第3話


「っ! 流石にウザくなってきたな」


「想定されていた群れよりも大規模っすよ!?」


「この戦況じゃそうだろうな」


 甲板のあちこちが飛翔竜の血で汚れているにも関わらず、飛空挺の周囲は飛翔竜でいっぱいだ。


 俺とエリクが合わせて倒した飛翔竜の数は最低でも二〇は超えているはずだが、全然勢いが衰えた様子はない。


 俺達以外の傭兵や帝国兵もかなりの数を倒しているはずなのにこの状況だ。


 全員、まだ体力的に余裕はありそうだが、このままだと精神的に参ってくるやつが出てくるかもしれない。


 自分の稼ぎも大事だが、死ぬのは絶対にゴメンだ。疲弊してやられそうな傭兵や帝国兵の援護に回るべきか?


 などと、思案していたら、飛翔竜を切り裂きながらギリアムが大声で叫んだ。


「飛翔竜が側面に回り込んできている!! なんとしても飛行装置を守れ!!」


 悪い状況ってのは案外重なるらしい。


 飛空挺には飛行装置――多数のプロペラが取り付けられている。側面に取り付けられているのは補助飛行装置ってやつで主力機関メインエンジンを支えるバランサーのような役割を果たしているらしい。


 飛空挺の技術なんか俺は詳しくは知らないが、常識程度のことは知っている。


「エリク! 俺達は側面に向かう飛翔竜を相手するぞ!」


「わ、分かったっす! 守り切れずに墜落とか……冗談じゃないっすよ!?」


 そう、エリクが危惧した通り、側面の飛行装置が無くなれば無くなるほど飛空挺は安定飛行が出来なくなり、最悪の場合墜落しかねないのだ。


 飛翔竜にそんなことを考える知能があるのか、それとも正面から戦ったのでは損耗が激しいと本能で考えたのかは分からないが、俺達にとって厄介な事態になったのは間違いない。


「法術が使えるやつは側面のやつを優先的に狙え!」


「バリスタ回頭!! 側面優先!」


 俺とエリクが側面を優先する、と決めたのと同時に他の傭兵や帝国兵の何人かも側面に向かう飛翔竜を狙っていく。


 早めの判断が功を奏したのか、補助飛行装置に被害が出ないまま飛翔竜を撃退していると、一人の帝国兵が息を切らせながら、甲板へと現れた。


「緊急伝令! 二番艦『リディルトーレ』から救援信号です!!」


「何だと!? っ、詳しく状況を知らせろ!!」


 ギリアムが飛翔竜を弾き飛ばしながら、伝令に来た部下を問いただしていた。


 二番艦っていうと確か左側にいた飛空挺だよな。補助飛翔装置を狙う飛翔竜をまた一体斬り伏せつつ、俺が今いるのとは逆側――左舷後方を確認してみる。


 すると、そこには赤いライトを高速で点滅させながら、飛翔竜に完全に囲まれた飛空挺が存在していた。


 いくつか飛行装置もやられているらしく、一部の装置から黒煙が噴き出し、高度の維持も怪しい状態だった。


「うっわ、やばいっすねアレ。あっちに乗ってなくてよかったっす」


「その通りだがな、あっちがやられたら、あそこにいる飛翔竜共はこっちに向かってくるだけだぞ?」


 戦況が比較的ましな俺達が援護しないと、二番艦はこのまま沈むだけだろう。


 右にいるはずの三番艦の様子は見ていなかったから知らないが、こっちにバリスタや魔法の援護射撃がこないということは、自分達に向かってくる飛翔竜だけで手一杯ということだろう。


 そもそも二番艦とは距離もあるだろうし、援護が届くかも怪しい。


「あ!? そうっすよね!? 援護しないとマズいっすよね!?」


「とりあえず魔弾の準備をするから、エリクは近づいてくる飛翔竜をなるべく相手してくれ。ある程度は俺も見ておくが、頼む」


「分かったっす!」


 あんまり使いたく無かったんだがな……。まぁ、命には変えられないか、とブレードライフルを射撃状態で構える。あの状況じゃ数匹減るだけでも大きな援護になるだろう。


「バリスタ隊! 二番艦『リディルトーレ』の援護を最優先だ!! 回頭急げ!!」


 ギリアムは狙えるバリスタのほぼ全てを二番艦の援護に回す判断を下したみたいだな。俺がいうのもおかしいが良い判断だ――当たれ!!


 引き金トリガーを引いて飛翔竜目掛け魔弾を放つ。俺の魔弾に追従するようにバリスタから矢も発射され、二番艦を取り囲む飛翔竜へと飛んでいく。


 そして、俺の魔弾やバリスタの矢が数匹の飛翔竜に命中した直後だった。



 ボバン!!! という嫌な音と閃光が俺を襲ったのは……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る