第5話



「う……うぅ、ここは?」


 顔に陽光を感じ取った俺は手で影を作りながらゆっくりと目を開けていく。

 それと同時になぜか身体が妙に痛いと気付く。動けない程の怪我は負っていなさそうだが、本調子でもないな。


 それで……俺は一体何をしていたんだったっけ? と若干ふらつきながら立ち上がった所で全てを思い出した。


「そうだ――よく分からん少女のせいで墜ちたんだよ」


 謎の少女と一緒に小型飛空挺で飛翔竜が大量にいる空へと飛び立つことになり、そのままでかい飛翔竜と激突してこの森に墜ちた。


 端的にしたところで、どうしてこうなったのか全く分からんな。


 そういえば、俺が乗っていた小型飛空挺や激突した飛翔竜はどうなった!? ついでに俺のブレードライフルがない!? 


 どっかに落としたのか!? だとしたら相当マズいぞ……こんな森の中じゃ魔獣だって出てくる。サブウェポンのナイフは腰についているとはいえ死活問題だ。


 俺は落下の衝撃でコックピットから弾かれたのか、森に一人で横たわっていた。加えて今の所、小型飛空挺や飛翔竜はどこにもない。


 まぁ、小型飛空挺は激突した時点でひしゃげていたか壊れて森からの脱出には使えないだろうが、飛翔竜は生き残っているかもしれない。頭をぶち抜いたりしたわけじゃないからな。


 人間よりも頑丈な飛翔竜なら十分あり得るだろう。

 警戒しつつあたりを見回してみると、薄らと黒煙が上がっていた。


 多分、墜落した小型飛空挺だよな? 野営している人間という可能性もあるが、あまり現実的じゃないな。


 とはいえ、万が一間違っていたら面倒なことになりかねないので、慎重に接近していく。


 しかし、そんな心配は杞憂だった。進んだ先には完全に使い物にならなくなった小型飛空挺だけがそこには存在していた。


 やっぱ、俺よく生きていたな……。小型飛空挺もある程度の衝撃には対応しているだろうが、今回のは完全に墜落だったはずだ。今でも生きているのが信じられない。


 よく見てみれば、小型飛空挺が墜落した付近の木々の枝が折れている。

 おそらく、これがクッション代わりとなったのだろうが……大怪我していないってのは、奇跡だな。


「とりあえず飛翔竜はいないみたいだな。別の場所に墜ちたのか?」


 墜ちている最中のことはろくに覚えていない――そもそも外を確認している余裕なんて無かった――ので飛翔竜がどうなったのか定かではないが、近くで暴れているような気配はない。


「もしくは死んだか?」


 正直、それが一番面倒がなくていい。もし、生きていれば墜ちる原因となった俺達のことを恨んでいるかもしれないし、飛翔竜を生息域でもない森に逃がせばどんな影響が出るか分からない。巡り巡って自分の首を絞めることになりかねない。


 だが、そんなことよりも重要なのは――俺の武器相棒が飛空挺の近くに刺さっているってことだ!!


 無事でよかったぁ!!


 大喜びで刺さっているブレードライフルを引っこ抜くと刀身から魔弾の発射機構といった戦闘に使う一連の機能を確かめる。詳しいことは整備を依頼しないと分からないが、とりあえずは問題なさそうだった。


 刀身に歪みは出ていないし、魔弾も放てそうだ。もったいないから試し打ちはしないけどな。

 ブレードライフルを背負ったところで、視界に入った小型飛空挺のコックピットへ目を向ける。


 そこにはぐったりと座席に寄りかかっている一人の少女が存在していた。


「……そういえばコイツもいたな」


 一緒に墜ちた飛翔竜や落としたブレードライフルばかり気になっていたが、今目の前にいるのは俺とコックピットごと墜ちた少女に違いなかった。


 何の目的であの飛空挺にいたのか? 小型飛空挺に乗り込んで何がしたかったのか? といった具合に謎だらけであまり関わらないになりたくはないが、生きているのか死んでいるのか分からない状態で放置するのも寝覚めが悪い。


 一応、生きているなら聞きたいこともあるしな。


「とりあえず生きているか確かめるか」


 死んでいたらどうするべきかねぇ……と少女の呼吸を確かめようと手を伸ばした時だ――


「ミディアに近づくなです!!」


 そんな声と共に現れた存在にペしっ、と全力ではたかれ、俺の手はあらぬ方向へずれていく。


「フェ、妖精フェアリー!? 何だってこんな所に!?」


 現れたのは半透明の赤い四枚羽根を持つ妖精だった。人間を小さくしたような姿が特徴的な生物で、完璧な生態は分かっておらず、あまり人前に姿を見せないことでも有名だった。

 一部貴族が裏で見世物にしたり、高値で取引したり……なんてうわさもあるが真偽のほどは定かではない。


 今、俺の目の前にいるのはそんな神秘的といえる生物だったのだが、感動や欲望よりも怒りや困惑の方が勝った。


「ちょっと待て、いきなり叩くのはどういった了見だ!?」


「うるさいのです! この変態!」


 ある程度、冷静に問いただしたつもりだったのだが、妖精は俺の言葉に耳を傾けるどころか、追加の罵倒を寄越してきた。


 ほほう? さてはこいつ俺に喧嘩を売ってきているな?


「誰が変態だ! 俺はこの――ミディア? とかいう少女が生きてるか確かめようとしただけだ! ぽっと出の妖精風情に非難される筋合いはねぇ!」


「誰がぽっと出の妖精なのですか!! 私はミディアとずっと一緒にいたのです! 大体嘘つくななのですよ! 気を失っているミディアにあれやこれやした挙げ句、身ぐるみ全部はいで行くつもりの人間が言い訳がましいのです!!」


「あぁ!? 誰がするか!? こちとら真っ当な傭兵で略奪者の盗賊なんかじゃねぇんだぞ! おまけにずっと一緒にいただと? じゃあ、お前落下するときどこにいたんだよ?」


 一緒にいたってのが本当ならコイツはコックピットにいたはずだが、俺はコイツを見ていないし、こいつの声も聞いていない。


「減らず口をたたく人間ですね!?」


「そりゃ、お前だろうが!?」


 『ぐぬぬ』、『あぁ?』と、互いに威嚇し合う俺達のにらみ合いは唐突に終わりを告げた。


 その理由は――


「……おはようございます?」


 寝ぼけ眼を擦りながらくだんの少女が起きたからだった。


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