第2話


「よぉし! まずは一匹!」


 開戦の一発とでも言うべき俺の魔弾は先頭の飛翔竜の頭をぶち抜いて、見事に一撃で仕留めることに成功した。


 一番槍の仲間をやられたことに飛翔竜達は恐れるどころか、怒り心頭のようで先ほどよりも猛々しく向かってくる。


 いいね、いいね。まだ距離があるうちに、稼げるだけ稼がせてもらうじゃないの!


 もう一発! と放った魔弾はそんな俺の欲がでたせいなのか、初撃で攻撃位置を把握されたのかは分からないが、ターゲットにした飛翔竜が身を翻したせいで空しく空を切った。


「っち、もう一回――」


 外したことに苛立ちつつも再び同じターゲットを狙おうとしたが、スコープの先には氷の槍に両翼を貫かれ落下していく飛翔竜。


 獲物を盗られたか! と横目で周囲を確認すると、他の傭兵達が笑いながら、俺を煽ってきていた。


「レイアスにばっか美味しいところを持ってかれてたまるかってんだよ!!」


「撃て撃て! 撃墜スコアはいただきだ!」


 法術使いの傭兵達が魔法を飛翔竜目掛け火に、雷、氷、と様々な魔法を放っていく。



「「「GURUOOOO!?!?」」」



 多数の魔法をくらった飛翔竜が数匹力を失い落下していく。

 それを見ながら俺はポツリと呟いた。


「相変わらず魔法ってのは高威力だな……」


 距離があるからこそ、強力な魔法を放てているのは間違いないが、それでも魔法という手段があるのを羨ましく思ってしまう。


 とはいえ、無いものねだりをしても仕方がない。俺にはコイツで十分だ。

 ブレードライフルの銃身を軽く叩くと再びスコープをのぞき込む。


「おっ、アイツを落とすか……」


 魔法を回避しようと大きく旋回している飛翔竜を見つけ、軌道を見極めて一発。


「バッチリだな」


 先ほどと同様に頭をぶち抜かれた飛翔竜は真っ逆さまに落ちていく。


 その一方で、ゴゥンゴゥンと何か大型のものが動いている音が聞こえてきた。


 見れば飛空挺に備え付けられたバリスタが帝国兵達の手によって回頭されていく。


「傭兵だけに任せるんじゃない!! 我らは名高き帝国飛空隊だぞ!! 引きつけてから……放てぇ!!」


 ギリアムの声に合わせてバリスタから大型の矢が飛んでいき、飛翔竜が次々と撃ち落とされていた。


「やるねぇ……ただ偉そうにしているだけの野郎じゃなかったか」


 まぁ、そりゃそうか。帝国飛空隊の隊長が無能じゃ俺達ごと死ぬ羽目になるもんな。


 三匹ほど撃ち抜いたところでスコープから目を離し、ブレードライフルの柄を持ち構え直して、近接戦闘へと意識を切り替えた。


 魔弾はまだ放てるが、正直コストがかかる。気をつけないと稼ぎなんてなくなってしまうからな。


 それに加えて、飛翔竜の先陣がすでに甲板の先にやって来ていた。


 飛翔竜は遠距離攻撃の手段こそ持たないものの、大男よりもデカイ体躯を生かしたかみつきや尻尾や両翼による叩きつけ、薙ぎ払いといった強力な攻撃を備えている。


 スコープを除いて魔弾を撃っていては咄嗟の時に避けられない可能性があった。


 甲板へと近づいてきた飛翔竜に対し、傭兵達も各々の武器を取り出して構える。


 バスタードソードにウォーハンマー、ハルバードなんてのもあるな。

 纏まりこそないが、どいつもこいつも目をギラギラさせてやがる。


「報酬がノコノコと自分からやって来たぜ! おらぁ! 潰れろぉ!!」


「っち、俺んとこに来りゃ良いものを……」


「焦んなよ、すぐにこっちにも――ほら来たぞ!!」


「切り落とせ、切り落とせ!!」


 伊達に自ら契約して飛翔竜退治に参加したわけではないな。


