4「わーい! いただきます!」

「……さて、この話は止めて調理を再開しようか!」


 とはいえ調理自体は簡単なもので、殆ど炒めるだけだ。


「まずはフライパンにニンニクのみじん切りと、油を少量入れて温める」

 加熱するとニンニクの色が変わり、徐々にスパイシーな匂いが漏れてくる。

「香りが出てきたら切ったソーセージとキャベツを入れて、火が通った後で調味料

だ」


「おいしそうな匂いー! やっぱりたまなって何にでも使えるし最高の食材だよね!」


「たまな?」

「山形ではキャベツをたまなって言うの。大きくて値段も安くて、五十円とかで売っている時もあるよ! この辺のスーパーで買うと小さくても百円は超えるよね。『どだなだず!』って叫びたくなるよ」

「知らない単語の解説中に知らない単語を混ぜないでくれる?」

「フライパンの中はいい具合に混ざっているのに?」


 お隣JKに指摘され、俺は慌てて炒める手を動かす。

「ちなみに『どだなだず』は『どないやねん!』的なニュアンスだよ」

「なるほど。方言が別の方言になったのは無視するとしよう」


 俺は丼にご飯をよそい、炒め終えた食材を乗せる。最後に中央にバターと黒胡椒をお座りさせれば――。


「よし、〈キャベツのガーリックバター丼〉の完成だ。簡単だから、君でも作れる

と思うよ。包丁くらいは握ったことあるだろう?」


「うん! 攻撃力高くてすごく好き」

「俺と君とで包丁の用途が違うのは分かった」

「うそうそ。ゲームでの話ね! それよりも……」


 お隣JKは丼を持ち上げ、口元に涎を滲ませながら恍惚の表情を浮かべている。

 まるで誕生日に玩具を買って貰った子どもだな。かわいいところもあるじゃないか。

「そうだな。そろそろ食べようか。そこのテーブルを使っていいぞ」


「わーい! いただきます!」


 俺たちは丼と箸を手に着席し、「いただきます!」と声を揃える。

 持ち上げられた白米を黄金色に染めるバターは、まるで雲海を照らす日の出のようだ。

 そんな食卓の絶景を口に運んだお隣JKは、目を細め、ゆっくりと咀嚼しながら味わう。


「ふわぁ……たまなとソーセージをニンニクで炒めたものが、こんなにおいしいなんて。たまなも、山形に居る時は何も思わず食べていたのに、不思議」



 手作りのご飯が久々だからか、目尻には僅かに涙さえ浮かべているように見えた。


「うーん! コンビニのお弁当とは全然違う! ソーセージから出るうま味と、たまなの甘さがしあわせぇ……!」


「そうだな。香ばしいバターはもちろん、ニンニクと黒胡椒のおかげで刺激もある。キャベツの柔らかなシャキシャキ感が楽しい」


 お隣JKから貰った食材一つで、料理がこうも変わるなんて。山形のキャベツもとい、たまなのおいしさがそうさせるのだろうか。

 互いに感想を呟いてから、俺たちの手は止まることを知らない。


「お米とたまな、たまなとソーセージ。ソーセージとお米。えへへ。一つの丼でも食べ方を変えると、味が変わって楽しい!」


 一口含んでは笑みを浮かべ、ご飯を持ち上げる度にその目に味への期待が滲む。

 飽きないという言葉通り、彼女は食べ終えるまでずっと最初の一口を繰り返すように、とっても幸せそうな顔を何度も見せてくれたのだった。

 元々笑顔が可愛い子だと思ったけど、俺の作った料理がその笑顔を作っているのだと思うと、何だか面はゆい。

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