
「お前!?」
―――――――――――――――――――――――
「あら? これはマズいかもと思って来てみたらもう終わっているじゃない。あの子達は……ああ、そういうこと。うーん、どうしようかしらね」
倒れ伏すレイアスと、それに駆け寄っていくミディアとレットの姿を見つめる一つの人影が存在していたのだった。
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