5「これから二人でいっぱい、ナイショのことをしていこうね!」」

「おいしかったー! ごちそうさまです、お兄さん!」


「はい。お粗末様でした」


 お隣JKは米粒一つ残さず、綺麗に平らげてくれた。

 自分の料理を振舞った相手に喜んで貰えるのはとても嬉しい。食べてくれた相手の、幸せそうな笑顔を見て、改めて実感する。


「私、一人暮らしを始めてずっと心細かったの。でもお兄さんがご飯を作ってくれて、料理する姿も素敵で、味もおいしくて……何だか、すごく幸せな感じ。ふへへ」


 照れ臭そうに笑うお隣JKだったが、女の子が見知らぬ土地で一人暮らす不安は、想像に難くない。


「だからありがとう、お兄さん。やっぱりお礼をさせて!」


「いや、野菜を分けて貰えただけで十分だよ」

「だめだめ! お兄さんが良くても私が納得できないの! よし……決めた!」


「今度から私のことを、結菜って呼んで? 私はお兄さんのことを、りーくんって呼んであげるから!」


 お隣JKはテーブルに手を突いて、身を乗り出して俺に笑いかけてくる。

 その頬に一粒だけごはん粒をつけながら、満面の笑みで。

 俺はその提案に思わず首を傾げた後で、つい噴き出してしまった。


「あはは。素敵なお礼だな? じゃあそれでいいよ。これからよろしく、結菜」

「うんっ! りーくんも、これからよろしく!」


 俺たちは何故か流れで握手をして、名前を呼び合った。

 結菜の手は小さくて、だけど温かくて。春の陽気のようだった。


「ところで……結菜。ずっと気になっていたことを聞いていいか?」

「仕方ないなぁ。愛用の下着は明るい色が多めです!」

「俺は暗い色が多いです。そうじゃなくて……結菜ってもしかして、艶姫さんと知り合いか? 実はリア友同士とか、その──」


 突然途切れた配信。悲鳴。直後に飛び込んできた結菜。そして彼女の部屋で見たパソコンのモニタに映る画面はどこか、見覚えのあるものだった。

 その答えを求める俺に、結菜は一瞬驚いたけれど。すぐに口元に笑みを浮かべる。


「えへへ。本当は秘密だけど、りーくんには教えてあげる。どうやら君は、【私】の大ファンみたいだから」


「ねえ、りーくん。これから二人でいっぱい、ナイショのことをしていこうね!」


 そう呟いて結菜はスマホを取り出し、画面にツイッターのプロフィールを表示する。

 そこには俺のタブレットに貼られているシールと同じアイコンを使っているアカウントが浮かんでいる。そしてその横には、俺の『推し』の名前が並び――。


「私はりーくんの大好きな配信者こと、艶姫でーす!」


 何より配信用に『作った』その少し低い声が、「桜木結菜」が、俺が愛してやまない「艶姫さん」であることを証明してくれた。



 推しの配信者が。俺の名を呼ぶ。

 推しの配信者が、俺の飯を食べる。

 推しの配信者が――、

 お隣に引っ越してきた、女子高生でした。

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