第9話 肩の手

「まだ来ないのかしら」

今日は、デートの約束で待ち合わせをしている

少し遅れて、彼がやってきた

「玲子さん、ごめんなさい、電車が遅れてしまって」

定番の言い訳だがスルーをした。

「映画が始まるわ、早く行きましょう」


教室でいつもの通りに窓から外をみていると、彼が机の前に来る

「玲子さん、日曜日に映画でも見に行きませんか」

衆人環境で、デートの誘いをしたのが、上村君だった

クラスカースト上位でイケメン

テニス部で人当たりも良くて、女性にも優しい

彼の机の前は、常に人が集まる。

そんな同級生だ。


私は片眉を上げながら、

「何の映画を見るの」と聞いた

「サスペンス映画で評判がいいのがあるので、一緒にどうかなと」

真っ正面から私を見つめている彼は、断られるとは思ってない

実際、ここで私が断ればクラスの女子から

「何様」扱いされる


私は「いいわよ」と答えると、逆に上村君は意外そうな顔をした

すぐに破顔して、日時を決めた。


転入生の舞子が、心配そうに私の机に来た

「あの人あまりよくない噂があるの」

「知ってるわ、用意するので安心して」

舞子は、ほっとした様子で戻る。


映画を見始めると、私は彼の左側に座る事にした。

上映中は、彼の肩をちらちらと見ると

手が乗っている

小さな手だ、赤ん坊の手に見える

「水子かしら」そうつぶやいた。


「この後はカラオケに行きましょう」

「いいわよ、遅くなると電話していい?」

「かまいませんよ」

上村君はニコニコとカラオケ屋に先に入る。

私は電話をした。


何曲か彼が歌うと、「玲子さんもどうですか」と聞いてくるが断る

私が「そろそろ帰ります」と言うと、隣に座り

「もっと遊びましょうよ」と肩を抱こうとした。


するりと立って真正面から

「肩が重くなったりしてない?」

と聞いてみる


「肩なんともないですよ」

「でも最近は肩こりはあるかな」

霊障で実害が出るレベルなら相当だと感じた。

「まぁいいか」彼はスマホを取ると、短く話をする


隣で待機でもしてたのか数秒もしないで、ドアが開いた。

素行が悪そうな20代前後の男達が入ってくる

「今回は、この女か」

「かなりきつそうな顔だな」

下品な笑い声が、不快に感じる


私は部屋の奥まで下がると、「上村君、ここはカメラあるのよ」

「ここでは何もしませんよ」

同級生達なら、ここでもう萎縮してしまうだろう。

やり口が汚い。


「おいどけ」

でかい声が背後からする。

電話で私も待機させていた、糞坊主が到着した。

身長は小柄で165cm程度だが、横幅が広い、蟹のような分厚い体は

格闘技をやっていると一目で判る。

男達を片腕でどかして中に入る

「この男か」上村を指さす


「ええ、どんな感じ」

「うーむ、5人くらいかな、かなり憑依されてるな」

水子が彼の体に入り込んでいると、告げる

「上村君どうする?お祓いする?」

一応は、聞いてみる


呆然としている上村は、

「なにオカルトみたい事を言ってるだ」

ガチギレするが目を泳がせていた。

立ち上がろうと腰を浮かすと、動けない様子だ

中腰のまま、足をガクガクさせる


そのまま力が抜けたように座り込むと、土下座の状態から体を沈め始めた

「痛い痛い痛い」

カエルのように平べったくなる上村が叫び始めた


その頃には男達は消えて、店員が駆けつける

「なにごとです」

糞坊主が、質問を繰り返す「どうする?」

上村は「たすけて」と肺から空気が抜けるような声を出す


糞坊主は、上村の近くで鉄製の数珠を振り回す

「ごうまらいごう」

なにやら陀羅尼をつぶやくと足を

あげて床を力をこめて踏む

床がたわみ、上村が少し浮いた


「救急車を呼んでやれ」

糞坊主が店員に声をかける


「それで、どうしたの上村君」

舞子が面白そうに聞いてくる。

「救急車と警官が来て、いろいろ聞かれたわ」

上村は、両足脱臼と脊椎損傷らしい

店内カメラもあるし、上村が転んでケガをしたと解釈された。

当たり前だ、巨大な赤子が上に乗っているなんて誰も信用しない


「後は坊主にまかせたわ」

糞坊主は、赤ん坊を祓わなかった。

ちまちまと除霊している風にみせかけて、金を引っ張るつもりだろう

あちらの世界より恐ろしい存在に思える。

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