2章  陽陰(ひかげ)に咲く花

「初めて彼女ができるかも!」


あいつから連絡が来るなんていつぶりだったかな。

いや、あいつの方から連絡きたのはもしかしたら初めてかもしれない。


嬉しいからこその報告。こいつのこの文にはまるで嫌味を感じない。

純粋な報告。

まあ、別にもう関係もないだろうし、応援してもいいか。


・・・。


関係ない、か。



俺とあいつは親友だった・・・。


高校の入学式が終わって数日が経っていたが、俺の高校生活は順風満帆なスタートを切った。

俺の人生はほとんど思うようにいってる。

強いてなんか挙げるとすれば、中学時代一番よくいたやつが俺と同じ高校に落ちたことくらいか。


少し違うな、この表現はあんまり正しくない。

俺はあいつから距離をおいた。


そしてあいつだけたまたま受験に失敗した。

・・・自業自得だ。勉強しない奴が悪い。


「馬鹿なやつ。」


あいつは要領が悪い。勉強だって俺よりしてたはずだ。なのに落ちた。


あいつが違う学校になって俺は・・・。



俺、は安堵の気持ち。



あいつとは小学校の頃から一緒にいた。

多分だけど当時、あいつの友達は俺しかいなかったと思う。


・・・あいつを一言で表すのは難しい。


人見知りなやつ。なんでもできそうでできないやつ。いつも俺の後ろにいるやつ。俺のいうことをなんでも受け入れてくれるやつ。

・・・誰にでも優しいやつ。


あいつがいい奴だってことは俺だけが理解しているはずだった。


「いつからだったかな、」


あいつとの関係に影が刺したのは中二の時。

ちょうど生徒会選挙が始まった時。


あいつが生徒会長になった時だ。



***



生徒会長は学生の投票で決まる。つまり立候補した奴らの人気投票みたいなもんだ。

聞けばあいつは先生に推薦されて立候補したらしい。

ここまでは別にいい。


が、あいつが生徒会長になるのはなんか応援できない。


・・・俺があいつより下なわけがない。

あいつより友達は多いし、よっぽど活動的だし、頭だって俺の方がいい。

スペックであいつに何一つ負ける気がしない。


だが俺が生徒会長に立候補することはなかった。

・・・怖かった。


「・・・あいつのくせに。」


最近あいつをいやに意識してしまう。


こんな感情、昔は全くなかった。


こんなの俺が持ってていいもんじゃない。


結局立候補者はあいつを入れて三人、そして結果はあいつの圧勝。


学校の掲示板に結果が張り出された瞬間、俺はあいつを嫌いになった。

と同時に1年生の頃を少し思い出した。


多分そん時から俺は“ざわつき”を予感していたんだと思う。


一年の最初たまたまクラスが一緒になった。

俺は真っ先に隣の奴と仲良くなったこともあり、あいつは孤立すると思っていた。

が、意外なことにあいつは学級委員長になった。


周りからチヤホヤされるあいつを見るのが辛かった。


あいつより俺の方が・・・


あいつなんか・・・


・・・。


俺の中の道徳の教科書が青ざめ始めた中一。



あん時の俺は分かってなかった。



多分あれは“嫉妬”だった。


***


生徒会選挙から数ヶ月が経った。

今の日常にあいつはいない。


中学なんて部活もクラスも違えばこんなもんだろう。

元々俺らは趣味も性格も全然違う。

行動パターンが違うからこそちょっと意識したら会うこともないもんだな。



「あ。久しぶり。」


「・・・おお、そうだな。」


そう考えてた矢先だ。

帰宅時間がたまたまかぶった。


「一緒かえろ〜。」


少し躊躇したが、断るもの不自然だ。



「こうして一緒に帰るの久しぶりだね〜。」


「だな〜。」

当たり前だ。俺が避けてんだから。


特に話すことなんてない。そういや前までこいつと何話してたっけな。


「そういえば、僕たちっていつから仲良かったっけね?」


「・・・。」

唐突に来た質問。

