3「二人でこの酒池肉林に溺れよう!」

「じゃあ、今日はウチの連勤終了祝いに、かんぱーい!」


 俺たちは軽く缶をぶつけ合い、互いにチューハイを口に含む。


「理人ぉー。今日はお姉さんの為にどんなおいしいおつまみを作ってくれるのかな

ぁ?」


 今では名前で呼び合うくらいになり、おつまみを任されるようにもなった。

 あれ? 助け合いって何だっけ?


「助け合いという割には、俺が響香さんを助けてばかりでは?」


「うーん? じゃあウチは料理の代わりに、理人の心を温めてあげよう!」


「またそういう……。温めは結構です。箸とビニール袋も要らないです」


「あれぇー? ここ、部屋じゃなくてコンビニだったっけ?」


「それはさておき、響香さんが持ちかえってくれた、このコンビニの唐揚げを使って〈レッドチキン〉を作りましょうか。作ると言っても、味付けをするようなものなので、フライパンと調味料があれば大丈夫です」


 まずはフライパンに調味料を入れる。ごま油と酢、砂糖に醤油、にんにくチ

ューブをそれぞれ小さじ一杯。酒は大さじ一杯ほど。


「響香さん、どれくらい辛いのがお好みですか?」


「お姉さんはね、恋も料理もホットなのが大好きなの。いつだって男に刺激を求めてしまう、罪な女だから……うふっ」


「はい。適当に辛くしておきます」


「ちょっとぉ! 辛いのは好きだけど辛辣な対応はイヤぁー!」


 響香さんを放置して、俺は豆板醤を大さじ二杯ほど加える。通常量より多めだが、響香さんには丁度いいくらいだろう。


「あとは沸騰するまで弱火で加熱して、と……」


 フライパンからほんのり鼻を突くような、辛みのある匂いがしてきた。

 そこにレンジで温めたコンビニの唐揚げを加え、タレを絡める。


「皿に盛りつけて青ネギとチーズを散らして――、〈レッドチキン〉完成です!」


「わー……! なにこれぇ。人の欲望を詰め込んだような、罪作りな料理! 理人、早速お酒と一緒に食べよう!」


 俺たちは食卓に戻り、新しくビールの缶を開けてから箸を手にする。

 先ほど散らしたチーズが溶け始め、食欲を加速させる見た目に変わって

いく。

 目の前の響香さんは大きく喉を慣らし、俺に目配せをする。

 俺たちは「いただきます」をして、それぞれが好きなように料理を味わう。

 響香さんは先にビールで口を潤してからレッドチキンを一気に頬張る!


「っ、うぁー……! やばい、これ。冷えた口の中と喉に、熱々の唐揚げが『こんにちは!』 みたいにくる感じに涙が出そう! 最高のコンビね!」


「じゃあ俺はチキンから」


 持ち上げた唐揚げからチーズが伸び、眩しいほどの赤と黄色が空腹の俺を誘う。

 ゆっくりと口に入れて咀嚼すると、程よい辛みと熱さが口いっぱいに広がっていく。


「ごめん、理人。今日はダメになっちゃうかもしれない! ほらほら、キミも飲んで!」


 響香さんはまだビールを飲んでいる最中の俺に、レモンチューハイを差し出す。

 唐揚げにレモン。多分これも、絶対にうまいやつだ……!


「二人でこの酒池肉林に溺れよう!」



「その言葉の使い方は間違っていますけど……いただきます!」


 酒が先か、つまみが先か。人それぞれ、自由な飲み方がある。

 正解はない。うまいと思えるその食べ方こそが、その人にとっての正

義だ。

 欲望に溺れた俺たちはレッドチキンを様々なお酒と一緒に味わい、楽

しい飲み会を続けた。

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