4章②  相補の性(さが)

Twitterの彼に会うことになった。

店員さんはマスターが一人だけの静かな空間。指定の席は人から見えにくい端っこの席。

彼なりに気を遣ってくれたんだろうな。


私が席を探すなり彼が私に気づいたそぶりでやってきた。


「突然ごめんね。いやごめんなさい。俺が連絡取った優也です。よろしく。」


文章というのは、為人を図る上でかなり参考になるものだと思う。

たった数行でしかないけど、この人は私がイメージした通りの人だった。

佇まいからしてしっかり、はっきりしている。


「あの、立花です。こちらこそよろしくお願いします。」


挨拶が終わった後のちょっとした間が今の私には厳しいものがある。

しかも私が迷惑をかけた人の友人ときた。気まずい。


席に座った途端、どう話を進めようかと迷っていたけど、そんな考えはすぐに彼の勢いにかき消されてしまった。


「あいつから聞きました。今付き合っている人がいるみたいですね。直情的に連絡取ってすんませんでした。でも、そのあいつは本当にいいやつで、あなたのことをほんとに大事にしていたんです。どうしてもこれだけは言いたくて、だからその・・。」


「本当にごめんなさい!」


私の出来心であの人だけじゃなくてこの人にも迷惑をかけてる。本当に最低だ。


正直いうのは怖い。ほんとのことを言ったら絶対呆れられる。しかもあの人にも伝わっちゃう。


だけど、いやだからこそ言わなきゃ。


その・・・。


そこから私は、あの時のことを正直に話した。感情がぐちゃぐちゃになりながらも涙は堪えた。だって今の私に涙はふさわしくないと思うから。


あぁ、あの時正直に言ってれば私と彼はどうなっていただろうか。

もしかしたら。

いや、たらればはよそう。最低だ。本当に。


彼は考え込んでる。やっぱり、怒られる、よね・・・。



「なんだ〜よかった〜!」


へ?


「しかも俺の思ったとおりだったじゃん。」


「あの、なんのことですか?」


思っていた反応と違って私の脳はパニックになった。


「実はこの前あいつと話したんすよ。それでこういう可能性もあるんじゃないかって。んであいつもおんなじことを考えていました。彼女には彼女なりに理由があったんじゃないかって。」


なんでそんなことを。


いくらなんでも人が良すぎる。そんな人と私が付き合う資格なんて・・・。



「今、あいつと付き合う資格ないとか思ってません?」


「・・・っ。だってそうじゃないですか。私なんか。」


「なんつーか、あいつ誤解されやすいっすけど、いや正直俺も最近気づいたんすけど、快斗は誰にでも優しいわけじゃないっすよ。」


ここにきて何を、言ってるんだろう。


「たしかにあいつは基本周り思いでいい奴です。自分のためより周りのために動くような奴です。」

「だけどそれだけじゃない。自分のためには結構手段えらばないっていうか、自分の好きな人とそれ以外だとわりかし区別してる奴っすよ。」


言い方がむずいっすけど、好きなひとにはめちゃくちゃ積極的ってのかな?やっぱりむずいな言い方が・・。」


「だから立花さんのこといまだに好きですし、彼氏いるって言ってんのに違う可能性考えたり、もしかしたらって思ってるような奴っす。男っすよ。」


そう、言われるといい人ってだけじゃないのかもしれない。そもそもいい人ってなんだろう。

彼をそうやって括ったのは私の勝手だ。彼の素直な気持ちを私は素直に受け取らなかったんだ。


恥ずかしさからなのか顔が上がらない。この人にだって向ける顔がない。


・・・。


「それにこれは俺個人の話っすけど。」

「立花さんにはめちゃくちゃ感謝してるんです。」


「へ?」

急な話に私は驚いてる。そんな展開だっただろうか、感謝されることなんてなかったはずだ。


「俺今回会うまであいつのことどこか避けてたんです。しかも正直言っちゃえば、嫌いでした。」


「ええ、」

意外すぎる答えに私の辛かった気持ちはどこかに行ってしまった。嫌いだったなんて全く見えない。


「だってあいつ俺より人気者になるんすよ?しかもあいつは素でなってやんの。こっちの気も知らないでさ。そしてあいつ誰彼かままず優しいからさ、俺から離れてくんじゃないかって、まあ嫉妬みたいなもんすよ。」


重いことを晴れやかに、それをどこか懐かしそうに喋っているのは解決したからなんだろうか。


「その解決したんですか。」


「そうです。立花さんのおかげでね。」

「実はこの前立花さんの件で会った時、今言ったことを言ってみたんすよ。」

「そしたら、あいつ・・・。」


『もしかしたらそれであんま話してくれなくなったの?』


「まあな」


『ごめん。』


「いや謝ることじゃないよ。」


『みんないい友達だと思ってる。』



『でも優也は親友だよ。僕の唯一の。』


・・・。


「立花さん。」


「はい」


あいつねちっこいから気をつけてね。あいつと付き合うともしかしたらずっと好きでいられるかもよ。



「そうなれるように頑張ります。」


彼はびっくりした顔をしていて、その顔がなんだか嬉しそうで。


「・・・俺ら似た者同士かもっすね。」

「そんでもってあいつとは全然似てない。俺あいつと同じとこ何て一個もねえもん。共通点ゼロ。」


確かに私と彼も似ている部分は少ないのかもしれない。


でも、


「お二人は似ているところもありますよ。」


「お互いとっても友達想いなところです。いい関係ですね。」

素直にそう思う。お互いがすごく大事にしてる。素敵な関係だ。


「はは。」


彼はすごく照れ臭そうにだけどどこか誇らしそうにしている。


そこからは少し他愛のない話をした。彼が学校で活発にしていると伝えたらすごく驚いていた。彼の過去の話を聞くのもすごく楽しくて。私の話もとてもよく聞いてくれた。

「立花さんは快斗のことよく見てますね。


熱が入っていたのがバレたんだろうか。

・・・恥ずかしい。


「あいつはいいやつです。よろしくね。」


「・・・はい。頑張ります。」


「にしてもいいなあー、あいつが羨ましいぜ。」


「優也さんにもきっといい人が現れますよ。」

素直にそう思う。心からの言葉だ。


「だといいんすけどね〜。」


「もしかしたらすごく近くにいるかもしれませんよ。」


「まあならいい出会いを期待しますかぁ。」



じゃ俺は先に帰るんで、もう一度あいつと話してあげてください。」


「はい。」


・・・。


「じゃあ俺はこれで、お先に失礼しますね。」


「本当にありがとうございました。」


残ったコーヒーを飲みながら、店を出て行く彼を見送った。


お店のコーヒーが今の昂った私の感情を落ち着かせてくれる。



マスターが勧めてくれたこのブレンドは、なんだか私を後押ししてくれている気がした。


「頑張ろう。」


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