第8話 地主の看板

私が窓から見ている家の隣には、大きな庭がある。

かなり広いのだが、駐車場でもない

その庭には、『駐車禁止』と大きな看板が出ている。

無駄に広いのに、車の利用も禁止されている不思議な家だった。


数年前に、そこの家のおじさんのお葬式があった。

地主として、有名な人らしく大勢の人が集まるが、

その庭には、車は置かれなかった。

遺言らしい。


遺産の問題か、土地を手放して市が管理する事になる。

しかし市側も、財政不足なのか有効利用できずに

管理されていない状態が続いた。


そうなると不法投棄も発生するが、『駐車禁止』の看板に

ゴミが置かれると、なぜか翌日には移動させられていた。

そして、ゴミは周囲にまき散らされている。


「なにか変な感じがする」

私は、誰かに相談をしようと考えている時に、事件は起きた。


下校時にいつもの転入生の舞子と、歩いていると男が立っていた

どうも暴走族らしい男は、舞子に声をかける

「ねえ、ドライブしない、カラオケに行こう」

ナンパだ、古典的だが背の高い彼は、それなりに

女に受けが良さそうな風貌をしている。


「いえ、いいです」

度胸があるのか、舞子は断る。

私の腕をつかむと、足早に通り過ぎようとするが

「え?いいの、良かった」

と舞子の肩を掴む。


「やめてください」

「お前は、今いいって言ったよな」

「承諾したんだから合法だ」


めちゃくちゃな理屈で、つきまといはじめた。

「警察に電話しますよ」

私は相手を威嚇すると、待っていたとばかりに数人の男達が

近づいてくる。


ワンコールボタンをかけて電話で状況を説明しながら、

すぐにその場から走るが

男達は余裕をもって追いかけてきた。

警察が来る前に拉致ができると考えているようだ。

住宅街で、他人の家のドアを叩いている間につかまるだろう。

とにかく走る。


あの駐車場までくると、族の車が見えた

看板のところに、堂々と駐車している。

そこで待ち伏せしていた。

獲物が、檻に捕らえられるように、追い立てられたのだ。


前後に5人くらいいる男達は、にやけながら私たちに近づく。

大きな打撃音がした

見ると、族の車のボンネットが凹んでいる。


ぎょっとする暴走族は、

「誰がやりやがった」と叫ぶが、もちろん何も見えない。

足音が周辺から聞こえる。

タタタタッと小さな靴の音だろうか、子供のような感じもする


怒り狂っている暴走族は、それには気がつかないようだが

明らかに霊障が始まっていた。


バンバンバンバン、と何回も車が叩かれ始めた、そのたびに

暴走族の車が、跳ねる。

まるで子供がミニカーを棒で叩くような感じだ。


この時点で、さすがに暴走族も超常現象と理解しているのか

呆然と立っているだけになる

舞子が「車の窓を見て」と私を引っ張る


見ると暴走族の車の中に、地主のおじさんが居た。

死んだ筈のおじさんが、車の中から助けを求めている。


「あっくんは鬼だから出ちゃダメなんだよー」

「鬼は退治しなきゃいけないんだよー」


子供の声が聞こえる、ここまではっきりした霊障はめずらしい

地主のおじさんは、必死に車の窓を叩いているが逃げられない様子で

口を大きく開けているが、声は聞こえない


暴走族の車から煙が出ると、火を噴き出した。

おじさんは燃えながらまだ叫んでいる様子だが、もう煙で見えない。


「それで、男達に追いかけられると、車から火が出たわけですね」

現場検証をしている警察官は、私たちに状況を確認していた。

暴走族の男達は、誰も逃げないで立っているだけの所を

警官に確保された。


主犯格の男は、口を大きく開けて意味不明な言葉を発しているだけらしい。

警察官は、族の抗争か仲間割れで、車に火をつけたと解釈した。

燃えた車の中には、誰も居なかった。


騒然とした近所の状態を聞いてくる父親に、私は質問をしてみた

「あそこの地主のおじさんは、なんで死亡したの」

父親は

「原因はわからないが、押し入れの中で死亡したらしいよ」

「なんでも箱の中らしいが、死因は判らないと聞いたよ」

私は

「あの看板にどんな意味があるんだろう」

とつぶやくと


「どうも車に関係して、死亡した人が居たと聞いたけど詳しくは知らないな」

椅子に座ると、母親が出してくれたコーヒーを飲みながら

「古い話だが、あのおじさんのお父さんが、金貸しできつい取り立てをしたらしい」

「なにか恨みとか、持たれているかもね」


私は今も窓から看板を見る。

何が見えるのか期待しながら。

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