4章① 雨音が響く心

「いきなりごめんなさい。俺快斗の友達なんだけどさ、一度だけでもいいから話を聞いてくれないっすか?」


TwitterのD Mにこれが来たのは、あの人をふった3日後のこと。

名前も知らない男の子からの連絡に私は少し連絡を躊躇した。


・・・もしかしたら、あの人が根回しにしたんだろうか。

いや彼はそんなことをするような人じゃない。

むしろ彼のような人間性だからこその状況なんだと思う。


彼は本当に人に優しい人。

それは彼と会うたびに感じること。



でもその優しさは不特定多数に向けられるものじゃないのだろうかと心配になる。

いや、なってしまった。


・・・だから私は彼と付き合うことを躊躇ってしまったんだと思う。


***


入学式後の自己紹介で彼がやっていたかまし。

私が最初に彼に持った感情は「よくやるな〜この人。」というもの。

関心というより呆れに近い。



私は広く浅い関係が嫌いだ。

高校に入って友達はできた。とっても気が合うお友達。

だからそれ以外の人と無理に友達を作ろうとはあまり思わない。

これが私のポリシーというか、価値観。


だけどこの人がやっていることは、私のとはまるで逆のこと。

みんなに話しかけて、みんなにいい顔して。

初めてのクラスで彼はすでに輪の中心にいた。彼のおかげで明るくなったと言っても過言ではない。

それに関してはすごいとは思う。だけど、


「チャラチャラしている人は嫌いだ。・・・元彼を思い出す。」



中学3年のある日、同じ部活動だったあの人から突然告白された。


恋愛として好きかと言われるとわからないが、特に嫌いと言うわけじゃなかった。断る理由もなかったからあの時はオッケーしてしまった。のだが。


結果として、失敗だった。後から聞いた話だが、本命に振られたから私に告白したらしいと知った。結局私が彼女になろうが、いろんな女の子と仲良くて、一緒に帰るのを断ればすぐ機嫌が悪くなる。


結局私が彼を拒んだ日から、特に何もないままだ。

高校が別になり、そこから一回も連絡をとっていない。多分自然消滅したんだろうと思う。


彼が私のことを元カノと思っているかどうかも怪しい。その程度の付き合いだった。


正直意味がわからなかった。結局なんで私に告白したのか。


一瞬でもときめいていた私の感情を返してほしい。

あんな、夕暮れ時の学校で告白なんて、漫画見たいと思ったのに。

好きな漫画のワンシーンとほんとに似てたんだもん。憧れだったんだもん。


恥ずかしい・・・。


失態だ。本当に失態。


そんな経験もあって、この人に悪気はなくとも似たようなこの人も好きにはなれそうにない。

まあほとんど関わらないだろうからいいかな。私は大人しくしてよう。


なんとなく教室内のグループが固まってきたある日のことだった。

一人の女の子が女子だけのクラス会をしようと計画してきた。


小規模なクラス会に誘われた時も明らかに全員誘っているわけじゃない。なんていうか、そう言うくだらないことをする子達とは仲良くなりたいなんて思わない。でもそれを言うのもきっと気分を悪くするんだろうな。


そんなことを私はずっと考えていた。誘ってくれた手前断るのも失礼に当たるだろう。ただ、やっぱり全員に声をかけないのはどうしても気に入らない。


天使と悪魔・・・。いや、この場合どっちも優しさの心だから天使と天使だろうか。違う種類の天使が脳に背反する。そして迷った挙句私は、


「ごめんなさい。私用事があるから帰るね。」


やってしまった。心の中は青ざめた感情でいっぱい。でも嫌なものは嫌だ。間違ってないぞ。私。よく言った。えらい。



その日の夜。少しビクビクしていたが、特に音沙汰なし。

いつもと変わらずお風呂上がりにふと携帯を覗くと、一件の不在着信と数件のラインが届いてた。


私は正直心臓が縮む思いだった。もしかしたら報復だろうか。

恐る恐る開いたらあまりにも意外で、

正直驚いた。だって相手があの快斗くんって人だったからそれはもうびっくり。


そこから数日、彼との連絡が続いた。

なぜかと言われると難しい。苦手なタイプだと思っていたけど、正直思っていた人とは程遠い。むしろ性格は逆だと言っても過言ではない。


そんな気持ちを皮切りにそこからやく2ヶ月。

特に大したことはしてないけど、彼と会って話すときは本当に楽しかった。

もしかしたら、彼氏彼女ってこんな感じなのかもしれないとすら思った。


・・・。


本当に楽しい。本当に素敵な人。ずっとこんな関係が続けば・・・。


・・・。


・・。


・。


「付き合ってください。」



意外だったことは、彼が告白してきたことじゃない。

私だってそこまで鈍感じゃない。彼の顔を見ればなんとなくわかる。


彼に告白されたときに真っ先に思い出したことに驚いてしまった。

・・・中学のことだった。


あの人を引きずっている気持ちなんてない。


だけど。


どうして、あの人の顔が、頭から離れない。


なんか言わなきゃ、こんな真剣に告白してくれているんだよ。


ちゃんと返事して。


(はぁ、なんで断るのせっかく誘ったのに。)


私もあなたに惹かれてると言わなきゃ。


(もういいよ。違うやつと帰るわ。)


・・・怖い。


(いいよ。あんなんほっとけよ。)


また・・・。


私は、



「ごめんなさい。付き合っている人がいます。」



今なんて言った?


彼の顔を見て自分がなんと返事したか理解した。滲んでる。感情が亡くなったいるのがわかる。


なにか言わなきゃ。


その時の私は必死だった。とにかく今のは違うと伝えなきゃ。


だけど何を言っても彼からの返事はもらえない。

聞いているようにも見えない。


「その、付き合わせてごめんね。今日はありがとう。その、電車くるから帰るね。」ようやく口を開いたと思ったが、彼からの返事はよくない。


絶対伝わってない。


訂正しないと・・・。


「その・・・うん。」


・・・私は最低だ。


彼の背中を見送りながら私も帰路につくつもりだったけど、動けない。


電車が来てしまった。もう呼び止めることはできない。

彼が乗る電車からたくさん人が降りてくる。

今の顔を人に見られるのはダメだ。


・・・でもよかった。

助かった。


ちょうど降ってきた雨のおかげで、私の顔が目立たなくて済む。


・・・。


彼の優しさが、この雨を降らせたのだろうか。


違う、私にそんな資格はない。



きっとこれは彼の涙だ。

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