第7話(外伝)
食堂を抜けてすぐの所に、会議室があった。
俺はそこでただひとり、身を潜めた。
俺は車田 京介。ボクサーだ。
【1,6,9】【密告:絶対】
ふと、タブレットに目を落とした。
握り拳は恐怖に塗れた。
キョウスケ「...なんなんだよ、本当に...。」
声を出さないと、まるで耐えられなかった。
ルールを理解することで精一杯で、
変に落ち着いている他人の姿が恐怖だった。
自分の馬鹿を、嫌というほど恨んだ。
俺は、密告をしなければいけないんだ。
だってそうだろう、しょうがないだろ。
誰だって、死にたくないんだ。
死ぬくらいなら、殺す方がマシだ。
決意を固めるのに、かなりの時間がかかってしまった。だが、それも、もう終わりらしい。
会議室にノック音が響いた。
???「誰か、いるのかしら?」
キョウスケ「...ああ、車田だ。」
???「そう。入るわね。」
皇が、姿を現した。
レイナ「入っても良かったかしら?」
キョウスケ「気にせんでくれ。俺も話し相手が欲しかった。」
皇が、向かいの席に座った。
レイナ「...あなた、1人だと結構センチメンタルなんですのね。」
キョウスケ「はは、悪いかよ。」
レイナ「いえ、人間味があっていいと思いましてよ。」
キョウスケ「そうかよ...。」
キョウスケ「...なぁ、皇よぉ。」
レイナ「どうしましたの?」
キョウスケ「お前さんは、密告のほうはどうなんだ?」
レイナ「...自由、ですわよ。」
キョウスケ「そうかい。」
レイナ「ところで貴方。まるで死期を悟っている、といった目をしていますが。そういったNG行動ですの?」
キョウスケ「いいや、そうじゃない。ただな、このゲームが怖いってだけだ。俺の密告は絶対だ。できれば、早いうちに終わらせちまいたい。」
レイナ「...そうなんですのね。」
キョウスケ「なぁ、皇。」
俺の目は、怖かったと思う。
......仕方ないだろ...。
やらなきゃ...俺が死ぬんだ。
レイナ「はい?」
キョウスケ「密告、させてくれねぇか。」
レイナ「えっ?」
キョウスケ「聞こえなかったか...?密告。させてくれよ。」
レイナ「......まさか貴方、キングのカードでも持っているんですの?」
キョウスケ「ん?いや、持ってないが...」
レイナ「そう、ですの。それでは、ほかの絵札はどうかしら?」
キョウスケ「...そこまで言わなきゃいけねぇんか?」
レイナ「...いえ。少し調子に乗りましたわ。キングを持っていない。それだけ分かれば十分ですわ。」
俺は、こいつが何を言っているのか分からなかった。
もう少し落ち着いていればその意図に気づけたかもしれないが...。
レイナ「そんな貴方に、嬉しいお知らせがございましてよ。」
キョウスケ「そいつは気になるな。」
レイナ「わたくしは、ジョーカーを持っています。」
キョウスケ「はぁ?」
皇は、淡々と話し始めた。
レイナ「ジョーカーの能力をお忘れで?自分の死を、2度回避できますのよ。」
キョウスケ「......」
レイナ「分かりませんの?わたくしの能力を1回分、貴方のために使用してあげると言っているのです。」
キョウスケ「...な......お前さん....」
レイナ「ええ、いいんですのよ。」
レイナ「それでは、あなたがわたくしに密告するべき、最弱のカードを教えて差し上げますわ。」
キョウスケ「...あぁ、頼む。」
俺は、相当に焦っていた。
当然、相手に察されて、利用されるほどに。
思考など、回るはずがなかった。
レイナ「4、ですわ。」
レイナ「それでは、次は貴方の番です。わたくしにそのカードを密告してくださいまし。」
キョウスケ「...あぁ、わかった...!」
俺は、あまりにも正常でなかった。絶望からの反動で、希望の感情が湧き上がった。
目の前のリターンが大きすぎて、疑うことなど、できなかった。
俺は、まるで機械にでもなったかのように、タブレットを操作した。
レイナ「それでは、4のボタンを押してくださいまし。」
キョウスケ「お前さん、本当にありがとな。」
レイナ「お礼には及びませんわ。それでは、わたくしはこれで。」
皇は、席を立った。
俺は...【4】の項目をタップした。
レイナ「それと貴方、いくら焦っていようと、それを他人に察されてはお終いですわよ。」
皇は、部屋を出た。扉の閉まる音と同時に、放送が流れた。
<車田 京介 が、皇 麗奈 の密告に失敗しました。>
...え?
瞬間、首に激痛が走った。
キョウスケ「ぐあぁっ!」
キョウスケ「嘘...だろ...!?」
皇は、俺を騙した。
改めて俺は、自分の馬鹿さを怨んだ。
だが、そんなことをしている場合ではなかった。
俺は、最期の力を振り絞り、自らの左手首に思い切り噛み付いた。
キョウスケ「くっ...!」
血が湧き出る。
俺は、その血を右手で受け、
机上に最期のメッセージを残した。
キョウスケ「...そうかよ、そうかよ......。」
俺は、笑った。
きっとそれは、笑みではなかった。
キョウスケ「でもよ......。俺は、もう後悔してねぇよ。」
薄れる意識のなかで、独白を続けた。
キョウスケ「お前さんみたいな“悪人”ですら、信じちまった自分の馬鹿さをな。後悔してねぇってんだ。」
死期をすぐそこに悟った。
キョウスケ「俺は馬鹿だ。大馬鹿者だ。だがな......。」
誰かがここに居てくれれば。
最期を見送ってくれれば。
いや、かえって、俺らしいのかもな...。
キョウスケ「満足だぜ、俺はな...。」
疑えない自分の馬鹿さを呪うのは、
もう終わりだ。
キョウスケ「信じ抜けて、死ねることがよぉ!」
俺は、恐怖に染まっていた握り拳を、
希望に変えて天に掲げた。
[生存者、8名。]
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