第7話
「そいつは分かっていて聞いているのか?」
「はい、依頼です」
てっきり善意に任せたお願いかと思ったが、ハッキリ依頼と言われちゃ一言で切り捨てるのは傭兵としてプライドが許さないな。話だけは聞くとする。
ただ、その前に確認すべきことが一つある。
「あまりお金を持っているようには見えないが、出せるのか? 俺は、後払いは受け付けてないぞ?」
ミディアの格好はどう見ても旅装……しかも、簡易的な準備で飛び出してきましたと言わんばかりだ。最低限の荷物はあるようだが、大量に現金を持っているようには見えない。
「コイツ! そもそもお前がミディアの邪魔をっ!!」
「レットちゃん?」
「……わかったのです」
俺に食ってかかろうとしたレットをミディアが止める。レットからすれば、そういう見方にもなるのは理解出来るが俺だって邪魔したくてしたわけじゃねえっての。
むしろこっちが仕事の邪魔をされたと言っていい。
「今出せるのはこれくらいですね。」
ミディアが差し出したのは耽美な装飾が施されたブローチ。中央には真っ赤な宝石がはまっており、高級感が漂う一品だった。
「これは、なかなか……」
「ミディア!? うぅ……」
随分と高そうなものを出してきたな。思わず感嘆の声が漏れた俺とは対照的にレットは信じられない!? とばかりに声を張り上げていた。一瞬でミディアから見つめられてすぐに黙っていたが。
あいつらにとっても大事なものなのかもしれないが、わざわざそれを出してきたってことはこの
なら、こっちも本気で応える必要がある。
「護衛はどこまで?」
「とりあえずこの森を抜けて近くの町に着くまでお願いします」
てっきり、黒の歌姫と出会うまでとか言い出すかと思ったが、さすがにそれはなかったか。
もっとも、そんなことを言い出せば見捨てて一人で森を出るつもりだったがな。
「了解。俺も飛翔竜退治から不本意ながら撤退した件を帝国軍に報告しなきゃならないし、その条件なら引き受けて……」
飛翔竜退治の穴埋めにはならないがそんなに悪くない
「もう我慢ならないのです!」
「やめて、レットちゃん」
「止めないでほしいのです! コイツが生きているのも全部ミディアのおかげなのです! それを理解せずにこれを持っていくのは許せないのです!」
「何?」
全く予想していなかった言葉に思わず動きが止まる。
「今のはどういう意味だ?」
一旦、ブローチを受け取るのは止めにして、ミディアへと視線を向ける。
ミディアが軽く目を伏して、言いにくそうにしているところを見ると、レットの言っていることはあながち間違っているわけではなさそうだ。
「ミディアは運が良いのです。お前はその恩恵にあずかっただけなのですよ!」
「運?」
ズビシ! と指を突きつけられたが、俺にはレットが何を言いたいのかよくわからなかった。
そりゃあ、運は良い方が嬉しいが、レットが言っているのはそう言うことじゃないだろう。
俺が恩恵にあずかっていうのもよくわからん。もう少し詳しい説明を頼みたいところだ。
そんな、俺の視線を受けたミディアは一拍おくと観念したのか話はじめる。
「私、歌姫としては未熟者なんです。よく何もしなくていいのよ、なんて言われていました」
未熟者ね。あんまり好きな言葉じゃないな。
――お前は本当に使えないな!
――無駄なことはしなくていい!
嫌なことを思い出しそうになったが、軽く頭を振るって追い出す。今はミディアの話に集中したほうがいい。
「私は他の歌姫が持つ強力な魔法は使えません。特別な力も……レットちゃんみたいな妖精に好かれるぐらいのものです。付いてきてくれるまで仲良くなったのはレットちゃんだけですが」
「ミディアの側はポカポカして気持ちが良いのですよ? だから、皆手助けしてくれるのです!」
「その皆の手助けとやらが運が良いってことか?」
なんとなく話は見えてきた。
「ええ、私はレットちゃん達の力を貸してもらっているだけなんです」
そういえば妖精は幸運の象徴とか言われていたな
運がいいってのも、あながち嘘じゃないだろうな。いくら飛翔竜退治用の飛空挺とはいえ、帝国軍に見つからずに密航できるか?
しかも、乗ってからも長い時間誰にも見つからないなんて、少なくとも俺には無理だ。
「だから、お前が墜落しても生きていたのはミディアの近くにいたからなのです。お前一人なら死んでたのです!」
その話が本当ならば、俺はこいつらに命を救われていることになるわけか。借り一つと見て、護衛はただで受けたほうが貸し借り無しになるな。
と、一瞬納得しそうになったが……ちょっと待てよ?
「いや、お前らが密航していなければ俺が墜ちることもなかったわけで……助けられたってのは少し話が違うよな?」
「っち、騙されなかったのです……」
「おいこら!? とりあえずコイツは預かっておく。後々、金が手に入ったら俺の名前を傭兵斡旋所にでも出して呼びつけろ。その時、差額を受け取ったら返してもいい」
たかだか短期の護衛報酬としてはこのブローチは明らかに釣り合っていない。
こいつらにとっても大事なものみたいだし、何より法外な金額を受け取るのは俺のプライドが許さない。
ここら辺がいい落としどころだろう。
「そこはタダにするべきなのです。コイツ、顔は良いくせに性格はクソなのです。腐ってるのですよ……」
「聞こえてんぞ、クソ妖精! こちとら傭兵だっての。むしろ、適正料金以外取らない分だけ良心的なんだよ!」
「誰がクソ妖精ですか!?」
「そこだけ反応すんのかよ!?」
俺とレットのやりとりを見ていたミディアはクスクスと笑うと丁寧に頭を下げてきた。
「よろしくお願いしますね、レイアスさん」
「依頼として受けたからには、しっかりとこなすさ」
「ほら、ちゃんと働くのですよ。サボったら承知しないのです!」
このクソ妖精め、機会があったら羽虫のようにはたき落としてやる。
などと、考えつつ一歩踏み出した時だ――
ゾクリと背筋が泡立つような異様なものを感じ取った。
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