第4話
「なっ!?」
飛翔竜に群がられていた二番艦が…………爆発した!?
「マジっすか……」
「うそだろ……」
「り、リディルトーレが……」
っ! どいつもこいつもあまりの出来事に呆けてやがる!?
いや、俺も人のことは言えないか。まさか、爆発するとは想像していなかった。
二番艦を取り囲んでいた飛翔竜の大半は爆発に巻き込まれ、墜落していく。
飛翔竜ですら、あのザマじゃ乗っていた人間の生存は絶望的だろうな。エリクじゃないが、本当に乗っていなくてよかったと心から思う。
だが、なぜ二番艦がいきなり爆発した?
黒煙が上がっていたのは補助飛行装置だけだった。救援信号が出されていたとはいえ、爆発するような兆候はどこにも無かった……はず?
一応、他の可能性としては飛空挺に爆発物を仕掛けられた――とかも考えられるか。
帝国と敵対的な国や組織、もしくは黒の歌姫あたりが何か設置して爆発を引き起こした……なんてな。
証拠もないのに、流石に考えすぎだな。そんなことよりも大事なのは、飛翔竜はまだそこら中にいるってことだ。こっちに集中した方が良い。
とはいえ、爆発のおかげ(と言ってはなんだが)でこちらを襲っていた飛翔竜達も動揺しているのか動きが鈍い。
今のうちに倒せるだけ倒して置こう、とブレードライフルを構えたときだ。
視界の端の方に、何やらローブ姿の人影を見た気がした。
俺が振り向いたときにはすでにいなかったので見間違いかとも思ったのだが、先ほど考えたことが頭をよぎる。
――爆発物でも仕掛けられたのか?
もし、今の人影が俺の想像通りのことをやりに行ったのなら、これからこの旗艦『リベルターレ』は二番艦『リディルトーレ』と同様に爆破させられるということだ。
その時、俺達は爆発で木っ端微塵……運良く生き残っても生身で地面に叩きつけられて即死だろう。
そもそも、この飛翔竜と戦って忙しい中、帝国兵や傭兵が艇内へ走って行くか? 後方支援の兵士や傭兵だとしても艇内でローブを羽織っているのはおかしいだろう。
考えれば考えるほどやばそうな予感がしてきた。
俺はすぐさまローブの人影を追って艇内へと駆け出す。
「っ!? エリク! ここは任せた!」
「え!? ちょっ!? どこ行くんすかぁ!?」
「野暮用だ! すぐ戻る!!」
「えぇ……おわっ!? 飛翔竜が!?」
飛翔竜をいなす羽目になったエリクには悪いが、こっちはこっちでやばいかもしれないんだ……すまん。後で事情説明と飯ぐらい奢った方が良いかもしれないな。
ローブの人影を追って艇内へ入ると、戦闘やバリスタの回頭音、飛空挺の音に混じってかすかにタッタッタと走る音が聞こえてきた――気がする。
「あってるのか分かんねぇけど……飛空挺を爆発させるなら主力機関の方だろ!!」
ある程度の目星を付けて艇内を走って行く。戦闘中ということもあり、主要エリアを除いて艇内の人間はあまり多くない。
何かをするつもりなら、まさにうってつけだろう。絶対に阻止しないとな。
下に向かう階段を降りたところ、通路の角に見覚えのあるローブがはためいているのを目が捉えた。
「あそこか!」
逃がさねぇぞ、と足を速めてローブと同様に角を曲がり、やや無機質な通路を駆け抜けていく。
たどり着いたのは、薄暗い大きな部屋だった。
ここは……脱出用の小型飛空挺が並ぶ格納庫か?
飛空挺がやられて駄目になり、どうしようもないときに乗っていた上級管理官ややんごとなきお方を脱出させるための飛空挺――なんてものがあるってのは聞いていたが、まさか実在したなんてな。
俺がたどり着けたのも驚きだが、おそらく今回は飛翔竜退治のためだったから使う予定もなく、ここに護衛の兵士は割いていなかったんだろう。
さて、ここにあのローブのやつ――ローブ男もいるはずだがどこにいる?
飛空挺に乗り込むために作られた高めの通路を歩いて行くと、何やら小型飛空挺の近くでゴソゴソとしている人影があった。いた、あのローブ男だ。
「その小型飛空挺で何をするつもりだ?」
「…………!?!?」
俺が背後から問いかけるとローブ男は心底驚いたのか、ビクッと立ち上がりこちらに振り返った。
コイツ……結構小さいな。いや、潜入には身軽な方がいいってことだろうな。武器は持っていなさそうだが、警戒しつつ近づいていく。
「小型飛空挺に爆弾でも設置して、小型飛空挺同士を連鎖的に誘爆させるつもりだったのか? それとも、小型飛空挺で内部に特攻して主力機関を暴走させるつもりだったのか? 俺が想像もつかない方法で爆発させるってこともあり得そうだな?」
「……………………」
「黙っている所をみると図星ってことか? バレた以上、観念して全部喋ってもらいたいんだがな。上には待たせている奴もいるし、飛翔竜も倒さなきゃならないんだよ」
「……!?」
俺が最後に言った一言で、ローブ男は焦ったかのように飛空挺に乗り込もうとし始めた。
「お前っ! 何する気だ!!」
一足飛びで、ローブ男に近づいた俺は乗り込もうとしている腕を掴んで引っ張ろうとした。
すると、掴んだ反動でローブのフードがめくれたのか、俺の目にローブ男の中身が飛び込んでくる。
現れたのは濃い夕焼けのような赤い髪をした紅目の――少女っ!?
「はぁっ!?」
「離してくださ……きゃっ!?」
「うおぁ!?」
まさか、ローブ男の正体が少女だとは思ってもいなかった俺は思わず掴む力を緩めてしまい、少女に引っ張られる形で二人揃って小型飛空挺に乗り込んでしまう。
頭から飛び込むように搭乗する形となった俺。おまけにコックピットのハッチまで閉まったのか、すごい窮屈だ。
この状態を歓迎していないのはこの謎の少女も同じようだ。
「なんで乗り込んでくるのですか! 狭いです!」
「乗りたくて乗ったわけじゃ……ねえよ! 早くハッチを開けろ!」
「開けるボタンってどれですか!? それともレバー?」
ガチャガチャといじくる様はとても爆発物を仕掛けに来たとは思えないが、じゃあ、この少女はここに何をしに来たのかという疑問は残る……が! そんなことよりも一向にハッチが開く気配がねえ!?
「だぁあ!? 俺がやる! 大人しくしてろ!」
「もぞもぞしないで下さい!?」
体勢を立て直そうとしている俺の耳にフォォォン! と何かが起動する音が聞こえてきた。
さらに、身体を若干の浮遊感が襲ってきた。これは、もしかしなくても発進しようとしている!?
「おい、ちょっと待て!? これ起動して!?」
「きゃあ!?!?」
バビュン!! と動きだした小型飛空挺は格納庫を飛び出して、大空へと飛び立った。
飛翔竜だらけのこの空に。
そう、これに乗り込んでしまったことで俺はとんでもない目に遭うことになったのだ。
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