第4話 タイヤの魚

「遅くなったわね」

山を下りながら、駅まで戻る予定だが遅れていた。

「ごめんなさい、写真を夢中で撮ってたから」

謝罪しながらも満足そうな転入生。


その日も私は、いつものように窓から外を眺めていた。

「山の写真を撮りたいの、一緒にきてくれない」

いきなりだが、すっかり親友として扱われているので

断るのは難しい。

「いいわよ」

私は日帰りで、転入生と登山をすることなる。


しかし甘かった、行先は秘境駅からの登山ルート

標高は高くないが、一般の登山客も居ない山だ

「ここ穴場なの」

確かにそうだろうが、電車に乗り遅れたらどうするつもりか

無人駅で2人で固まって寝ろとでも言うのか

焦り気味な私は、自分がルートを把握していない事に気が付く

この景色は、山に登る時には見てない。


「ここどこかしら」

転入生が暢気な声で聞いてくる

私に判るわけがない

「地図で確認できないの?」

声に焦りが出ている。

「あの家で聞いてみましょう」

転入生が一軒家を指さしたが、廃屋に見える。


「人が住んで無さそうだけど」

心配そうな私とは違い、転入生は平気で家に向かう

一軒家は昭和の映画に、でてくる家屋に見える

家の周囲には、自動車の古タイヤがなぜか積まれている。


近くによると異臭がした

「これは生き物かしら」

私は顔にハンカチを押し付けて、古タイヤの内側を見ると

魚が水につかっていた。

もちろん死んでいるが、動いていた。

体全体が波打つように、うねうねしている。

口からは虫がでている、ハエの幼虫だろうか。

おぞましさと吐き気で急いで離れた。


「こんにちわ、だれかいませんか」

転入生が扉をたたいているが、人の気配はない

「留守かしら」

とドアノブを回すと開いてしまう。

私は「田舎だから鍵をしめないのでしょう」と

ドアを閉めさせると、転入生は裏に回ろうと歩き出した。

「ちょっとまって」

あわてて追いかける


家の裏には3名の初老の男性が居た。

焚火をしていた、鍋もある、何か煮ている様子だ。

「あ!すいません、駅の道を教えて欲しくて」

転入生が近寄ろうとする。

腕をつかむ。

「どうしたの」

と振り向くと同時に、男たちは近寄ってきた。


明らかに男たちは実体だった、転入生を引っ張りながら

真言を唱えたが効果は無い。

「逃げて」と転入生を先に走らせる

私は積んであるタイヤまでいくと

お弁当用にもってきた食塩を中にぶちまけた。

中の虫たちが暴れているのを確認すると逃げる。


十数メートル離れてから、ふりかえると男たちは

タイヤの中を心配そうに見ていた。

後は、道なりに進むと秘境駅に到着した。

数分で電車が来て乗り込む。


「なにがあったの」と聞いてくる転入生には

曖昧な言葉で濁した。痴漢かもしれないと言っとく。

でも事実は違う。


私が見た光景は、男たちは鍋を食べるところで、

米を口にいれて、ボロボロとこぼしていた。

でもそれは米粒ではなく、蛆虫だった。

口から逃げようとしている、ハエの幼虫。

「今日は夕飯は無理そう」


※知り合いから聞いた実話を脚色しています。

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