 飛翔竜が甲板に降り立つのと同時に攻撃を加え、尻尾や両翼といった危険な部分をいち早く処理している。おまけに邪魔にならないようすぐさま船外へと叩きだしていた。


「こいつら、飛翔竜相手に笑ってやがる!?」


「よ、傭兵というのはここまで命知らずなやつらなのか!?」


「俺達はいつも通りやれば良いんだ! いくぞ!!」


 帝国兵達は傭兵の態度に驚きつつも、分隊を維持して飛翔竜の相手を務めていた。流石の練度だな。下手な援護なんかいらなさそうだ。


「飛翔竜相手に笑っているのなんて、レイアスさんを含めた一部のいかれた傭兵だけっすよ。傭兵が皆あんなのだと思わないで欲しいっす」


「なんか言ったかぁ、エリク!」


「なんも言ってないっすよ! 上から一匹来るっすよ!」


「見えてるよ! そらっ!!」


「GURAAAA!?」


 飛行状態から甲板目掛け突撃してきた飛翔竜の片翼を切り裂いてたたき落とし、首にブレードライフルを突き刺せば――いっちょ上がり。飛翔竜といえど生物だ。首をやられればどうしようもない。


「さて、次の獲物だ。どこを見てもより取り見取りってなぁ!」


 次々とやって来る飛翔竜目掛けて駆けだそうとすると、


「うおああああああ!?」


 何やら叫び声が聞こえてきた。

 続けて、うるさい金属音と一緒に傭兵が一人転がってくる。


 あれは、飛翔竜の攻撃を受け損ねたな。手に持つ盾が大きくへこんでるし、まず間違いないだろう。


 んでもって、この隙を飛翔竜が逃すはずがない。


「やっぱりな!」


 上を見れば、飛翔竜が吹き飛ばした傭兵に噛みつこうと鎌首をもたげていた。


 傭兵の死に様は自己責任――なんて言われるが、この状況で味方がやられるのを見てるのは悪手だろう。


「させねえよ!」


 ブレードライフルを斬りあげて、飛翔竜の首を弾き飛ばす。

 出来れば、今の一撃で鱗の薄いところを掻っ捌きたかったんだが……浅かったか。


「隙だらけっすね、その首もらったっす!!」


 俺が弾き飛ばした隙を見逃さず、エリクは飛翔竜の首を大型マチェットで横一線に切り裂いた。


「GURUAAA!?!?」


 首から大量の血をまき散らした飛翔竜はそのまま倒れ伏す。見事なまでの即死だな。


「ふぅ、なんとか上手くいったっす」


「なに言ってんだか……相変わらず良い腕してるくせに」


 エリクは整った顔に似合わず妙にビビりな所があるが、傭兵としての実力は高い。


 エリクと出会ったのも、コイツが魔獣の群れ相手に一人で戦っているところを援護したのが始まりだ。


 援護したといってもこいつ一人で二割ぐらいは倒していたし、俺が助けなくても撤退ぐらいは出来たんじゃないかと今でも思っている。


 それから、妙に懐かれた感じになって、何度か仕事を一緒になっているうちに傭兵内でもコンビとして扱われることが多くなった。


 それ自体は別に悪いことではないが、一応、俺もエリクもどっちもソロのはずなんだがな……。


 なんてことを考えつつ、エリクが倒した飛翔竜を甲板から弾き飛ばす。

 すると、転がってきた傭兵が立ち上がりながら、感謝の言葉を述べる。


「た、助かった……アンタらがいなかったら――」


「礼は良いから、さっさと仲間の所に戻って飛翔竜を退治してくれ!」


「わ、わかった! アンタらの腕じゃ心配はいらなさそうだが、武運を!!」


 傭兵は盾とロングソードを構え直すと吹き飛んできた方へ戻っていくが、その間にも次々と飛翔竜が降りてきていた。


 この戦いはまだまだ終わりそうにないな。

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