第2話 能面の転入生

「相談があるの」

廊下の窓から校庭を眺めていると、転入生が近寄ってくる。

「なに」

そっけなく返事をしたが、内心は緊張している


彼女は、能面をつけているのだ。

「あなたは見えるのでしょう」

転入時に彼女を見た時に驚いたが、周りは気がついていない。

私もなるべく自然に対応をしたつもりだが、判るのだろう。


彼女の話を要約すると

この能面は蔵で見つけて、興味本位でつけてみた。

取ろうとしても取れない

両親に相談をしてみると、面などつけてないと言われる。

食事も普通に摂れる。


日本に古来からある怪談で、「肉付きの面」がある

面をつけると外れなくなり、死亡するパターンも語られている。

怪談の方は、実体のある面が取れなくなり

外そうとすると痛みが走る。


彼女の場合は、面の実体は感じるのに

普段の生活も問題ないし、他人には見えないらしい。

ただ彼女は鏡を見ると、面が見える。

相談しようにも、相手が居ない

困っていると

私が避けているようなので、見えるのかもと

考えたらしい。


「私は何もできないわ」と言うが、さすがに放置はできない。

あの糞坊主に相談しよう。


「ねえちゃん、今日はなんだい」

古寺というか、ほぼ廃寺のような場所に、能面の転入生を連れて行く

彼女を見ると、判ったような事を言い始めた

「その面は、憑依する面だな、ほっとくと一体化して自分を無くすぞ」

話半分にしても、彼女がおびえるような事を

平気で言う男だ


「なんとかできるの」

少し強めに言うと、私をじろじろ見ながら

「そうだな、尻を触らせてくれ」

私の殺意を感じたのか

「あー間違った、へへへへ酒でいいよ、ワンカップで」


未成年が酒を買えるわけがないだろと、思ったが

父親の飲まないで放置されているウィスキーを渡す約束をした。

どうせ飲まないのだから後で水でも入れとけばいい。


糞坊主は、転入生を座らせると釘と木槌をとりだした

「なにするの」

驚いて声をだすが

「なに叩いて割るだけだよ」

釘を面に当てると、木槌でいきなり叩いた


コン、と音を立てて面が外れて、泣きそうな転入生の顔が見えた

「ありがとう」

目に涙をためながらお礼を言う彼女は、かわいらしい。


「お酒を後で渡すわ」

転入生を見ている糞坊主から、ひきはがすように外に連れ出す。


「能面が壊れても大丈夫なの」

割れた面を持ちながら

「霊感のある人にしか見えないから大丈夫」

私を見ながら、親友ができた喜びでニコニコしている転入生。

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