なんでこいつと仲良くなったかなんて覚えていない。

それくらい昔は自然だった。


あの質問に俺はなんて言ったか。

会話は覚えてないけど、あいつの寂しそうな顔がやけに印象的だったのは覚えてる。


俺はそれがなんか悔しくて、


「もうお前はいろんな友達がいるもんな。会長さん。」


こんな皮肉めいたことを言ってしまった。

なんとなくあいつを困らせたかった。


なのにあいつは即答だった。

「まあでも、優也と遊んでる時が一番楽しいよ。」


・・・こいつはこういうやつだ。


昔は光と影だった。

いや、今でも周りはそう思っている人が多いだろう。

だけど俺の心では逆だ。


こいつの光が俺を飲み込んで離さない。



結局中学で話したのはこれが最後だった。



***



あいつとのラインはわりかし続いた。

実際に会わないってなると気楽なもんだ。


なぜか文面になると昔に戻れる。


俺の時間は進んでる。


でもあいつとの時間だけは過去のものだ。


過去を引きずるなんて俺らしくもない。

もういい。



今日は俺が企画したクラス会の日だ。同じクラスになってはや2ヶ月。

文化祭が始まる前にみんなで集まれるいい機会だろう。


一人不参加者がいるけどまあいいか。

えっと、森さんだっけか。あの子入学式の日に一回しゃべったきりだな。


喫茶店を貸し切ったクラス会は成功。みんなめちゃくちゃ楽しんでくれるし俺も楽しい。


「てかさ、今日来てない森さん?だっけ?ちょっと空気よめないよね〜」

一人の女子がみんなに聞こえるように言っている。


・・・わざとだろうな。


気持ちはわかるけど、別にわざわざ言わないでいいだろとは思う。

ただ彼女の場合、用事って雰囲気じゃなく嫌だったから断った感じあったからな。

少し反感は買うだろうとは思ってたけどさ。


まあ、だからどうってわけじゃないけどな。


そういや、俺も昔似たようなことがあった。

確かクラス会当日に俺が風邪ひいたんだっけ。


中一最初のクラス会だった。そんな重要な回に休んだのは今考えても失態だ。


後で聞いた話だけど、そのクラス会にあいつは途中で抜けたらしい。

次の日の話題があいつに向いてホッとしたことを覚えてる。


今思えばあん時あいつは・・・。


いや、流石に考えすぎだ。


「ピロンッ」


ん。なんだ?


「応援してくれたのにごめん。振られちゃった笑」



・・・嬉しい、とは思えなかった。

あんないい奴をどんなつもりで、


自分の感情に驚く。あいつが絡むといつもこうだ。


・・・。


あいつには悪いけどこれはチャンスだと思った。


あいつともう一度・・・。



「わり、俺抜けるわ。」


「えぇ〜これ優也企画じゃん〜。この後カラオケなんでしょ?」

普段なら嬉しい限りだ。女の子達からの引き留めなんて。


でも、


「急用ができた。」


そいやこの子達さっきの、


・・・。


「そういやこの喫茶店紹介してくれたの森さんなんだよ。行けなくて申し訳ないってさ。」


スマートじゃないな。


あいつはあの時なんて言って抜けたんだろうか。

少なくともこんな恩着せがましくないだろう。



(僕は先頭に立つリーダーにはなれません。だからみんなの後ろに立って遅れた人の背中をそっと押す。そんなリーダーになれるように頑張ります。)


なんで今こんなことを思い出したか知らないが、確か選挙演説であいつはこんなことを言っていた。


この場面であいつならどう言っただろうか。


・・・。


俺は俺だ。変わる気はない。


でも。いやだからこそだ。



今更俺が友達面してあいつは喜ぶだろうか。


・・・。


決まってるか。



快斗はああいう奴だからな。



いっちょ相談に乗ってやっか。


・・・。


きっともう、今の俺の中に影はいない。







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